見出し画像

生理と頭痛と耳鼻咽喉科と江頭2:50のおはなし

 娘は中学2年生。学校に欠席せず通えていたのだが、2年生に上がってからポツポツと頭痛で休み始めた。
 時はコロナ禍。頭痛が理由の欠席はコロナの可能性もあるので学校では欠席扱いにならない。「ひょっとしたらシャムズ(CIAMS:COVID-19/Coronavirus-induced altered mental status)かもしれないな。まあ、そのうち改善するんじゃないかなー?」なんて時々マッサージしてあげながら、のんきに様子を見ていた。
 
 2学期が終わる頃、学校へ行けない日は20日を越えた。学校へ行けなくてもiPadで授業配信されるため、授業は自宅で参加できる。学力は落とさず、1学期のテストでは国語と英語に関しては100点、その他もペーパーテストでは90点以上取っていた。

 しかし。2学期に配布された通信簿は散々なもので、100点をとった英語でも5段階評価の4、国語に至っては3であった。。。

 ここで私たち親子は気づくのである。「iPadで配信に参加していても、授業の現場にいなくては評価はダダ下がりで、ペーパーで点をとっても意味がない。」ということを・・・神奈川県では中学2年の3学期の成績が高校受験の内申に加味される。通信簿が低ければ希望の高校に入学することは厳しいのだ。

 これはマズいと真剣に休んだ日をチェックしていると、共通点に気づく。「あれ?これ、生理直前から生理3日目くらいに欠席が集中していない???」いやはや、気づくの遅すぎだろ。

 生理周期が絡んでいると分かっても、3学期は絶対に休めない。
 別に娘も学校をズル休みしているわけではない。辛そうな日は嘔気もある。日常生活の乱れを治しつつ、ストレスを溜めないようにしましょうなんて悠長なことを言っていたら3学期に間に合わないかもしれない。もし欠席がでたらどんなにペーパーテストで頑張っても悲しい結末を迎える。
 女性ホルモン、おそるべし。とにかく低容量ピルの処方を頭に入れて病院に受診しなくちゃいけないと方針を固めた。

 ここで難しいのが受診科だった。14歳なのでまずは小児科だ。かかりつけの小児科に受診して相談した。かかりつけの小児科では、「頭痛の痛み止めは出せるけれどもピル処方はしていない」とのことで、「婦人科に行ってみたらどうか?」とアドバイスされた。
 
 近隣の婦人科を調べてみて「へえー。」と思ったのが、ピル処方に関しては1度対面受診して安全を確認した後は、オンラインでピルを郵送してくれる病院が多いこと。対面の受診時間も20時までと、かなり遅い時間までやってくれる所がある。働く女性の味方だ。
 しかしオンラインで郵送してくれるサービスは基本18歳以上の所が多く、14歳はさすがに該当しない。
 私も仕事があるから、娘と定期通院するために、なるべく遅い時間までやってくれる所に電話して14歳でも診察可能か確認していったら、3件目で「受け入れますよ」と言ってくれる所があり、受診した。

 受診して経緯を話すと「低用量ピルがいいね。14歳でも心配ないから試してみよう。生理痛は10分の1くらいに減るから、楽しみにしていてね。」と言われ、リスク説明を受けた後、娘が服用始めた。

 すると。。。欠席しなくなった。今振り返ると生理期間中、覇気がなかったのだが、普段の日と変わらなく過ごせるようになった。女性ホルモン、おそるべし。(2度目)ピル処方、ありがとう。

 体調がみるみる良くなり、完全に安心しきって生活をしていたら、時は3月。3学期の定期テストが始まる。このテストでコケると、受験の内申に響く。
 娘も私もピリピリしたムードになっていた。学校で提出物は確実に出したか?返却された宿題はAを取れたか?定期テストに向けた勉強のスケジュールは順調に進んでいるか?
 こんな確認をしていたら定期テストの2日前のお昼頃、学校の保健室から私に電話がかかってきた。「娘さん、頭痛がひどいので帰宅させます。」との事だった。

 よりによって定期テストの2日前に早退するとは。娘もストレスが溜まっていたのだろう。私の不徳の致すところだ。
 仕事が終わり、ダッシュで帰ると真っ暗な部屋の中で娘は丸まって寝ていた。どうやら偏頭痛のようだ。
 市販の頭痛薬も効果なし、マッサージなど、触れられるのも嫌だという。ピルを確認すると、ああ、生理の2日前。大きなストレスや不安はいくらピルを飲んでいても体に変調をきたすことがわかる良い機会となった。

 次の日、やはり頭痛は治らない。市販薬も効かない。近くの総合病院の小児科へかかることにした。とにかく翌日のテストのために頭痛を取り払ってやりたい。
 その病院には小児科の他に神経内科、耳鼻咽喉科も併設されていたので、何かあったら他科で対応可能だと考えたのだ。

 大きな待合室で待っていると小児科から「本間さーん。外来1番にお入りください」と放送が流れた。待っていたのは優しそうな男性の先生。
「生理周期で頭痛が出ていたこと。低用量ピルの服用後、頭痛は無くなっていたけれど、大きな試験がある直前にまた頭痛が出て、市販薬では効かないこと」をお話しした。
 先生は「他にどんな症状がある?」と娘に直接話しかけ、一つ一つ確認して行った。そして「頭痛に関しては市販薬よりも良く効くものを出しておきますから。それより気になるのが、お嬢さんが「めまいみたいにフワフワする」って言っていることなんですよね。念のために耳鼻科でめまいの確認をしてもらいましょう。」と言ってくれ、「ああ、なんて親切なんだ。総合病院!」と久しぶりの総合病院に感動してしまった。

