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オレんとここないか?On the Machineの壮大な企画力

杉本哲太&LONELY RIDERSは最強のバンドのひとつであることは間違いない。いったいこのバンドはどういう経緯でどんな計画で組まれたバンドなのかを知りたい。このバンドについては残念ながら何も知らないのが正直なところで、何も知らないこのバンドをコラムにしようという無謀なことを今からしようとしている。

遠くから走ってくるバイクが自分の目の前に止まり、杉本哲太に「オレんとこ来ないか?」なんて言われるシチュエーションは当時の女子からしたらたまらない状況なわけだが、現代ではこの「オレんとこ来ないか?」といえば氣志團の「One Night Carnival」になるんだろう。もちろんこの元ネタであり元祖は哲太の方である。

これが杉本哲太&LONELY RIDERSの「On the Machine(翔と桃子のロックンロール)」となる訳だが、この曲のレコードのB面は紅麗威甦の「桃子の唄」だったので、なんとこの杉本哲太&LONELY RIDERSにはこの曲「On the Machine(翔と桃子のロックンロール)」しか持ち歌がないということになる。これはどういうことなのだろう?おそらく企画としてこの曲があって、この曲のためだけに組まれたバンドなのだとは想像する。そうでなければこのスーパーバンドの存在意義が問われることになる。

スーパーバンドといったが、このバンドのメンバーはなかなか凄い。ボーカル:杉本哲太。ギター:翔。ベース:ミッツ。ドラム:嵐。コーラス:翔、TAKU。さらにギターが?として不明なメンバーが1名いる。謎のギター?については後で触れるとして、このバンドには当時人気絶頂の杉本哲太を横浜銀蝿と紅麗威甦のメンバーでサポートするという、かなり力技なバンドとして結成されているのだ。特に大親分の嵐さんが横浜銀蝿以外でドラムを叩くのは、オレの記憶ではこれしかない。

この曲は作詞が漫画「ハイティーン・ブギ」の絵を描いている牧野和子、作曲はJohnny、編曲は横浜銀蝿、プロデュースは嵐さんと後藤ゆきお。後藤ゆきおとは「ハイティーン・ブギ」の原作者であり牧野和子の旦那さんであるようだ。ジャケットも牧野和子の漫画がフィーチャーされているところから、漫画「ハイティーン・ブギ」の企画として出来上がったものなのだろう。サブタイトルの翔と桃子のロックンロールからもそう読み取れる。
それにしても、作曲、編曲、プロデュース、バックバンドの演奏やコーラスまで横浜銀蝿が全面的にバックアップしているところからも、この企画がかなりの重要案件だったことが分かる。

オレは漫画はまったく読まない子供だったので「ハイティーン・ブギ」も名前しか知らない。なんとなくツッパリ漫画なのは絵を見れば分かるが、読んだことがないしどのくらい人気がある漫画だったのかも知らない。なので、残念ながらこの企画がなぜこれほどの重要案件だったのか想像がつかない。おそらくかなり人気のあった漫画で、雑誌か何かとのコラボ企画だったのではないかと想像はできる。しかし、これだけの企画にも関わらず、当時の記憶がまったくなく、この企画が実現した背景がまったくもって分からないのが残念である。

この企画の背景が分からないくせに語っても仕方がないので、この曲について書いてみよう。まずはおそらくこの曲のポイントである牧野和子が書いた詞について。

牧野和子を調べてみると、どうやら暴走族をテーマにした少女漫画を多く描いていたようなので、この詞の内容はなかなか杉本哲太にはハマる歌詞ではある。冒頭に登場する「オレんとこ来ないか?」はもしかしたら「ハイティーン.・ブギ」で使われているセリフなのか?それともこの曲用に考えたものなのか?どちらにせよ、後世氣志團のあの曲に繋がる訳だから、ある意味ひとつの発明のような名フレーズになったというわけだ。


  オレんとこ来ないか?

