逃げるキリシタン その3(全4回)


ポンと昔。薩摩(さつま)の国、今の鹿児島県に五兵衛(ごへえ)という人が住んでいたんだよ。

島原・天草の一揆の後に一人の男の人が五兵衛(ごへえ)さんの家に訪ねてきたんだって。見たこともないし、言葉の調子も違っていたからね、どこから来たのか?とか名前とか、家族は?なんていろいろ聞いてみたんだ。そしたらビックリさ。その男の人は島原のキリシタンで殺されそうになったんで逃げて来たと小さな声で言ったんだって。
「いや、泊めてやりたいがね。キリシタンを泊めたと分かれば、うちのもん全部が火あぶりになっちまうから、泊めてはやれんのだ。」
五兵衛さんはそう言って断ったんだよ。この頃、幕府からキリシタン禁止令が出ていたからね。キリシタンと聞くだけでも怖かったのさ。島原の男の人は、あたりをキョロキョロと見回しながら諦めて戻って行ったんだ。五兵衛さんはホッとしたよ。ホッとしたらね、気が付いたことがあったんだ。
「いや、まてよ。今わしは、あのキリシタンを泊めることを断った。はて、わしの家からキリシタンが出ていったところをお役人が知ったとしたら、わしも疑われてしまう。そうだ。いっそのこと」
五兵衛さんは槍を手に取ると、急いで島原の男の人が戻って行った方へと走っていったんだ。するとちょうどそこへ、女中のおみつさんと出会ったんだ。
「おぉ、おみつよ。旅の男を見なかったか?どっちへ行った?」
「はい、男の方でしたら、あちらへと」
おみつさんはね、左の道を指さして答えたんだよ。五兵衛さんはそっちへと走って行ったんだ。そこは、昼間でも薄暗い林の中の道だったんだ。

今日はここまで。
歩いて行くキリシタンの身に何か起こるのかなぁ。
続きは、また明日。お休み、ポン!

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