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シャンティイでシャンティイを味わう


シャンティイ城はフランスのオワーズ県シャンティイ市に位置するルネッサンススタイルの城である。
パリより北に40kmと少々なので通常車で1時間もかからない。

しかしながら公共の交通の便の関係か、ヴェルサイユやフォンテーヌブローの城に比べると観光で行く人は意外に多くないのではと察する。先ずは一度訪れてもらいたいところであるにもかかわらず。

グラン(大)・シャトー、プティ(小)・シャトーからなる城そのものの建物としての美しさ、現在(1898年以来)はコンデ美術館として所蔵作品2万点以上の、主にイタリア、そしてフランス絵画を所有。城自体はフランス最後の国王であったルイ・フィリップの息子、オマール公アンリ・ドルレアンの命によって再建されたのだが、そのオマール公は大変熱心な芸術品収集家であったところがこの城の運命を大きく動かしたのであった。

1897年にオマール公が亡くなった時に城とコレクションがフランス学士院に遺贈されたのだが、コレクションの内容はラファエロ、フラ・アンジェリコ、ニコラ・ブッサン、アントワーヌ・ヴァトー、ドミニク・アングル…、といった美術ファンが聞いたら目眩がしそうなアーティスト達の作品がズラリ。

しかも条件として、これらの作品は一切他に貸し出ししてはいけないことと、展示方法も変えてはいけない。おかげで我々愛好家達はここの美術館でしか素晴らしい貴重な作品を鑑賞出来ないのである。作品が傷まないようにするには最高の手段であろう。

「では、具体的にどんな絵があるの?」

という方のために今回は一点だけ紹介しよう。

ジャン=バプティスト・カミーユ・コロ
(1796-1875)
<田舎の風景でのコンサート>
1857年
コンデ美術館


バルビゾン派として有名な、そしてあのベルト・モリゾの先生として知られているコロの作品。深緑の美しさ、銀色が点在していてまるで宝石のよう。少女達の髪型が素敵、服装がそれぞれ似合っていて、また肌が若々しくて美しい。
手前のコンサートグループからは音楽が聞こえてきそう。
後方にもグループが、こちらは全く違う事をしている。

湖の横と木々の垂直ラインが混ざり合って見事に安定感を出しているが、空は曇っている。
ルーヴル美術館にはコロ作の<モルトフォンテーヌの思い出>というやはり大好きな一枚があるのだが、それさえも思い出すコロ独自のスタイルだ。

<モルトフォンテーヌの思い出>

シャンティイ城は他に馬の博物館、馬のショーも有名で、私も過去に一度だけ観覧したがこれもお勧めである。


しかしながらその続きはまた今度。

実は一度、プライヴェートでシャンティイ城まで足を運んだ事があるので今回はその事を自慢したい。

それは何を隠そう、かの有名なホイップクリームを味わう為である。
噂には聞いていたのだが、クレーム・シャンティイの名は地名から来たのだと。そしてその味わい、食感ともに特別なのだと。そう聞くと食べて、いや舐めてでも良いから試してみたくなるではないか。

そこで仕事の休みの日を利用して、私はRERという高速郊外線でシャンティイ駅まで、そしてそこから城までは徒歩で.計一時間弱かけて到着した。

先ずは城内をざっと見学。大好きなコロの作品を中心に、また私は図書室も愛しているのでそこでもゆっくり時間を取る。そんなに広くはないが、通常特に午前中は空いているので急かされることなく自分の世界を楽しめる最高の贅沢の時を過ごせる。本に触れるのは不可能であるにしても、大学時代は決してそんなに思ったことなかったのに、年をとるにつれて(?)美術館に行くと必ずアトリエや図書室、書斎などで「ほけ〜っ」とする時を何より大切にするようになった。

さて、思う存分コロの絵と図書室を満喫したので庭に向かう。
先ずはフランス庭園へ。設計者はあのヴェルサイユ宮殿の庭と同様、アンドレ・ルノートル。天気はすこぶる良かったので充分堪能する事が可能であった。

その後はあのマリー・アントワネットがシャンティイを訪れた時人目で気に入り、ヴェルサイユに同じ様な物を造らせた<王妃の村里>にまっしぐら。今回の目的はそこにある<Aux Goûters Champêtres(オー・グテー・シャンペトル)>というレストランである。

他にもレストランはあるけれど、天気が良かったので庭のテラスで食べたかった。サーヴィスの女性はさっぱりとした明るい感じの方で、会話の内容から私がクレーム・シャンティイ目当てに来たというのを人目で見抜いていた。まさにその通りではあったが、一応ランチなので甘いものだけでもなあと思い、グラスのワインと鴨のコンフィ(鴨を低温油でじっくり煮たもの)、そしてデザートに苺の上にどど〜んとクレーム・シャンティイをのせたものを注文した。

一見ヴォリューム満点そうで、実際食べ応えがあった。鴨のコンフィだけでもお腹はいっぱいであったが、目の前に出てきた苺シャンティイはあまりにも美しく、「これが別腹というもの。」と、改めて人間の(私の?)可能性を思い知った。

クレーム・シャンティイそのものの感想といえば、<もったり>という食感の表現が的確と言えよう。ほんのり甘いが、それが苺の自然の甘さとピッタリマッチする。

気に入った。これは私の好みである。

しかし、普通のホイップクリームとの違いは一体どこからやってくるのであろうか?こんなの他では味わったことがない。

その後調べてみたところ、クリームを泡立てる手順に特別これといった秘訣はなさそうだが、使用するのは乳脂肪分30%以上の純生クリームで、植物性は使わないことがポイントのようだ。

では、何故シャンティイと言う名がついたのか?という素朴な疑問に対して、よく発案者として名前が出てくるのが17世紀半ばにシャンティイ城のメートル・ドテル(給仕長)として知られていたフランソワ・ヴァテールであったが、一方、それ以前にイタリアからアンリ2世のもとに嫁いできたカトリーヌ・ド・メディシスが連れて来たパティシエが既にホイップクリームを作っていたという話もある。

まあ、一番それらしいのはおそらくシャンティイ城で一日を過していただければ判ると思うけれど、宴の場としても当時注目されたシャンティイ城はこの美味しいクリームに相応しいからではないであろうか。


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