見出し画像

サントノレの秘訣

5月16日はサントノレの日。普通記念日とか全然気にしない私なのに今年は何故か4月のうちからこの日が気になっていた。インターネットで偶然関連記事を見つけて読んでいるうちに私はシュー生地のお菓子が好きで、特にプロフィットロールとともにこのサントノレが好きである事を思い出した。

プロフィットロールに関してはnoteの中の<私のプロフィットロール>もついでに御一読いただけると天にも昇る気持ちである。両方ともプティシュー(小さなシュー)を使ったお菓子であるが、プロフィットロールはシューの中にアイスクリームが詰まっていて、レストランでサーヴィス係が食べる寸前に熱々のチョコレートソースをかけてくれるという至福の瞬間を楽しむデザートであるが、皿盛りでないと提供出来ないのか難点。スーパーマーケットで売られているブロフィットロールはその熱々冷冷が楽しめない。それに対して <サントノレ>はお菓子屋で買って家で食べたり、お呼ばれの際に手土産として持って行ったりすると喜ばれる事請け合い。プティシューの中はシブーストクリーム、上にはカラメルがかけられている。大抵土台にはリング型のシュー生地があってその中にもシブーストクリームが詰められている。

<シブーストクリーム>とは? あまりよく聞かないかもしれないが、これがサントノレの美味しい秘訣である。私も知るまではカスタードクリームが詰まっているのかと思っていたが、カスタードクリームにイタリアンメレンゲを加えたものを<シブーストクリーム>といい、伝統的に特定のお菓子に使われている。

<イタリアンメレンゲ>とは? では<フレンチメレンゲ>っていうのもあるのか?

答えは「ウイ。(イエス)」フレンチメレンゲとは、noteの私の記事の<至福のヴァシュラン>の主人公であるヴァシュランというデザートに使われる、作り方は卵白に砂糖を加え泡立てるものだ。しばしばヴァシュラン、あるいはパヴロヴァに使うのだが、あの「サクッ」とした食感が決め手である。それに対してイタリアンメレンゲは泡立てた卵白に砂糖のシロップを加えて混ぜるのだ。

画像1

1850年頃にパリで最も有名であった菓子職人、サントノレ通りに店を持っていたシブーストにはオーギュスト・ジュリアンという優秀な弟子がいた。シブーストクリームはおそらくシブースト自身の発案ではないかと考えられるが、サントノレ自体はブリオッシュにクリームを詰めた形で、弟子のオーギュスト・ジュリアンのアイディアかもしれないと言われている。それがやがてパイ生地の上にブリオッシュの代わりにシューをのせ、さらにその上にプティシューをのせてその上にカラメルをナッペ(塗ること)する現在の様な形になった。

そんな理由で<サントノレ>の名前の由来は全長2km弱もあるパリのサントノレ通りにシブーストの店があり、そこで生まれたお菓子だからという事から来たのであった。中程の通り沿いにサン・ロック教会があり、その中に聖オノレ(=サントノレ)の石像がある。


画像7


聖オノレとはフランス北部の町アミアン、そこの司教であった。600年に亡くなり、パン職人の守護聖人と言われる様になった聖オノレの日が5月16日である。オノレ(Honoré)というファーストネームは少ないそうだが、すぐに頭に浮かぶのは<オノレ・ド・バルザック>ではないか。オノレと言う名前はラテン語の<honoris>から来ていて<honneur>(名誉)を表す。何と素晴らしい名前ではないか。実はウチの近所に <オノレ(Honoré)>と言う名のパン屋がある。このパン屋に関しては私のnoteでの<フランス生活で美味しいパン屋さんが近所にあることはそれだけで幸せと言えるかも>を読んでいただけるとわかるので、ここでは<オノレ>の店のサントノレに絞ってお話ししよう。


①見た目可愛らしく、クラシックなウチの近所の<オノレ>のサントノレ

画像6

てっぺんのプティシューは聖オノレの帽子のつもりなのか?ホイップクリームの形(特に一人用)がユニーク。

画像13

今回ここの店のサントノレを味わう為に数日前に店員さんに聞いて、土曜の朝につくるという情報を得たので朝9時30分に店に到着した。が、サントノレはあと20分待ちと言われたので他の買い物をしてから再び到着。まだ出来ていない。先に支払いをして店で待たせてもらった。結局40分位待ったと思うが、別に時間を約束した訳ではなかったので仕方ない。

