ショートショート② 非常食スマホ

 新手の携帯キャリアから、「非常食スマホ」なる商品が発売された。災害現場などの食糧調達が困難な現場において、スマホごと非常食に様変わりするという優れもの。ただし最先端技術すぎて販売価格が高価で、よほどの物好きか金持ちの道楽者以外は手を出していないらしい。

 だが発売から数日後、冬山での遭難事故が発生。一命の登山者が行方不明になったが、なんとその男性が物好きの道楽者で、非常食スマホを所持していることがわかった。
これはなんたる幸運、そしてこのスマホの本領発揮だ。
 捜索に当たっているレスキュー隊がすぐに非常食スマホの専用チャンネルで男性に呼びかける。

「もしもし山田さんですか。こちらは山岳レスキューの斎藤です。応答してください。」
「山田です。雪崩に巻き込まれて遭難しました。荷物もどこかに行ってしまって、スマホしか持っていません。寒くて空腹で死にそうです。」
「山田さん、安心してください。このスマホは非常食スマホです。市長の許可が下りたら、すぐにこちらからボディのチョコレートコーティングを解除します。ボディや内部も全て食べられる素材で栄養分を豊富に含んでいますし、水分も吸収できます。」
「良かった、少し安心しました。」

「山田さん、許可が下りました。これからスマホのチョコレートコーティング🍫を解除します。すぐに食べられますから、まず食べて、気持ちを落ち着けてください。慌てないで、ゆっくりと全部食べてから、次の我々の指示を待ってください。」
「分かりました。助かりました。いただきます。」


「山田さん、聞こえますか。どうですか。スマホ食べて気分は落ち着きましたか。」


「しまった。スマホを食べたから山田さんと連絡を取る手段を喪失した!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?