熊谷直実(くまがいなおざね)と玉都留姫(たまつるひめ) その2(全4回)


お寺の住職はね、千代鶴姫(ちよつるひめ)、玉都留姫(たまつるひめ)が訪ねて来て驚いていたけれど、話をしてくれたんだよ。
「千代鶴姫と玉都留姫という名か。良い名を付けてもらったの。お前たちの父親は熊谷直実(くまがいなおざね)と言っての。源氏の源義経(みなもとのよしつね)さまに仕えていた大将だった。弓も槍も誰にも負けなかったそうじゃ。戦(いくさ)が強かったばかりではない。心の暖かなお人柄じゃった。一ノ谷で源平(げんぺい)の激しい戦いのあったときじゃ。源氏軍に追われた平氏(へいし)の者たちは船へと逃げて行きおった。その時平氏の中で一騎(いっき)遅れて走って逃げ行くものがあったんじゃと。熊谷(くまがい)公はすぐに追いつくと組み伏せて首をかき切ろうとして、ふと顔を見るとな。それはまだ若い色白の美少年だったそうじゃ。可愛いそうに思うてな、逃がしてやろうと思ったが、味方の源氏の者たちが集まって来て、切れや切れやと大声だ。熊谷公は、やむなく首を刎ねて(はねて)しまったそうだ。若武者の懐(ふところ)を見ると中からは錦の布に包まれた笛が出てきた。昨夜美しい笛の音が平氏軍の方から流れて聞こえて来たものは、この若武者が奏でて(かなでて)いたものだったのかとな。後で聞けば平氏の若大将、敦盛(あつもり)だったとのことだ。熊谷公は自分の罪深さを思ってな、きっぱり鎧(よろい)を脱ぐことにしたんじゃと。そしてな、ここで修業しておったんじゃ。ここを出てからどれくらいになるかのぉ。信濃(しなの)の国へ行くと言っておったから、きっと善光寺(ぜんこうじ)に行ったのであろう。信濃の国は遠いからのぉ。しばらくここで修業して尼僧(にそう)となってから旅に行くがよい。」
千代鶴姫と玉都留姫は、父上に会いたくて、しばらく尼僧になるために勉強をしたのさ。尼僧とは、女の人のお坊さんのことだよ。

今日はここまで、読んでくれて、ありがとう。
お寺で修行をした二人の運命は、どうなるんだろうね。
また明日、ポン!

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