セミの最期を見た。どこに行くもなくなにをするもないので、道端の木陰に腰を下ろし何度も読んだ小説を暇に任せめくっていた。およそ一メートルと少­し先で何かが視界の端にみえた。そのすぐ後にかつん、からからと音がしたので視線をそれに向けた。
六本あるうち一番前の一対がほんの少し動いたがそれだけだった。もう一度くらい身じろぎのひとつもしないかとしばらくじっと見ていたが、本当にそれで最期だったようなので私は視線を手元に戻した。
しばらくしてくしゃという音と「あっ」という少女の声がした。どうやらそれは蹴飛ばされたらしく、他力によってタイル調の歩道を数センチほど進みしんとなった。それ以上動くことはなく私の目はまた字を追い始めた。
めくったページが半分を越えてしばらくした頃「セミだ」という先ほどより幼い少女の声がした。おそらくその少女の姉であろう少女が「しかたないよ、七日の命だもん」と言うと、母につれられ少女たちはそれで過ぎていった。
すぐ後ろを歩いていたらしい老婦人が、それを拾い上げ優しく街路樹の根元へ移した。私はしおりを挟んでそれを傍らに置くと代わりに手帳とペンをとった。

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