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琅燦さまへ 「白銀の墟玄の月」

☆ネタバレあり★

昨年の11月に読み始めた十二国記だが、予定よりも長くかかってしまって、年明けにやっとシリーズを読破した。

先ずは安堵して余韻に浸りたいのだが、大半の読了者を悩ましてる琅燦の所業についてモヤモヤした感じに襲われている。

ネットのブログなどで彼女の行動の是非やら様々な意見が飛びかっているようで。

そこで私は渦中とも言えるあの人に手紙を書いてみようと思う。なぜ手紙なのか?奇を衒ってる訳ではない。手紙の方が相手の心情へと訴え得るのではないかと思ったまでのことだ。そう、ただの自己満なのかもしれない。

手紙なら慶国の祥瓊に十二国記形式を習った方が良くないか?とか蓬莱の私達が憧れのあちらへ簡単には往来出来ないとか、手紙なら戴国に届くのか?なんて事はこの際どうでもよい。

それらの事は一切、不粋であるから度外視する。ただの戯れ言である。ご容赦願いたい。

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琅燦様
拝啓、初めてのお便りを差し上げます。
琅燦さまにおかれましては、お健やかにお過ごしのことと存じます。
突然の手紙に驚かれてると思います。私は蓬莱に住む、しがない本好きの男です。不躾な手紙をご容赦下さい。
さて、驍宗様による阿選の掃討の折りの混乱、大変だったと思います。その後いかがお過ごしでしょうか?今どちらに住まわれてるのでしょうか?まだ白圭宮内ですか、それとも混乱に乗じて戴を出国して黄海に帰られたとか?すいません質問ばかりになってしまいました。なにせこちらでは琅燦さま始め台輔や驍宗様が記された史書が生き生きとした小説という体裁で「十二国記・白銀の墟 玄の月」と銘打って、小野不由美という希代の作家が一昨年に上梓するやいなや、ベストセラーとなり一つの社会現象となりました。
ですからこちらでは琅燦さまは色々な意味で有名でして聞きたいことが沢山あるのです。訳の分からない所から変な手紙が…と訝しんでおられると思います。

ちょっと待って下さい、ごみ箱へはまだ捨てないで下さい。せめて最後まで読んで頂きたいのです。

私は先程、琅燦さまは色々な意味で有名だと述べました。それは戴国が阿選によって牛耳られていた頃に琅燦さまが関わった数々の所為についてです。蓬莱の国民はあなた様の行いに一貫性が無い、何がしたいのかが分からないなどと、ネット上で炎上とは言わないまでもあなた様の行動の是非が話題となっています。
えっ!ネット炎上が分からない…、ついでにベストセラーも分からない。失礼しました。ネット炎上とは異空間・電子空間での国民の様々な感情溢れる文章・声です。信じられない程の沢山の喜怒哀楽が満載の投書が一度に来たとでも言えばいいでしょうか。ベストセラーは国民に広く読まれている良書でしょうか。もし手紙の内容で分からない所があれば蓬莱経験者である泰麒様に翻訳を御願いして頂けないでしょうか。お手数をお掛けしてすいません。

さて、先述の十二国記を沢山の方々が読んで、その類いまれな人間劇(ドラマ)や愛憎劇に感動しました。ただ一つの事柄を除いてですが。それが琅燦さまの不可解な言動や本分の如何なのです。長くなりますがあなた様の行動をまとめた上で私の考察を述べさせてください。

1つ目、阿選や張運らとの会話であなた様は驍宗様が玉座にいないことに頓着してないご様子でした。
そもそも阿選を唆し台輔と驍宗様を監禁か幽閉する方策をあたえています。あなた様の興味は王が玉座にいなくて、失道でもないから天命を変えられないという状況で天意がどの様に現れるのかに御執心でした。その放置状態を維持していくことを念頭に置いてる節があるのではと思いました。

2つ目、阿選には現王と同性だと次王にはなれないんだと説いておきながら、張運らとの会話では阿選を天命が下りるのが確約された者であると仰っております。

そして琅燦さまと同じ黄朱出身である耶利さんの主があなた様だった場合、より複雑さを増してきます。この仮定が3つ目です。
耶利さんの主は阿選が次王であることは有り得ないと断定する物言いでした。
そして台輔と自身の利害は一致してるとも言って、支持する証に耶利さんを台輔に遣わしました。
それから耶利さんが鴣摺を空に放ち外部に報せている場面があって耶利さんはこの後、巌趙様と言葉を交わします。巌趙様曰く耶利の主の言うことが分からない、それに対して耶利さんは我々の理解に及ぶ主公ではないという遣り取りは意味深でありました。
先述の幼鳥は文州に居る沐雨様か李斎様へと玄管と名のる文を運んでおられるのでしょう。沐雨様は朱旌でした。繋がりから考えると玄管は琅燦さまでは無いのですか?或いは夏官長でしょうか。つまり誰か分かりませんが高い地位の協力者が存在してる可能性があります。その場合、琅燦さまとその高官は利害関係が一致しており、共に阿選の前では泰麒への支持を悟られないようにしてるのかもしれません。
なお言いますと、琅燦さまは阿選に病んだ文州侯を替えるべきだと進言し、叔容様がすかさず台輔と親しい恵棟を推しています。作者の小野氏は次作の都合があるのか、肝要な部分を読者に伏せてる印象がありますが、推察するに琅燦さまは阿選・張運派に気付かれないように宮内の抗争均衡を上手く保ちながら暗躍してたのではないでしょうか。あくまで可能性の話ですが。

