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フランスの田舎でチーズ修行

シェーヴルのチーズはお好き?その2

上の写真の建物がすべて私がお世話になったピエールとドミニクの家です。と言っても半分以上は山羊チーズの仕事関係で山羊小屋やアトリエなどで一部はシャンブル・ドート(民宿)、ピエールとドミニク一家は5人家族ですが基本的には次女メラニー6歳と3人住まいです。そこにある日アジア人の妙な女がやって来た訳です。

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それは私の事。私の研修は一見ピエールには何の役にも立たなかったし、私にしても履歴書に書けるほど大した仕事していないし(というか出来ないし)な〜んていじけてみたり。でも本人にとっては一生忘れない一週間であり、貴重な体験となった訳で、これはピエールとドミニク(そしてメラニー)のおかげである。

研修の流れはその1でざっと簡単に書いたが(是非参照よろしく)、実際チーズ生産者の仕事はそんな単純ではなく、集中力と厳格さをかなり要するものと納得したのが、確か3日目位の作業中に突然ピエールが気でも狂ったのかと思うくらい大きな声で[ああ〜っ]と叫んだ時である。何かが上手くいかなかったようだ。そしてその勢いで1つのバケツを倒してしまい、中の液体が流れ出た。私はそばにいなかったので直接関係ないが、もしかしたら何時もいない、しかも素人が同じ空間にいただけでも調子が狂ってしまったかも節が私の中では濃厚であった。それだけ正確さが要求される仕事である。

そこで日本でフレンチレストランで働いていた時のシェフをふと思い出した。小さなレストランで、キュイジーヌ(台所)は2階にあり、戸も閉まっているので(調理人以外は立入禁止)基本的には物音や話し声は全く聞こえないのだが、1日に数回シェフの凄い怒鳴り声が(シェフは通常穏やか)建物内に響き渡ったのを覚えている。それが始まると下の階の常連のお客様も[おーまた始まったねえ]と、しまいにはそれが聞こえないと何か物足りないと言うくらいであった。他のレストランで働いていた子達も同じだと言っていた。ピエールにもその時のシェフに近いものを見た気がした。

フランスのチーズ作りも同じなのだと悟った。

そうこうしているうちに最終日のマルシェの日はいよいよやって来た。と言ってもピエールとメラニーと私の3人だけ村の中心部まで出発。ドミニクは来なかった。結局ドミニクと私の間にはピエールとの間にはない女同士の友情のようなものが芽生えていたと思う。言葉が完璧に伝わらなくともゆっくりと話しかけてくれて常に奥ゆかしい態度のドミニクは信頼出来る人で好感がもてた。

マルシェは小さい規模のもので、各土曜日に開催され、参加者も客も皆村の住人だった様な気がする。だったら物々交換にしたら良いのではと思った位。しかしながらそんな中でピエールのチーズは目立っていたし人気も1番だと思った。ほぼ半日昼過ぎまでいたわけだがほとんどコーヒーを飲んだりして談笑したり、交代で他のスタンド(と言っても地面にシートを敷いただけでテーブルはなかったと思う)を冷やかしたり、のんびり田舎でヴァカンス(ヴァケーション)を楽しんだようであった。なんて贅沢な。

私の草集めも、山羊達との散歩も(これも是非その1参照よろしく)やっとこれで報われた。

翌日ピエールに駅まで送ってもらい、リヨンに戻って来た。またおいでと言ってくれたので厚かましくもまたその年の夏に訪ねて行ってしまった。それだけ居心地が良かったんだろうなあ、でも今度はスタジエ(研修生)としてではなくて。近くの湖に連れて行ってもらったりして、まるで親戚のようによくしてもらった。

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話しは変わるが、今から2,3年前に仕事でブリーチーズ(牛乳からできた白カビのチーズ。カマンベールに似ている)生産者のアトリエ、カーヴ(そこは小さくてかわいい博物館もあった)を見学するという調理製菓の専門学校の生徒さんツアーの通訳として同行させていただいた事がある。もちろんチーズはおいしいし(多勢だったので、テイスティングの時などパーティー形式にしてくれて数種類のチーズにパンとワインあるいは葡萄ジュースを用意してくれていた)、製造過程の実習は衛生問題上無理だが説明、またA.O.P.についてなど詳しく話してくれた。

さて、A.O.Pとは何か?フランスではチーズだけではなくワインなどにも必要な、要するに優れた農産物を国が保証する制度。勿論認可されるにはそれなりの厳しく定められた制限にかなっていないといけないのである。

A=Appellation アペラシオン           O=d'Origine     ドリジン                P=protégée      プロテジェ 

日本語に訳すると原産地保護認定制度。チーズは種類によって色々な形やサイズがあるけど、それは偶然でもデザインでもなく、A.O.Pで決められている。例えば、カマンベールと言ったら皆同じサイズでなくてはいけない。そう言えば、我が家にもあるけどプラスチックで出来たカマンベール専用の保存ケースというのがあって、カマンベールチーズがスッポリ入る様に出来ている(これお土産としてオススメ)。ピエールのアトリエにはもっと小さくて背の高いいくつもの同じ型が(写真の左下方)ズラリと並んでいたが、その型もA.O.P.で決められている。

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フランスではとても重要で、定められた生産量、製造過程や仕上げ等違反して裁判沙汰になったり、罰金要求されたりなどと言う話もある位厳格なのである。チーズ売り場でA.O.P.のラベルのついていないものがあったら、そのチーズはその保証がない事になるのである。

そんな事も加えて、日本からチーズをもっと深く知る為の研修を展開させていっても良いのではと思った。ワインと同様、チーズも郷土とのつながりが重要であり、また、フランスのガストロノミーを学ぶ上で欠かせない要因なのだから。現時点、日本では情報と知識は完璧に近い、いやそれ以上に広まっているが、少しでも実際に触れて見ると全然違うのにと心から思う。

その年の秋には私はボルドーに引っ越し、その後はリヨンにいた時よりも簡単にアンプルピュイまで行けなくなってしまった。暫くは電話も何回かした。が、今では段々遠のいてしまったな…。しかしながら今でもあのチーズの味わいと思い出は鮮明に記憶に残っている。今でもチーズ作り続けているのかな。


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