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オニオングラタンスープの誘惑


「ああ、またオニオングラタンスープを注文してしまったぁ〜。」と、心の中で叫んでみたもののもう遅い。

仕事の関係で、ランチタイムを逃してしまうことが多い。14時以降はレストランだとラストオーダーにも間に合わない。
バゲットサンドの立ち食いもあまりしたくない。どっしり落ち着いて座りたいのだ。

そんな時は近場のカフェに入ればオープンサンドやクロックムッシュなどにはありつける。合わせて私の場合はワイン。
でもそろそろ秋も深まってくるとアレが食べたくなる。アレとは何か?

そう、アツアツのオニオングラタンスープ!通常はブラッスリーで前菜として出しているのだが、なにせたっぷり玉ねぎにトーストパン、そしてどっしりチーズがのっているので、これ一品でメインディッシュとして充分なのだ。


ある日の午後15時頃、仕事がサン・ジェルマン・デ・プレで終わり、朝が早かったので流石に疲れていた。こういう時はレンヌ通り、或いはマルシェ付近をあまり難しいことを考えずにふらふらすると回復するので、マルシェ内のユニクロやマーク・アンド・スペンサーなどを覗き回った。

マルシェの周りはレストランやカフェで囲まれていた。帰りにそんなあたりをうろついていてふと目にとまったのが一人の女性。カフェのテラスで本を読んでいた。なんの本かはチェックしなかったが、テーブルの上にはオニオングラタンスープが半分位残っていたココットとパン籠に白ワインが少し残っていたグラス。テラス席に一人であったが、読書に集中していた様子。
その姿はとても自然でカッコよかった。

それ以来私も昼食を食べはぐれた時はカフェ、或いはブラッスリーでオニオングラタンスープと読書、そして一杯だけグラスワインでゆっくりできる時は夕方までぼんやりすることが多くなった。

それにしても同じオニオングラタンスープでもパリ価格は様々。平均すると10ユーロ前後だが、中には20~25ユーロ位のところもある。
私から見れば何が良いのかわからないが、そんな店がガイドブックなどで<パリで一番>と紹介されているのだから下調べは怠れないとつくづく思う。 
誰かが一言褒めれば、それが広がってしまうのだから。期待して食べてみると「ウッ、しょっぱい!」なんて事になる。 値段が高いからといって、必ずしも高級食材を使っているわけでもないし、例えばそこの椅子が好き、テーブルが好き、給仕人が格好良いなどの理由でもない限りオニオングラタンスープに関しては味にさほどの違いはないとわたし的に思う。


確かにオニオングラタンスープのフランス食物史の中での存在性は興味深い事は認める。
様々なストーリーが背景に潜んでいる。

調べたところ、古代ローマの時代には既に存在していたということであるが、当時は玉ねぎをビーフのコンソメスープで煮て、それとパンだけの食事で、<貧乏人のスープ>と呼ばれていたそうだ。
玉ねぎは栽培も簡単だったので、料理には幅広く使われていたと言うことである。

それ以降、この素朴なスープは酒を飲み過ぎた翌日に飲まれたりなど庶民の日常の食生活シーンの中で活躍して来た。


ところが、そんなオニオングラタンスープに全然違ったイメージを与えたのが何と、かのルイ15世だったらしい。
そもそも王様というのは狩猟が大好きでルイ15世も例外ではない。もちろんルイ16世のような狩りより錠前作りが好きという方もいらしたが。
ルイ13世の狩猟の館がヴェルサイユ宮殿のもとであったのは有名な話であるが、ルイ15世も狩りに夢中になって帰りが遅くなると暗くなって危ないので館に泊まることも結構あったそう。
そんなある日、夜遅くにとてもお腹がすいて我慢出来なくなり、台所をあさったところ見つかったのが玉ねぎとバターとシャンパーニュだけ。で、なんとか出来たのがオリジナルのオニオンスープだそう。

えー?ホントかなあ?あまり美味しそうな感じではないけれど?…、でもルイ15世は器用そうだからなんとかこなしてしまいそうでもあるけれど。

最近思うのだけれど、人気の料理ってもとをたどってみるとしばしば偶然やら失敗やら…、また、ルイ15世のように夜中にお腹がすいたりの困った状況で生まれることが多い様な気がする。

そして発案されたものか広がって行き、それを著名な作家が作品の中に登場させてハクがついていくパターンや、映画のヮンシーンで主人公が食べていたりしてポピュラー化して来ていると言ってよいのでは?

トーストパンの上にチーズをのせてオーブンに入れるのもこの頃からではないかと言われている。そうなってくると身体もより暖まるしボリューム満点なので、肉体労働の前後や夜中に大騒ぎした後にもってこいになる。19世紀以降はそうやって
<庶民のスター>になって来たらしい。

いずれにしても、あのカフェで本を読みながらのあの彼女のイメージとはかけ離れていることは確実であるにしても、オニオングラタンスープとは、宮廷の宴の際の前菜というより夜食等、ちょいと正規の食事のタイミングを逃したときに欠かせない料理として活躍してくれたイメージがかなり強い。


イメージ大衆化のついでに、とあるものを紹介したい。

粉末インスタントスープである。

これはフランスなら大抵のスーパーマーケットで手に入る。
「えー冗談でしょ?」と言う声が聞こえてくる。実際手作りにはかなわないが、冬の寒い日に身体を暖めるときに役立つ。日本からの旅行の際のお土産にも役立つ。クルトンが中に入っているのでアツアツのお湯を注ぐだけ。チーズを浮かべてオーブンで仕上げしても良さそう。
これは種類が豊富なのでチキンスープやクリームスープなどもお試しあれ。


最後に、折角なのでオニオンコンフィ(薄切りの玉ねぎを弱火でバターで炒めてワインなどを加えてアルコール分をとばしてからじっくりと飴色にしてなる迄加熱を続けていく)を使って応用料理をご紹介。私の好きなクレープ専門店のうち、モンマルトルの丘にある<ブロセリアンド>に行くと必ず注文するのだが、ガレット・コンプレットというそば粉のクレープにハム、チーズ、目玉焼きを挟んだ一品にオニオンのコンフィを加えたものがメニューにある。これがいける。

興味のある方はオニオングラタンスープを手作りした時にこうして色々と応用して見るとよいのでは。

最後の最後に、合わせるワインであるが、玉ねぎをじっくり煮詰めることでくさみというか刺激はなくなるので、ワインが負けてしまうという事は無いと思うし、郷土性も特に気を使うことなく、その時の気分で、その時のカフェやブラッスリーにある一番安いグラスワインが良いと思う。

何せ<貧乏人のスープ>なのだから気楽に行こう。

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