COCOAの起動不能騒動に見たゲーム業界との違い

コロナ接触確認アプリ「COCOA」、バージョンアップで起動不能に iPhone版、Android版ともに(ITmedia)という記事を読んで「なにやってんだよ」という感想はなく、むしろ「それで審査通っちゃうんだ」と思いました。

ゲームの世界では機種を問わずパッチが溢れていますが、後方互換(旧バージョンからのデータ引き継ぎ)を保証することこそ免除されるケースが多いものの「起動できない」は100%アウトです。門前払いです。

今回のケースは新規インストールの場合は問題ないらしく、その辺が関係しているのかもしれません。要するに「問題があったらインストールしなおせばいい」という考え方です。iOSやAndroidの技術規定はほとんど知らないので推測でしかないのですが。

ゲーム機の場合、さらっと「今までリリースしたすべてのバージョンからアップデートしても問題なく動作すること」みたいなことを要求していたりするので、バカみたいにパッチを出していると大変なことになります。真面目にやったらね。

そんなこんなで問題続きのCOCOA、現在は修正版が配布されているということで(現時点はiOS版のみ)、このフットワークの軽さも“審査の緩さ”と関係しているんでしょうね。普通のゲーム機じゃ、問題が出ても1日で修正版をリリースするなんてほぼ不可能です。アプリを改修して、提出して、審査して……政治力を駆使したところで、2営業日は掛かります。

おそらくiOS向けのアプリのリリース数は、プレイステーションだのSwitchだのXboxだの、主要なゲームプラットフォーム向けアプリケーションのリリース数を全部合わせて100倍とか1000倍とかしたくらいでしょうから、1件1件を職人が審査している、なんてことはないんでしょう。異物が混入していないかスキャンして、新規インストールして起動できればOK、みたいな。合理的ではあります。問題があったらすぐ差し替えられるので。

今回の件を見ていて、Appleが責められているような印象はまったくなく、アプリ製作者側の問題だと認識されているのはちょっとした発見でした。そんなのあたりまえじゃん、と思われるかもしれませんが、ゲーム業界の場合は「ソフトがきちんと動くこと」はプラットフォーマーも保証すべきと見られているからです。

現在はゲーム業界主要3社で技術審査が課されていますが、その源流となっているのがファミコン時代に生まれた任天堂のロットチェックです。つい最近、任天堂の公式ホームページで公開された「開発者に訊きました:Nintendo Switch 有機ELモデル」というページでも、ロットチェックについて触れられています。

ハードウェアのバージョンが違っていても、
発売される全てのゲームソフトが問題なく動くことを
保証しないといけませんので、
新しく発売されるソフトを
改良によって世に出たさまざまなバージョンのハードウェアで、
実際に動かして確かめてみる仕事のことです。

一つのバージョンでも動かないと大きな問題になりますよね。
それを一つひとつ、動かして確認しなければならないので、
当時から多くのバージョンのハードウェアを検証用に揃えていました。

品質保証に対する考え方の違いとも、日本とアメリカの文化の違いとも言える差を感じました。もちろんスマホとゲーム機ではアプリ1本に対する比重が違うので、どちらが正しいということも無いと思います。

ただ、その違い、文化的な差異が悲劇を生むこともあります。最近ではスマホでヒットしたアプリをPS4やSwitchやXboxに移植するケースも多いと思いますが、スマホアプリの開発者が各プラットフォームの技術規定を理解しないまま「とりあえず動く」程度の出来で提出して、山のような要修正事項を突きつけられた上でプラットフォーマーから怒られる、ような事態も起きています。ゲーム機の世界では「ちゃんと動く」レベルでも、ルールをきっちりと守っていないと審査には通りません。

スマホの動作検証って大変そうだよね、とは思います。機種やOSバージョンがバラバラですし。その点、ゲーム機の場合は基本的に最新のOSでないとネットワーク機能が制限されたりショップに入れなかったりするので、楽なんですよね。Appleも「Storeは最新のOSバージョンでないと起動しません」ってしたらいろいろと楽になると思いますけど、それは出来ないんでしょう。

アプリ作るのって大変だよね、動作検証大変だよね、という“こっち側”目線で話してきたものの、そんなもん使う側には関係ないわけで、石を投げられても仕方がない。ましてや官製の防疫アプリですから、そこらへんの自治体が出している木っ端アプリとはわけが違う、ある意味、日本の技術的な威信にも関わるアプリです。これまでのお粗末な始末にがっくりと来ている国民の気持ちも理解できます。

面倒くさがらずにちゃんと動作検証しましょう。


言われてからやる、という姿勢では、いつまで経っても進歩しません。日本人の職人魂っていうものが失われて久しい昨今、真面目で愚直な非効率さが求められる場面もあるってことです。それはアプリ作りもゲーム作りも同じだよ。

単純に、デバッグしているのかな? とも思いますけどね。ゲーム屋にもお馴染みのデジタルハーツさんとかポールトゥウィンさんとか、確かスマホアプリのデバッグもしているんじゃなかったっけ。アプリバージョン間の互換性なんてソフトウェア設計の基礎ですから、当然、各OSバージョンを揃えて動作検証してくれるはずです。そんなお金も無いのかな。

デジタル庁、頼むよ。

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