  Don't Cry まかせなよ
  オレのバイクに おまえを乗せて
  Don't Cry 離れるな
  オレの背中に うでをまわせ

  だれにも とめれはしないのさ
  ちょっときわどい オレとおまえ
  ワンシーン

  Don't Cry せつないぜ
  おまえをあつく 背中にかんじ
  Don't Cry ふたりだけ
  胸のこどうが ひとつになるよ

  どうにかしてくれ このきもち
  メーター振りきれ エンジンきしむ

  離しはしない 
  海辺についたら 甘くキスして
  オン・マシーン
  こいつはいかした はしりだぜ

  Don't Cry かんじるぜ
  潮風(かぜ)よメットに ぶちあたれ
  Don't Cry 苦しいぜ
  オレの心臓音(ノイズ)を 
  かきけしてくれ

  夜の浜辺をぶっとばし
  オレとおまえ ひとつになって

  離しはしない  
  海辺に着いたら 甘くキスして
  オン・マシーン
  バイクのうしろは おまえだけ
  バイクのうしろは おまえだけ


バイクの後ろに恋人を乗せて海辺をぶっとばす男の心情をひたすら表現している。確かに漫画のワンシーンのような歌詞だ。これといったメッセージ性はないものの、この当時の若い男子の気持ちをうまく表現できていると思う。当時この曲を聞いて、バイクに憧れた者はオレを含めて多かったに違いない。

サウンドはやはり横浜銀蝿全面バックアップというだけあって完璧である。ボーカルの杉本哲太はすでに紅麗威甦のボーカルとして活躍はしていたが、ボーカリストとしては少し頼りない部分があったが、この曲ではのびのびと歌っている印象でかなり良い。そしてやはりTAKUのコーラスと翔くんの合いの手のような掛け声は存在感が半端ない。

そして、先述した謎のギター?の存在について触れておこう。この?はいったい誰なのか。今となっては調べようもなく分からずじまいなのだが、イントロのフレーズや間奏やエンディング、さらにはAメロの哲太の後ろで効果的なフレーズを弾きまくっていてかなり存在感のあるギターなのだ。

このバンドにはギターが2人いてもう1人のギターは翔くんだ。翔くんはリードギタリストではないので、この曲でも間違いなくサイドギターを弾いているはずだ。そうなるとやはりこの謎のギター?が存在感のあるリードギターを弾いているのだろう。そうなると余計に誰なのか気になる。

なぜ、わざわざ?として名前を伏せたのか。例えばこれがJohnnyだったらJohnnyとクレジットするだろう。同じく紅麗威甦のリーでも同じでミッツは名前を出してリーを隠す意味はない。やり方としては嶋大輔 杉本哲太+1の時の+1=矢吹薫っぽい手法ではある。+1といい、?という表現は正直どうかとは思うが…この?が矢吹薫の可能性はある。いや、やはりこれも名前を伏せる意味が不明だ。アキ&イサオあたりが参加してる可能性はあるがそれにしても?にする理由が浮かばない。結局結論が出ないのが歯痒い。

おそらく一発ものの企画だったためか、この
杉本哲太&LONELY RIDERSはこの曲以降まったく曲をリリースしていない。それがとにかく残念でならない。しかし逆に言えば、単発の企画だったからこそ、これだけのメンバーのスーパーバンドが実現したのかもしれない。

この「On the Machine(翔と桃子のロックンロール)」のシングルレコードは間違いなくに名盤だと思っている。歌詞とリンクしたジャケット、曲の完成度、バックバンドメンバーの豪華さ、さらには中ジャケ裏ジャケ部分の杉本哲太、紅麗威甦のアーティスト写真のカッコ良さも抜群でどれもが当時の一級品だ。

さらにこのシングルの凄いところはB面に紅麗威甦の「桃子の唄」が入っていることだ。本心を言うとB面でも杉本哲太&LONELY RIDERSとしての楽曲を聞きたかったところではある。しかし、実際にB面に起用された「桃子の唄」はのちに紅麗威甦の代表曲に挙げられることになる名曲だ。この名曲が生まれ、リリースされたことは結果的に銀蝿一家を好きだったファンにとっては非常に重要な出来事となったのである。この「桃子の唄」には、「ハイティーン・ブギ」"桃子の唄"募集歌第一席と書いてある。やはりこのレコードは「ハイティーン・ブギ」の何かしらの企画レコードであることは間違いない。

「On the Machine(翔と桃子のロックンロール)」と「桃子の唄」のカップリングというかなりのハイレベルに仕上がったこのシングル。銀蝿一家のファンにとっては欠かすことのできないシングルのひとつとなったわけだが、この企画の背景や謎のギター?など、ベールに包まれた部分が多いのも、結果的にこのシングルの価値を高めているのかもしれない。すべてにおいて完璧なシングルだ。もしかしたら、この曲の謎を解く鍵が隠されているかもしれない「ハイティーン・ブギ」を今度読んでみようかと今さら思っている。

この曲がリリースされて38年が経つが、オレの中では、今でもそしてこれからも永遠に「オレんとこ来ないか?」のフレーズは氣志團ではなく杉本哲太なのである。


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