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【詩】雪の華

その子は吹雪の中にいる

目を開けることも出来ない
雪と風が荒れ狂う中
下を向き

その子は脚に力を入れて
飛ばされないよう
過酷な白い煙の世界に立たずむ


そこから離れることが
出来ずに

もしかしたら、自らの意思の元
その空間に、留まることを選んだのかもしれない


その子とは、私を指す

何年も、何十年も

もう一人の私は
吹雪に耐え続ける


私は心の底から楽しいと、感じたことがなく
笑えたことも無いままだ


もう一人の自分が
胸の真ん中にいる
猛吹雪の中で
この瞬間も立っている


その子を助けることも
出来ない

苦しみを、共にすること
選択肢は
それしか無い
選ぶことなど出来ない


「吹雪の世界から
離れてもいいんだよ」

貴方は、そう云った


そんなこと
していいわけが無い

私は言い返す


『何故』してはいけないの

何故?
理由などない

そこに留まり続けること
それが


それが?


私が生きていられる
条件だから


きみは、強いね


私が? 強い


そう、きみは強くて、健気だ


わたしが……強い……


だから、生きてこれたんだね

吹雪の中で耐えている
もう一人のきみは

その場所を離れる時が来たんだよ


あの世界から
私は離れても、いい



そうだよ
離れてもいいんだ


よく頑張ったね

耐えて来たんだね
きみは


どうしてだろう
ぽろぽろと
涙が出てくる


見てごらん
もう一人のきみを


あれが  わたし


あれが、苦しみ抜いて
絶望の淵にいた
きみの今だ


雪の華……


なんて美しいんだろう

きみの真の姿だよ


頑張ってくれたんだ
もう一人の
胸の真ん中にいた、わたしは


「ありがとう」

自然に出た言葉


冬の澄み切った
青空の下で


雪の華が

笑った気がした


     了



















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