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Paris オススメ散歩

その1 パンテオン周辺 アーティストC215とは?

パリ市内も最近では車、特に大型バスでの移動が徐々に困難になってきている。道路規制、渋滞などが原因で思う様にあちらこちらへと行けない事が多く、一日を有効にパリ市内を満喫するにはのんびり散歩もいいかと気づき始めた今日この頃。

出来るだけ人混みを避けながらパリの、またフランスの魅力を味わうのに今回は左岸のカルティエラタンを、特にパンテオン付近に絞って楽しんでみようかと。この辺りは車も通りにくいのでふらりと散歩するのに都合良さそうだし。

まずはカルティエラタンとは何かと言う事について簡単に述べると、パリのソルボンヌ大学の神学のレベルは昔から優れていて、その為にヨーロッパ中から学びにやって来た者が多かったが、当時フランス語を話す学生ばかりではなく、さあどうやってコミュニケーションをとるかとなった時にラテン語(聖書を学ぶのに必須)だったらという事になった。<カルティエ>は<〜地区>と言う意味で<ラタン>は<ラテンの言葉を話す人々を表す。<カルティエラタン>は<ラテンの言葉を話す人達の地区>を示す。大学や師範学校、図書室などもあり、そんな理由で今でも学生が多い。私も学生時代には映画館、書店等通った事を昨日の事のように覚えている。

パンテオンはカルティエラタンのジュヌヴィエーヴの丘上にあり、エッフェル塔の眺めの良い写真スポットのうちのひとつである右岸のトロカデロの広場からも見える位目立つ、あのネオ・クラシックスタイルの建築は修復されて間もないが、アンヴァリッド(廃兵院)と共にパリの空の下を美しく飾るシンボル的存在と言える。

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パンテオンとはギリシャの言葉であるが日本語では<万神殿>であり、現在ではフランスの偉人達が埋葬されている墓所となっている。地下納骨堂にはヴィクトル・ユーゴ、エミール・ゾラ、アレクサンドル・デュマ、キュリー夫妻等が(最新はシモーヌ・ヴェイユ)眠っている事で知られている。

2018年秋にはそのパンテオン見学と、周辺のストリートアートを合わせて2倍楽しもうと言う実に面白い企画が開催された。

ストリートアートは今や世界中で注目され、落書きから大マスターピースと呼べるものまでその価値が認められつつある。フランスでは1970年以降見られる様になり、最初はリヨンやパリ近郊で<だまし絵>が話題になり、最近ではパリの特に13区、また郊外の至る所(治安的にはあまりオススメ出来ない所だったりする)に見られる様になったが、現在私がフランスで最も注目しているアーティストの名はC215(本名Christian Guémy.クリスチャン・ゲミー)といって、ひと味違ったスタイルを持ち、パリの街をエキジビションセンターに変身させつつある才能の持ち主である。

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私とC215の出会いは上のイメージの猫の横顔である。左上の白抜きサイコロマークにC215とサインが入っているのですぐわかる。どの作品にも必ずといっていいほどこのマークは入っている。この情報を手掛かりにインターネットで調べたところ、すぐにすべてが明らかになった。この作品はメトロ6号線の<Nationale>ナショナル駅すぐ近くで、周辺は巨大なフレスコだらけ。パンテオンからは少し離れているがストリートアートに興味ある人はナショナル駅で降りてみるのも良いかも。私がこの猫に特に惹かれた理由はシンプルな色と、猫の何か訴えるような、甘えるような眼差し。ストリートアートと言われるものの中には無機質な感じの印象を与えるものが多い中、頭を撫でて家に連れて帰りたくなる雰囲気を発しているところである。

また、テクニックの面でもポショワール(pochoir)と言うステンシルアートを使いこなしている(彼はポショワールに関して説明する為の本もつい最近出版している)のも興味深い。本人の写真は一見気難しい風貌かもしれないが、質問には時にはユーモアを混じえながら必ず答えてくれる。