画像14

一つ用のかわいい箱に入れてくれたものの、たとえ家まで5分もかからないとはいえ、崩してしまってはいけないので慎重に持った。家に到着して待ちきれずに一部味見。シューの中はシブーストクリームではなく、カスタードクリームで、リキュールが多めに使われていた。底辺は薄いパイ生地、それは良いのだが驚いたのはその上がブリオッシュ生地だった事である。しかもその中にクリームが詰まっている。「これはサントノレを発案したと言われているオーギュスト・ジュリアンのアイディアではないか!」と思わず嬉しくなった。サントノレ誕生のストーリーを知らないと何故ブリオッシュなのかは理解出来ないであろう。シェフのこのケーキに対する思い入れが伝わって来た。

続けて他の店でもサントノレを味わった感想。


②ノートルダム大聖堂近くの人気パン屋のサントノレ

画像12

見た目整っている。ただしここのはきれいだなと思ってつい写真を撮らせてもらっただけでサントノレの味を見ていない。買ったのはバゲットのみである。皮が「にしっ」とした噛みごたえで気に入った。バゲットがこんなに美味しいならサントノレも美味しいに違いないと確信した。いつでも来れる。また来よう。


③これがサントノレ? でもサントノレ

画像4

まるでエクレアの様。横にこんなに長いサントノレはめったにない。プティシューの上にカラメルが塗られているのはサントノレで粉糖がかけられているのはパリブレストである。パリブレストもシュー生地のお菓子なのでこれはおもしろい発想だと思う。パリブレストのクリームはプラリネ入りクリームの事が多いのでサントノレとまったく違う味わいなところが面白い。

画像9

プティシューの下はホイップクリームで、ブティシューの中身はシブーストクリームだった。この形だったら公園のベンチに座りながら食べるのにもいいかもしれない。味わい的にはやはり濃厚なシブーストクリームが気に入った。


④パリで最古で優秀なお菓子屋さんのサントノレ

画像5

画像6

5つの中で一番有名なのはこの店<ストレー>である。なんと言ってもリッチな味わいが他のサントノレと比べて突出している。値段もそれなりだから当然かもしれないが、私はテイクアウトに失敗したので上の一人前サントノレは私が写真を撮ったものではない。クリームが箱にくっついて哀れな状態になってしまった。幸いインターネットで見つけた記事の写真を載せることが出来た。下の4〜6人用の写真は私が店で撮らせてもらったもの。この店のサントノレはその名も<サントノレ・ア・ラ・ヴァニーユ>というので、そこからしてオリジナルと少し違う。しかもクリームはシブーストクリームではなくてカスタードクリームであった。土台のパイ生地は流石といったところだが、シブーストクリームでないところは個人的にがっかりした。勿論カスタードクリームの方がいいという人もいるであろうが、お菓子の中でシブーストクリームが活躍する機会が滅多にないのでそちらを期待していた。ただしクリームも、また全体的にも甘さ控えめな点は上品さを感じられる点は流石といったところ。


⑤パリで人気のパティシエ、セドリック・グロレのサントノレ

画像12

これは完全に新技法のサントノレである。今回食べていないが、レシピを見るとやはりシブーストクリームを使っていない。ヴィジュアル的にも他の4つのサントノレと全く異なるのだが、花を意識したそうだ。甘味は控えめだがパイ生地のバターが多くつかわれており、また、ホイップクリームの中にヴァニラがたくさん、黒い点々が目立っている。タイトルも④と同様<サントノレ・ア・ラ・ヴァニーユ>である。価格は今回ずば抜けてナンバーワンである。

有名シェフ達はサントノレにはヴァニラが合うと判断したのか?また、シブーストクリームはどのように評価されたのであろうか。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


最後に、話はサントノレ通りのサンロック教会内の聖オノレに戻るが、パリに行かれる機会があって、もし教会に興味をお持ちであったら、いや、なくても美しいものを見るのがお好きだったら是非サンロック教会を訪れて欲しい。17世紀に建立されたバロック様式の教会である。19世紀に聖オノレの像は入れられた。ここの美しさは華やかと言うより、静かな、また荘厳な雰囲気があるところだ。つい最近だとオペラ・ド・パリのエトワールであった私の尊敬するダンサー、パトリック・デュポンの葬儀が行われたところでもある。パトリックを想いながら、また聖オノレに会いに、そしてその後サントノレの為にケーキ屋巡りなんていかがかなと思う。しかしながら、サントノレはいつでもどこにでもあるものではないのでご注意を。

画像11

画像10

画像11




よろしければサポートお願いします。これからもフランスの魅力を皆様に伝え続けて行きたいです!