 次は耳鼻科の受診のために待合室で待っていると、耳鼻科の放送が気になった。音量がものすごく小さいのだ。さっきの小児科の放送に比べると20分の1くらいの音量だ。誰を呼んでいるのか全くわからない。なんだ?待合室で聴力検査か?と思っていると、大きな声で耳鼻科の看護師さんが「田中さーん!外来室に来てください!」と呼びに来た。放送、意味ない気がするな。

 そして、私たち親子も、放送で名前が呼ばれていたらしいが、看護師さんが大きな声で呼びに来るまで気づかなかった。やっぱり新手の聴力検査かもしれない。

 耳鼻科に入ると60代くらいの男性のお医者さんだった。顔は自民党の二階元幹事長に似ていて、すこしムスッとしている。
 めまいの経緯について確認されるのだが、つっけんどんな印象だ。でも特殊なメガネをかけて眼振の検査をしたり、聴力検査(これは本物)をしたり、テキパキとスムーズに進んでいく。
一通り検査が終わった後、結果が出るまで待合室に戻された。

その間に、またまた小さい音量で耳鼻科から放送が流れる。そのあと、看護師さんが大きな声で「佐藤さーん!!外来室にお入りください!」と呼びに来る。ここはコントが繰り広げられているのか?

 耳鼻科に入って行ったのは、2歳くらいの子供を抱っこしていたお母さん。ああ、あの子、中耳炎かなあ?なんて思いながら待っていた。

すると外来室から「イヤだぁぁぁ!!」と子供の叫び声がした。
しかし、その声をかき消す勢いで、耳鼻科の先生が「大丈夫!!痛くないから!!」と応酬している。
 子供は当然泣き止まない。「イヤだぁぁぁ!!」しかし上からかぶせて「全然大丈夫!全然大丈夫!!」いやいや、先生、それ、大丈夫じゃないって。
 そんな大きい声が出るなら、放送でもっと大きい声出そうよ。

 私と娘は目を合わせ、一言「なんか、スゴいねえ。」と言った。そして診療が終わった親子が出てきて、「やっぱり中耳炎になっちゃったねえ。大丈夫だよ。」と母親が子供をあやしていた。おつかれさま。

 また我が家の番だ。おそろしく小さい放送の後に、看護師さんが大きい声で呼びに来る。看護師さんもおつかれさま。

 中に入ると先生は相変わらずのムスッとした顔で「あのさあ、なんか強いストレスあるの?」と娘に聞いた。
 娘が「ストレスかは分からないけど、明日学校の試験です。」と答えると「あー。そうなんだ。そりゃストレスだねえ。でも、聴力は落ちてないからメニエールではないよ。」と言われ、ホッとする。

 問題はその次だ。
「頭痛とめまいはパラレル?」と娘に聞いた。
 新しいワードだ。パラレルとは「平行・並列」という意味だ。

 14歳の娘は一瞬怯んだ。私も後ろで聞いていて、「何を言われた?」とキョトンとした。
 
 すると先生は左右の手を小さく前へならえの形にし、電車ごっこしているように回転しながらもう一度言った。「頭痛とめまいはパラレル?」

 ここで私の理性が崩壊した。先生のポーズを見た瞬間に思い出したのが江頭2:50。頭の中では布袋寅泰が「ベイベベイベベイベベイベー」と歌い出した。

エガちゃん。じつは大好き!

 同時に頭の中では先生にツッコミまくる。
「頭痛とめまいはパラレル?」そんな聞き方初めて聞いたわ。もし患者が年寄りだったら絶対わかんないでしょ!!っていうか、あの放送の小ささはなんなの?後からの呼びに来る看護師さんも大変そうだわ!小さい子供相手にあんな大きい声出したらもっと泣くって!!その音量、患者さん呼ぶ時に出してよ!!」と言いたいことが一瞬にして脳内を回る。

 先生の動きを見ていたら吹き出してしまいそうになるので、私はそっと目を閉じた。絶対笑わないように表情をニヒルにする。

 そんな中、娘が「いいえ。頭痛とめまいは同時ではありません。」と正しい日本語で答えた。この3人の中で一番まともなのはアンタだよ。

 その後、先生は薬の説明に入った。「これ、飲んでも飲まなくても効いたかどうか分かんないやつだから。大丈夫だから。試験頑張って。」

 効いたかどうだか分かんない。。。斬新だ。もう、とにかく斬新だ。

 最後に薬局の会計を済ませて帰る頃には娘の顔は明るかった。少し元気になったようなので、モスバーガーに食べに行った。

 食べながら出るのは耳鼻科の先生の話題だ。2人で腹を抱えて笑う。強烈だった。今思えば小児科の先生の顔は思い出せもしない。それくらい耳鼻科は強烈だった。
 でも頭痛が吹っ飛んで娘の顔を明るくしたのは耳鼻科の先生のパラレルのおかげなのかもしれない。
 ちょっと癖になってしまったので、次回、私に何かあったらあの先生のところに受診しようと思う。

 

 

 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?