アゲインでオマージュされたかつての銀蝿
「ぶっちぎりアゲイン」が発売されて1週間が経ち色々な要素が見えてきているが、最初に聞いた時にまず気になったのは、今の銀蝿と過去の銀蝿の違いだ。
とにかく今回一番驚き、また嬉しかったのは、今現在の銀蝿としてアルバムを作ってくれたことだ。もちろん過去の銀蝿も最高だ。しかし37年ぶりに4人でレコーディングされた今作では今現在の4人だからこそ出せる音や言葉をパッケージして欲しかった。おそらくそこはメンバー4人も同じように考えていただろう。
特に歌詞は、今現在の銀蝿の言葉として発せられている。「あの頃は…」というような、あの時を懐かしむ内容のものはほとんどない。あるとすれば「これからもよろしくな」と「Again」の二曲だけだと思う。「これからもよろしくな」は曲の前半で嵐さんの「あの頃」の話が出てくる。しかし、あの頃があって今がある、そしてこれからもよろしくなとなる展開で、単に昔話を懐かしんでいるだけの歌詞ではない。ということで、曲のほとんどを「あの頃」の話で占める楽曲はアルバム最後の曲「Again」だけとなる。この曲は解散したあの夜のことを歌っているが、先日コラムに書いたように、この曲はこのアルバム、そして今回の復活において絶対的に必要な立ち位置にある楽曲である。
アルバムを通して聞いてみると、歌詞はほぼ見事に今現在の銀蝿の言葉で今思っていることを歌ってくれている。ではサウンドの方はどうだろうか?やはりここは永遠のロックンロールバンドだ。曲のタイプまで変わってしまったら残念すぎる。各々の楽器のサウンドもさほど変化は見られない。これでいい。時代に合わせて打ち込みダンスビートになるなんてことは絶対にない。あるわけがない。
サウンド的には相変わらず横浜銀蝿らしいシンプルなサウンドでロックンロールを鳴らしてくれているが、前述したように歌詞は今現在の言葉で歌ってくれているから古臭さが全くなく、うまくバランスが保たれている。これぞ令和の時代の横浜銀蝿だ。
そんな令和の銀蝿のアルバムの中で、ぽろっとあの頃を思い出すようなオマージュポイントがいくつかある。これは誰もが最初に気づいてニヤッとしたことだろう。今日はこのオマージュポイントについて書いてみる。「ツッパリHigh School Rock'n Roll(還暦編)」と「大人の勲章」は楽曲そのものがオマージュなので今回のコラムでは割愛する。
さて、本題のオマージュポイントについて書いてみよう。まず最初にニヤッとするオマージュポイントは「Johnny All Right !」の冒頭の翔くんとJohnnyの掛け声だろう。これはファーストアルバム「ぶっちぎり」にて嵐さんが歌った「お前に会いたい」の冒頭の部分で嵐さんとJohnnyのやりとり「Johnny all right?」「A---ll right!」というやつだ。これは翔くんがJohnnyが帰ってきたことを祝福するこの曲の冒頭で再現したいと提案したそうだ。この部分だけでも、また曲の歌詞を見ても、今回Johnnyがバンドに帰ってきたことをメンバーみんなが喜んでいるのがうかがえる。なにより翔くんが一番嬉しそうなのがこっちも嬉しくなる。そういった意味でこのこの掛け声は今回翔くんがアルバムでやりたかったことの一つなのではないのだろうか。間違いなくJohnnyが戻ってきて一番喜んでいるのは翔くんなのだ。
OK ようこそ今夜
All Right イカした仲間と
All Right 最高の夜を
朝までとばすぜ OK All Right
Rockin' ハートが煌めくぜ
Dancing もう一度
Dreamer (Dreamy)
イクぜ Johnny(All Right)You
Ah… Ah… Ah… Ah… Ah…
今回のJohnnyの復活、そしてまた4人で演奏できる喜びに満ちた歌である。聞いてるこっちもテンションが上がる。上がらないわけがない。なんたってJohnnyが帰ってきて嬉しいのは翔くんだけじゃなく、オレたちみんなが嬉しいのだから。
