幽霊の恋 その3(全5回)


新三郎は小舟の上で目が覚めたんじゃって。
「おお、魚釣りをしていた小舟の上で居眠りをしていたのか。いや、いや不思議。ここに懐(ふところ)の中には、お露さんからもらった秋草模様の香炉(こうろ)があるとはどういう訳であろうか。」
「新三郎どの。どうなされましたか」
とお医者さんの志丈(しじょう)が聞いたんじゃよ。
「あぁ、あの家から聞こえてくる琴の音が良いと思ってな。あちらのお屋敷はどなたのものか?」
「はい、飯島さまのお屋敷でございますけれども、琴の音など聞こえはしませぬ。空耳(そらみみ)でございましょう」
新三郎はな、何が何だか分からなくなってしまったんじゃよ。それでなぁ、根津の自分の家に戻ってからな、お露さんからもらった香炉を目の前に置いて、ぼんやり考えておったんじゃと。夜も更けて、皆寝入ってしまった真夜中のことじゃよ。
「からんころん、からんころん」
遠くから下駄の音が聞こえてきたんじゃ。新三郎は、どきりとして、耳をすませていたんじゃ。下駄の音は、だんだん近づいてくるとな、新三郎の家の玄関の前でピタリと止まったんじゃ。
「新三郎さま、お露さんをお連れしました。戸を開けてくださいまし。」
新三郎は玄関まで飛んでいくと、戸を開けたんじゃ。そこにはな、下女のお米(およね)さんと、あの秋草の模様のついた着物をきた、お露さんが立っていたんじゃ。新三郎はな、喜んで二人を家の中へと招き入れたんじゃ。お露さんは青白い顔をしてはおったんじゃが、やっぱり綺麗じゃった。綺麗な幽霊じゃった。話もそりゃぁ楽しく弾んでな。時間がたつのも忘れて話し込んでおったんじゃ。そうしてな、夜が明けると、一番鶏が鳴く前になるとな、
「そろそろ、お暇(おいとま)いたしましょう」
と言ってな。二人は帰っていったんじゃよ。

うーん、今日はここまで。
読んでくれて、ありがとう。
また明日、ポン!

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