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【童話】命の行く先

「三日前からケンタの姿を見てないな」

「もしかしたら迷ったのか」

「ケンタは好奇心旺盛なヤツだから、 考えられるな」

「どんどん歩いて行く内に、他の縄張りに入ってしまい、追い出されてさらに遠くに行ってしまって帰れなくなる場合があるからな」

無事にもどれればいいが。


ミー ミー ミャアー

「子供たちが」
妻のジュジュが云う。

「腹が減ったか。よし、待ってろ。餌を取って来るから」

オレが行こうとしたその時


バシャ!

「野良猫は嫌いなんだよ。シッシッ」

フゥとココアが水をかけられた。


嫌いで結構だから、お前こそほっとけよ。
馬鹿野郎!

フゥ、ココア、気にするな。
寒いだろうから、誰も使ってない小屋に行くといい。
あそこなら毛布が丸まってる。

カラオケ店の裏にあるから。
風邪を引かないようにな。


俺は繁華街を目指して歩く。
人間がたくさんいる場所には、何らかの食料があるのを知ったからね。

「よお!サム、元気か」
そう話しかけて来たのは長老の
一之助だ。

はっきりした齢は判らないが、多分
20歳にはなっている。
「ああ、お陰でな。長老も元気そうじゃないか」

「そろそろクタばってもいい頃だが、何故かどこも悪くない」

「長老はまだまだクタばったりしないさ。あと5年は大丈夫だろうな、少なくとも」

「まだ、そんなに生きるって?
やれやれ」
「そう云うなって。長老を慕ってる奴らも大勢居るんだからさ」

「そうさなぁ。まあ、ゆるゆると生きて行くとするか。さてと、ぼちぼち寝ることにしよう」


「ゆっくり休んでくれ。おやすみ長老」
「ありがとな。おやすみサム」


「さて急ごう。チビたちがお腹を空かせて待ってるからな」

たくさんのネオンとたくさんの人間がいる場所に着いた。

いったいどこから湧いてくるんだ、
この人間たちは。


「そんなことより食べ物食べ物」

よし、深夜まで開いてるこの店のにしよう。

俺はゴミバケツに顔を突っ込む。

中には、未開封の食料が幾つもある。
その他にも、フカフカした柔らかい食べ物も。

俺はフカフカのを加えて帰ることにした。


途中、さいきん野良猫になった女の子がいた。

正直、可哀想で彼女を見るのは胸が痛む。

捨てられたことをまだ受け止められずにいる姿が……。 

彼女の横を歩いている時。

「サムさん、あれは何だったのでしょう」

「……」

「わたしのこと、いい子ねぇ、可愛いねぇって撫でてくれたんです。毎日毎日」


たぶん、飼い主だった人間の引っ越し先がペットが飼えないところなのだろう。

だからって、だからってさ!

捨てるって何だよ!

俺たちだって生きてるんだよ。

判ってないだろう、お前には。

その証拠に彼女を捨てただろうが!

俺は彼女に「おやすみ」と云って家族の元へと向かった。

いつまでも、いつまでも彼女は夜空を見上げていた。

鈴の付いた首輪をしたまま。

ずっと見上げていたんだ、星空を……。

数日後、彼女は姿を消してしまった。

新しい家族に飼ってもらえているのなら、いいのだけど。

「ねえねえサム」

「富士丸か、悪いけど急いでるんだ」

「あそこを見て」

「え?アッ」

そこには子猫のチャーと、人間がいた。

「人間の方からチャーに話しかけたんだよ」


「チャー、頑張れ!お前はすごく可愛いんだぞ。その人間の家に連れて帰ってもらうんだ!頑張れ」

富士丸と俺は、固唾を飲んで見守った。


そして遂に

「アッ、人間がチャーを抱っこした」

チャーの頭を撫でながら、人間は歩いて行った。


「やったー!」
「良かったな、チャー。可愛がってもらうんだぞ」

「虐待したら許さないからな、人間!」


俺たちは、暖かい部屋で、餌と水の心配をしなくて済む暮らしがしたい。

それが叶わなかったとしても、
生きていくんだ。

そしたら、いいことの一つや二つ

あるかもしれないじゃないか。

そうだろう?


     了



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