酒樽の道 その2(全3回)


弥十郎(やじゅうろう)のアイデアはこうさ。
「酒樽の底を抜いて、これを横に繋いで道を作ってな、新川の水を通してここまで引いてくるんじゃよ。」
早速、お酒をいれておく四斗樽が集められたよ。四斗樽とはね72リットルくらいも入る木でできた大きな入れ物のことさ。

月明りの綺麗なある真夜中のことだよ。弥十郎(やじゅうろう)と鳴尾(なるお)の農民25人は新川の水を引くために水利工事を始めたんだ。お酒の四斗樽の底を外して、それを並べる人、鍬(すき)で川底を掘る人、酒樽を川底に横に並べていく人、皆一言も言わなかったよ。そして、東の空が明るくなったころ、新川の水が鳴尾村の渇いた土にひたひたと流れ込んでいったんだ。村人たちは、この時を待っていたんだ。朝早くから村人たちは田んぼの周りに集まってきていてね、涸れはててしまいそうだった田んぼに水が沁み込んでいくのを見たよ。
「あぁ、ありがたい。何とありがたい。」
そうして皆頭を下げていたって。手を合わせていたって。弥十郎(やじゅうろう)と25人の村人たちは朝日で光っている新川の水をじっと見ていたって。涸れはてていきそうだった田んぼは、この水で生き返ることができたんだ。

でもね、この頃の法律では勝手に工事をしてはいけないことになっていたんだ。しばらくしてからね、大坂検地奉行所の片桐且元(かたぎりかつもと)、増田長盛(ますだながもり)たちが弥十郎(やじゅうろう)と工事をした鳴尾の25人を取り調べに来たんだよ。そうして村人たちを前にして大声で聞いたのさ。
「お前たちは水が欲しいか。それとも命が欲しいか。」
とね。

今日はここまで、読んでくれてありがとう。この続きはどうなるんだろうね。
お休み、ポン!

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