そのC215がパンテオン周辺に全部で28点(実際に内部にはもっと多くの偉人が眠っている)、あるものは消化器ボックスに、あるものは郵便ポストに、また数点は壁に直接描かれて、そう言えば、一番上の写真はモンジュ通り沿いにあるアレクサンドル・デュマのポートレートだが(奥まったところで周りの雰囲気にすっかり同化しているのでうっかりしていると見過ごしてしまう)、建物に見事にマッチして洒落ている。こういうのがまさにストリートアートと言えるんだな。ちなみにそこから10分位坂を下り続けて行くとノートルダム大聖堂にたどり着く。

ただし、ストリートアートの最大の欠点は保管の保証がないので、わー素敵と思った作品も次に来た時にはなくなっているのもある。ギョーム・アポリネールのフレスコ画なんかそうで、ガッカリである。その他にも場所が移動されていたり、或いは落書きが追加されている、勿論色はあせている等悲しい事がしばしば、と言うことを予めお話ししておかなくてはいけない。

それでも今回の作品は今のところかなりの率で残っているので、是非オススメ!やはりパンテオン内の棺にも偉人達の名前は残されているのだが、似顔絵(たいてい名前が書かれているので誰がどれかすぐわかる)を見ながらカルティエ・ラタンの街並み散歩なんて粋でアカデミックな時間の過ごし方ではないか。パンテオン内部の聖ジュヌヴィエーヴやジャンヌ・ダルクを描いたフレスコ画、フーコーの振子、地下の納骨堂等については別の機会で触れてみる事にしよう。

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パンテオンの建物は区役所、学校、教会等に囲まれている。建物正面のスフロ通り(スフロはパンテオンの設計者の名)を真っ直ぐ下ればそこはルクサンブルグ公園(実はこの広大な公園も見所あり過ぎて天気が良ければいくらでもゆっくり過ごせる)。パンテオン出口すぐ左側にパリ5区役所が。さらにパンテオンの回りを左に行くと上の写真の建物が(ピンクの飾りは今のシーズンだけ)みえるが、これが実は何とアンドレ・ブルトンとフィリップ・スポールが自動記述(自分の意識とは無関係に動作を行ってしまう事)の実験をし、結果、シュルレアリズムを誕生させた(最初の作品を書いた)ところである。何が残っているかと言うと、壁に説明のパネルがついているだけなのだが…。興味ある人には感動ものだったりする。

さらに進んでULM(ウルム)通りを右に曲がって行くとすぐに両側のボックスに「あーこれかぁ」らしきものが右に左に。アンドレ・マルルーとジャン・ムーランである。さらにULM通りを進んで行くと右手にキュリー夫人の壁画。

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これはキュリー研究所の壁に直接描かれているので目立つ。そのまま真っ直ぐ行ってジャン・ジョレスを見たければ注意深く左側を見ていれば何と建物の庭内に描かれている。エミール・ゾラを見たい場合はさらにその先を曲がったところにあるし。

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また、パンテオンの後側、教会の横のClovis(クロヴィス)通りを真っ直ぐ下って行っても面白い。フィリップ・オーギュスト時代の壁が見える。その昔パリの町を守るための城塞であった。実はその時の一部が残っているのだ。決して美しいものとは言えないかもしれないが、13世紀始めのものがこんな形で残っているなんて感動ものではないか。ストリートアート探しのついでにこの様な思ってもいないものに遭遇することもある。

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その他C215の描いたポートレートを追ってあちらこちらいっても良いであろう。特にパンテオン正面のヴィクトル・ユーゴ(スフロ通り)は見逃してはいけない。

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さらに、もしスケジュールの都合が許せば、また教会見学に興味のある人は是非聖エティエンヌ・デュ・モン教会にも足を踏み入れて欲しい。この教会については後日またジックリと別の記事で触れてみたい。見所沢山。また、カルティエラタンには美味しくてお手頃価格でカジュアルな雰囲気のレストランが山ほどあるので近々それらもレポートしたいと思っている。

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私自身もフランスに住み始めるまで気がつかなかったが、自然の恩恵を味わうのも、城巡りなどの様に日本と全く異なった歴史にどっぷりはまるのも、勿論ファッションやグルメを楽しむのも旅行の魅力であるが、限られた中で、たとえショートステイでもまるでパリに住んでるかのように時を過ごしてみるのも決して無駄にはならないのではないか。少し位迷っても界隈を歩いている人に尋ねれば大抵教えてくれるし、そんな気軽なパリ滞在に興味ある人にカルティエラタンはオススメ。

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