【童話】 星月夜
夜空から会話が聞こえます。
「いよいよキミは行くのだね」
お月さまは、そう云いました。
「はい、お月さま。ボクも永いこと宇宙に
いさせてもらいました」
「そうか、キミがいなくなると、寂しくなる」
「ありがとうございます、お月さま。でも
宇宙には、まだまだたくさんの星たちが、輝いています。きっと寂しくないですよ」
「それでもやっぱり寂しいさ。キミがワタシの一番近いにいてくれたからな」
「たくさん、お話ししましたね」
「そう、たくさんね。キミは楽しかったかい」
「はい、とても。ただ……」
「ただ、なんだい」
「会いたい方に、会うことができませんでした。それだけが心残りです」
「それは誰かね」
「リトル・プリンスです」
「あぁ、彼に会いたかったんだね」
「はい、とても」
「そうかい、でも彼の星はずっと離れているからなぁ」
「そうなんですか、それなら仕方ありませんね」
今夜の宇宙では、いつも以上に星たちが、瞬いています。
🌟🌟
星は、ちょっぴり行くのが嫌になりました。
たくさんの仲間たちとの、お別れが悲しくなったのです。
お月さまは、云いました。
「リトル・プリンスも、たった一人で行ったんだ。キミにも出来る。安心しなさい」
星は涙を一粒、こぼしました。
「キミも、リトル・プリンスが行き着いた、地球という星に向かうのかい」
星は、涙をぬぐうと、「はい」と返事をしました。
「そうかい。だったら同じ砂漠に着くようにワタシも祈ろう」
「はい、ありがとうございます。ではボクは、そろそろ」
「行くようだね。ワタシもキミと話すことが楽しかったよ。ありがとう」
「ボクもです、お月さま。お元気で」
「キミもね」
🌟🌟
星は小さな爆発をして、たくさんのカケラになりました。
その内の、一つは、地球を目指して流れて行きます。
どれだけの時間が経ったでしょう。
星のカケラは地球という星の、砂漠に着きました。
何一つ、音のない世界です。
「やあ」
星のカケラは、そう声を掛けられました。
見ると、小さな男の子が見ています。
「キミも一人で来たんだね」
星のカケラは黙っています。
「僕は友達に会いに来たんだ、約束したからね」
星のカケラは、勇気を出して男の子に話し掛けました。
「誰と約束したのですか?」
「キツネとだよ」
星のカケラは、ハッとしました。
「あなたは、リトル・プリンスですか?」
男の子は、キャッキャッと笑いました。
「僕はただの男の子さ。王子様なんかではないよ」
「行かないと。キツネが待っているんだ」
男の子は、そう云うと、星のカケラに背を向けて、歩き出しました。
🌟🌟
「キミは、薔薇を持っているかい」
男の子は急にそう云いました。
「とてもわがままな薔薇なんだ。だけど本当は、寂しがりの薔薇だよ。僕は持っている」
「キミは、そんなわがままな薔薇のことを、大切にできるかい」
星のカケラは、黙って訊いています。
「『本当に大事なことは、目には見えないんだ』」
男の子はそう云うと、またキャッキャッと笑いました。
「キツネが待ってる」
そう言い残して、男の子は行ってしまいました。
後には、音のない砂漠が広がっています。
星のカケラは静かに泣いていました。
「お月さま、ボクはやっと、会うことが出来ました」
その声を訊いた、お月さまは、目を閉じて、微笑んでいました。
(おしまい)
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