チョコ届け(毎週ショートショートnote)

テーブルの上に買い集めた材料を並べる。ビターにミルク、抹茶にストロベリーにホワイトチョコ、それにシリコンの型。
それぞれのチョコを刻み湯煎で溶かす。一番簡単で失敗が少ない溶かして型に流すだけのチョコレート。
だけど、ただ溶かして作るだけでは味気ないから、二層チョコとマーブル模様の二つを作る。
まずは二層チョコから。溶かしたチョコを型に流し込み、型にチョコがへばりつかせ型をひっくり返し、大理石の板の上に余分なチョコを落とす。そうして器状になったチョコをしばし放置。
その間に、大理石の板の上に流したチョコが固まらないうちに、色の違うチョコを流して竹串で軽く混ぜて放置。
器状に固まったチョコに、色の違うチョコを流し固める。そのチョコの上に小さな砂糖菓子やチョコ、アーモンドを飾りを入れたいけれど今回はパス。
あとは全部固まるまでしばし休憩。
「リエル、ホットチョコ飲む?」
「うん飲む」
母さんが温めたミルクに残ったチョコを混ぜ、リエルの手にホットチョコが入ったマグカップを両手で受け取る。
「あ、半月お月様」
すっかり暗くなった窓の外に半月お月様。
その月に、船が降りようとしている。
月の昼間は110℃、夜は-170
℃。その寒暖差は280℃にもなる。
その寒暖差に耐えられるステーションが月に設置されている。
「リエル、チョコが固まったわ。マグカップの中のチョコペンを出すわよ」
「うん!」
マグカップにはったお湯で梳かされたチョコペンを引き上げ、型から外したチョコに絵を文字を書き入れていく。
「うん、いい出来よ」
そうして、出来上がったそれを転送する。
転送先は月。月ステーション。
月には食があり、食部分は太陽光はもちろん電波も届かない。寒暖差に耐えられる月ステーションでも、稼動出来るのは上弦の半月から下弦の半月までの間。その期間に合わせ、地球から月へと4日ほどかけて船が行き来する。
「月に届いたかな?」
転送は、今のところ食べられる物しか出来ず、プリンのようなやわらかい物は五分五分の割合で失敗する。
なんでも食品をデジタル化し、受け取り側でその食品の再構築がむずかしいらしい。
なので月クルーの子ども達は、チョコを手作り転送する。
そうして翌朝、
「ちゃんと届いたよ」
録画されたその画像にはリエルのパパの笑顔と、「パパへ♡リエル」と描かれたチョコレート。


お題はこちらの「デジタルバレンタイン」のお題でSFチックなSS