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はぎれ日誌1

 布のはぎれは、小物作りや試し刺しに使うつもりで籠に入れてあるものの、小物はごくたまにしか作らない。試し刺しは、はぎれで試せるのは一目刺しで、模様刺しとなると事足りず、そもそもあまり新しい一目模様を刺さないので、滅多に使わない。藍木綿の2、30cmのはぎれがどんどん溜まっていきます。もう限界。山盛りです。先日風呂敷が完成して、今は下書きした大きな布がない時期なので、重い腰を上げてはぎれに刺し子をすることにしました。サイズに合わせて、模様を書いたり書かなかったりしながら刺していきます。

 はぎれは、はぎ合わせて行商人が使えそうな大きな布にする予定。友人がヒントをくれたので、刺しながらイメージを固めていけたらと思っています。

 今は、模様は書かずひたすら隙間を埋めています。
 もう少し針目の間隔の開いた大らかなステッチに憧れるのですが、(バッグとか、ブランケットとかに部分的に刺してある洒落たあれ)私がそれをしようとするとわざとらしくなってしまうことに気づき、随分前に諦めました。刺し子の先生ともお話したことがあるのですが、模様刺しばかり刺している手にはあのリラックス感が出せない気がします。おくれ毛を出しすぎてやつれて見えるとか、着崩したつもりがだらしないだけとか、そういう違和感のようなものがステッチに表れるような。

 模様を下書きせず自由に運針するときは、私の場合、古い本で見た足袋がお手本です。
 それは補強の刺しなので、もう、みっちりと刺し込まれています。新品の足袋にこれをして、丈夫にはなっても、でこぼことした肌触りだっただろうなあと思うと、身につまされる思いがします。靴下、大事にしようって思う。でも実際のところ穴の開いた靴下を補修して履くと、やっぱり肌当たりが気になるのですが・・。

 山形県庄内では昔嫁にゆく時、足袋まで持参できるのは良家の娘であって、農家では足袋さえはけず、嫁にいっても正月に姑から一足あてがわれるだけであったから、その一足をはきつぐには、前もって補強の刺しを刺しておかねばならなかった。

書籍 徳永幾久/刺し子の研究(1989年出版)/衣生活研究所

 こんな記述が。布がいかに貴重なものだったのかうかがい知ることができます。

 この本には足袋や甲掛けという足の甲を覆うものの写真がたくさん載っています。つま先や踵など、擦り切れやすいところにはみっちり刺し込みがあり、そこまで擦れないであろう足首のあたりから、模様刺しや一目刺しになっている。苦労と楽しさが同居している足袋。一つ一つに見入ってしまいます。そしてこの運針なら自分の手にも馴染みそうと思うのです。足袋のステッチに憧れて鍋つかみを作ってみたこともありました。

家族には「見た目ほど耐熱性のない危険な鍋つかみ」と言われている

 そんなわけで、しばらくは古いものへの憧れを胸にはぎれに刺し子をする日々になりそうです。はぎれが「好きな布」になったらはぎれ日記を更新するので、良かったらお付き合いくださいませ。


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