源氏の敵は、クツワムシ その3(全3回)


十郎はね、ぐるり囲まれた輪っかの中にいたから、じきに見つかってしまってね。縄で縛られて連れて行かれてしまったんだ。十郎が縛られるとね、クツワムシたちが、またガシャガシャと泣き出したんだ。
「おぉ、クツワムシも喜んでいるわい。クツワムシよ。ありがとうよ」
敵はそう言って十郎を連れ去っていったんだ。

それから何日かして、十郎は味方に助け出されてね。この金子の里に戻ってくることができたんだ。
「うーむ。散々な目にあった。忌々しい(いまいましい)のは、このクツワムシよ。えーい、皆の者、クツワムシを一匹残らず捕えよ。」
十郎からこんな命令が出たんで、村人たちもクツワムシ退治に力を貸したんだって。
「お強い十郎どのは、クツワムシがお嫌いなんじゃってよ。」
村人たちはコソコソと話をしていたって。

そんなことがあってから、ずっと後のこと。十郎は金子十郎家忠(かねこじゅうろういえただ)っていう、いかめしい名前で呼ばれるようになってね、そして、源氏の源義経に従って遠くの屋島の戦いや壇ノ浦の戦いでえらい手柄をたてたってことなんだよ。

金子十郎家忠一族のお墓はね、今も金子の瑞泉院(ずいせんいん)にあるんだって。

あれからというもの、金子の里にクツワムシは鳴かなくなってしまったのかなぁ。

最後まで読んでくれてありがとう。
お休み、ポン!

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