4つ目、台輔が琅燦さまを敵ではないと指摘してるように物語の終盤近く、つまり驍宗様が刑場に引き出され、その後の混乱時に驍宗様と台輔の逃走を援助するかのような行動をお取りでした。

私達には黄朱らの行動原理は理解しづらいです。ですが以上の事柄から鑑みると琅燦さまは阿選と偽朝らの目の前にいる時の態度と驍宗様・台輔に心を向ける時の態度を使い分けていませんか?謂わば二心を抱いていると言いましょうか。

二枚舌とも言えます。一つの処世術です。

琅燦さまの根底にはその博識と好奇心から天の配剤や天意の現れに非常に興味があるのでしょう。
そして相手の為人を見抜く洞察力は尋常ではない。
黄海で驍宗様と誼を通じて白圭宮内で頭角を現したあなた様は驍宗様と阿選のライバル関係を目の当たりにしたのでしょう。
阿選の為人から御しやすいと考えたあなた様は驍宗様の登極とその後の急な政治改革への賛否そして台輔の特異性などから、阿選を大逆へと唆しました。
王と麒麟を幽閉状態に追いやると、どの様な天の配剤があるのか?これがあなた様の研究主題となり食指が動いたのです。
しかし突然主題を変更する事態となりました。台輔が白圭宮に表れ阿選が次王であると宣言したからです。

琅燦さまは台輔の欺瞞だと直ぐ見抜きましたが、この成獣した麒麟の非凡さに驚き台輔が6年の歳月を経て表れたことが天の配剤なのではとあなた様は意識しました。
阿選が牛耳っている偽朝にどの様な事が起きて、諸事万端がどの様に正しく収束されていくのか?
それまでの麒麟と違う、この黒麒は思考が短絡的にならず冷徹に熟慮を重ねつつも機をみると大胆な行動をとるのも厭わない。そんな台輔が、前例のない玉座の放置という稀有な状態から天の摂理が収まろうとしてる中でどんな行動をとるのか?好奇心旺盛なあなた様は目に焼き付けたくなったのではありませんか?
そして台輔の策略に乗り耶利さんや巌趙様を台輔に就けたのです。台輔と阿選・張運らとの対立構図の均衡・バランスを考えてことでしょう。

一方で張運らの前では台輔への支持を悟られないようにします。そして阿選の前では、今まで通り驍宗様を敬うことは変わらず、相手に簒奪者と憎まれ口をたたきます。そして王や麒麟はどうでもよくて、天の摂理に興味があると本音ともとれる事を吐露しておられますね。

阿選に謀反を焚き付けたことなど後悔してない感じに見受けられますが、もしかしたら驍宗様を山の奥に監禁する当初の計画が阿選の麾下の不手際により養うことが出来ない程までに、完全に幽閉と成ってしまったことを残念がってるのではないですか?
それは台輔も同じで角を切った事がまさか鳴蝕で蓬莱に流されてしまう程だったことは予想外であったでしょう。

阿選が評する所のあなた様のそれまでの言葉と行動が一致してなくて混沌としてるように映るのは当然でしょう。重ねて言いますがそれは二枚舌のせいだと思います。
好奇心を満たしたい琅燦さまにとってはこの手段しか無かったのでしょう。違いますか?

あなた様と阿選が互いに間諜を送り合う位ですから宮内の空気は張りつめた雰囲気だったのでしょう。阿選とは共犯関係でもあり駆引き・暗闘しあう関係でもあったはずです。加えて張運らにも警戒しつつ台輔にも文州の動きにも注意を向けておられました。
それもこれも優先するべきことがあるから。世界と王の関係を知り尽くすことです。子供が玩具で遊ぶように天意を弄ぶことさえもあなた様は厭わないのでしょう。もともとあなた様はそんな不遜ではないはずです。良い意味で考え方や価値観が自由人と言いますか自然体だと思うのです。根拠は有りませんがそんな気がするのです。十二国記の世界でも蓬莱でも人と人とが分かり合う精神の難しさとその難題に立ち向かう姿は同じでしょう。

どうして琅燦さまはその様な興味を抱いたんでしょう?世界の仕組みを知ることに拘泥し始めたのは何時からなのですか?心の内にある蟠りを蓬莱の記録者である小野不由美氏に打ち明けてみませんか?おそらくいずれ小野氏が取材と称してあなた様の声を聞きにいくはずです。もしかしたらもう既に取材を受けておられるとか?

其れはさておき、私達蓬莱の国民はあなた様の想いを聞けるのをいつまでも待ち続けております。
どうかお体に気を付けて、ご多幸をお祈りしております。

                敬具
令和三年一月

             名もなき読者

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