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横浜銀蝿が解散した時の忘れ物

あの日、オレは横浜銀蝿が解散した実感はまったくなかった。解散ライブには参加できていないし、あの頃はインターネットもSNSもなかった。だから、銀蝿からの別れのメッセージをリアルタイムでは聞けていないから、解散した実感が湧かなかったのである。もしかしたら、あの解散ライブに参加出来ていないほとんどの人がそうだったのかもしれない。

翔くんは、そんなオレたちのやるせない感情を感じていたのかどうかは分からない。しかし、横浜銀蝿40thのアルバム「ぶっちぎりアゲイン」のラストを飾った翔くん作詞作曲の「Again」で、あの日聞きたかったメンバーからの言葉を聞かせてくれた。

もちろん、解散からしばらくして発売されたライブ盤「散る。」を聞いて、解散したあの日のことは疑似体験することはできた。ライブでのメンバーの別れの言葉も「散る。」には収録されている。ただ、それはあくまでも解散ライブの音源を聞いてあの夜のことを想像しているにすぎない。

例えば今だったら、解散後にTwitterやブログで別れの言葉や解散ライブ後のメンバーからのメッセージを受け取ることができるだろう。しかし、あの時代にはそんなことが出来なかったのである。あるとしたらしばらくして雑誌にライブレポートが載るくらいだ。

あの解散ライブの瞬間、オレは自宅でいつもと変わらない大晦日を過ごしていた。「今ごろライブ始まったかな」「最後の曲は何をやるんだろう」「メンバーからはどんな別れの言葉があるんだろう」必死に想像し妄想していた。もしかしたら、NHKが紅白歌合戦の生放送を急遽取りやめて新宿コマ劇場での横浜銀蝿の解散ライブの生中継になるんじゃないか?あの時まだ中学3年だったオレは本気でそんなことを考えていた。そのくらい、横浜銀蝿の解散は大ごとだった。

しかし、テレビが急遽新宿コマになることもなく、ラジオで生放送されることもなく、ニュース速報が流れるわけでもなく、悲しいことにいつもと変わらない新年を迎えていた。なぜこんなにあっさりと何もなく横浜銀蝿が消えてしまうのか… もしかして、新年迎えた瞬間に新生横浜銀蝿が生まれてまた活動をしてくれるんじゃないか?そんなことを本気で考えていた。けれど、本当にあっさりと何事もなく銀蝿は解散してしまったのだ。

あの時のやるせなさは今でもはっきりと覚えている。そのまま37年生きてきてしまった。そんな37年を埋めてくれるかのように、翔くんは「Again」であの時の想いを歌ってくれた。

曲の冒頭からあの解散ライブのことが歌われる。あの最後の「横須賀Baby」の大合唱だ。この曲のMVを見ると余計にこの曲が心に突き刺さるが、あのラストシーンを見事に翔くんは噛み締めるように振り返ってくれている。妄想の世界でしか見れなかったあの名場面だ。あの時にメンバーはどんなことを考えていたのか、どんな想いを持って解散していったのか。この曲を聞いていると、あの時のやるせなさが浄化されるようだ。


  「あ・ば・よ」と そう言って
  拳 突き上げた
  口ずさんだ 横須賀Baby
  新宿 ラストライブ

  OH BABY それぞれの
  想い 抱きしめて
  次の道 又、走り出す
  それが 横浜銀蝿(おれたち)

  その先を見つめ 自分を信じて
  そしていつか 又、会えたら
  Again

  「あ・ば・よ」と そう言って
  あの夜 別れた
  旅立ちは 明日への道
  絆は 消えない

  OH BABY サヨナラは
  言わないで行こう
  約束は 笑って「散る。」
  涙は 無しだぜ

  「散りぎわ」に秘めた
  俺達の想い
  そしていつか 又、会えたら
  Again

  お前と 俺達のRock'n Roll
  あの日に 戻って Live Again
  終わらない 俺達のRock'n Roll
  あの日に 戻って Again


横浜銀蝿が解散前に出したメッセージ本「あ・ば・よ〜お前ら みんな マブかった」、嵐さんが書いた激白本「散りぎわ死にぎわ〜不良少年のすすめ」そして解散ライブのレコード「ぶっちぎりFINAL COUNT10 散る。」これらはあの時銀蝿の解散を実感できた数少ないアイテムたちだ。そのアイテムたちを歌詞に散りばめたこの曲は、翔くんからの粋な想いが存分に伝わってくる。

そして曲の最後には、横浜銀蝿40thのライブでまた再会できる喜びと希望が込められている。まさに「あの日に戻って Live Again」だ。もう二度と会えないと思っていたあの4人とまた会えるのだ。

あのやるせない別れから37年が経ってまた4人と再会できる。このタイミングでこの曲「Again」が聞けたということは、とてつもなく重要なことだ。あの時にどんな想いで別れ、そしてそれぞれどんな想いを抱きしめて再会するのか。この曲のおかげで再会するにあたっての心の準備が整った。まるで昔好きだった恋人と再会するような書き方だが、正直そんなちっぽけなものじゃない。もっと大きなもの。一言で言えば青春時代の象徴と再会できるのだ。

横浜銀蝿40thの活動が始まって、沢山のテレビやラジオで、あの解散の時の想いや解散後の話をメンバーの口から聞かせてもらえて本当に幸せだ。どれも心がときめくような話ばかりのプレゼントだ。だが、この「Again」はそれ以上のプレゼントだと思っている。これは翔くんの期間限定の横浜銀蝿40thへの想いの結晶のようだ。そしてJohnnyのまるでオアシスのノエルギャラガーのようなギターがこの空白の37年を完全に埋めてくれている。けして焼き直しじゃない。ノスタルジーじゃない。今現在の横浜銀蝿だ。

この「Again」のMVでは前半にあの解散ライブや当時の銀蝿の姿が、そして後半には横浜銀蝿40thとしてのライブシーンが映し出されている。要するに、そういうことなのだ。あの時に終わったと思っていたことはまだ終わってはいなかったのだ。あの続きが今まさに始まっているのだ。

この曲のおかげで、あの解散の時に心からのピリオドを打てなかったという忘れ物がようやく手にできた気がしている。これから横浜銀蝿40thとしてのライブを体感し、どんな2020年12月31日を迎えるのか楽しみしかない。今度は笑って散れる自信がある。1983年12月31日に止まった時計がついにまた動き出したのだ。


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