続くオマージュポイントは嵐さんの「これからもよろしくな」で二つほど。まず気になるのが、曲の冒頭が嵐さんの当時のライブ時のカウントをこちらはコラージュされていることだ。これはTAKUが貼り付けて作成してくれたとのこと。一瞬だけだがあの頃にトリップすることができる粋なコラージュだ。
この「これからもよろしくな」はいろいろ語りたいことも多いのだが、今日はオマージュ部分だけを言うと、歌詞にオマージュ部分が出てくる。「ジルバにツイストモンキーダンス」は3枚目のアルバム「仏恥義理蹉䵷怒」に登場する「Party Night」からのフレーズだ。さらっとこういったところを挟んでくるセンスは流石だし、いかしている。
夢だけ追いかけ
走り出したあの頃
この道でいいんだと信じて
ロックンロール
振り向けばいつもの
おどけた仲間
ジルバにツイスト モンキーダンス
ナンパのチャチャチャ
さて、オマージュポイントのラストは翔くんの「Lucky☆Star」だ。曲の冒頭は翔くんの「Lucky Starを掴め てめえの力で」の歌で始まるわけだが、その直後Johnnyのお馴染みのフレーズが一瞬登場する。2枚目のアルバム「ぶっちぎりII」に収録されている「INSTANT GENTLEMAN」のイントロのギターだ。もうニヤッとせずにはいられない。これもおそらく翔くんのリクエストでJohnnyに弾いてもらったのではないかと推測する。思わず「Pattiといっしょの夜だから〜」と口ずさみそうになる。
イクぜ全開 夢に向かって
とばす Highway Lucky Star
落ち込んだ時も負けるな
さぁ 走り出せ
そうさ 人生山あり谷あり
良い時ばかりじゃないけど
負けない気持ちが大事さ
さぁ 立ち上がれ
Luckyを掴め 自分の力で
ここまでいくつか横浜銀蝿40thによる横浜銀蝿へのオマージュを紹介してみた。これ以上多くても値打ちが下がるし、これより少なくても物足りない。絶妙なぶっ込み具合だ。こういったお楽しみを仕込んでくるところが横浜銀蝿らしいといえる。ただの焼き直しじゃない今の銀蝿。けれど、あの時の銀蝿があっての40thということでしっかりバランスを取ってくれている。
初回特典のDVDでメンバーそれぞれが今回のアルバムへの思いを語ってくれているのを見て感じたのは、メンバー4人とも今回の復活を心から堪能しているということだ。Johnnyの長年のブランクを埋める作業を含め、「あの頃」の気持ちを思い出しつつも、現在の銀蝿のサウンドとしてのアルバム制作をひたすら楽しんでいる。そういった4人の思いの結集がこの「ぶっちぎりアゲイン」となるわけだ。
ただの焼き直しならば、過去のヒット曲をセルフカバーすればいい。それだけのヒット曲が横浜銀蝿には十分にある。しかしそれはメンバーの中には微塵もなかっただろう。「大人の勲章」を除いて全て書き下ろしの新曲で構成することに意味がある。そこにいくつかのオマージュをスパイスとして散りばめているところがオレのようなオールドファンにとってはたまらないプレゼントとなったわけだ。
最後に、今回のブックレットに使われたいくつかの写真は、当時の写真のポーズを現在の4人で同じようにポーズを決めて撮影されている。これも当時の銀蝿を思い出しながらも、今の銀蝿を感じることができる素晴らしいオマージュだったことを付け加えておく。
こういったオマージュを散りばめながら、当時からのオールドファンを唸らせ、さらにはとことん今現在の横浜銀蝿40thとしての最新サウンドで銀蝿を知らない若い人たちをも取り込もうという、けしてただの同窓会なんかじゃない。メンバー4人が本気も本気の再結成なのである。
it's only Rock'n Roll
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