幽霊の恋 その4(全5回)


お露さんと、お米さんの歩く音、
「からんころん、からんころん」
新三郎はな、遠くなっていく下駄の音を耳の中で追っかけていたんじゃな。

新三郎はな、昼間はぼんやりしていてな。夜が来るのを毎日楽しみにしておったんじゃ。

それから、どれくらい経ったことじゃろうか。町に変な噂がたったんじゃよ。
「萩原さまのお屋敷に毎夜幽霊が出るんじゃそうですね。新三郎さまと骸骨(がいこつ)が障子(しょうじ)に映っているんですよ。」
この話を聞いた新三郎の知り合いのもんがな、心配して来てくれたんじゃ。新三郎は、この間、夢で見たことを話したんじゃよ。それじゃというんで、そのお医者さんの志丈(しじょう)にも話を聞いてみることにしたんじゃよ。
「はい、確かに新三郎さまとは、ハゼ釣りに参りましたが、もう8年も昔のことでございます。ちょうどあの時に飯島さまが、お露さんとお米(およね)さんを切ってご自分も腹を切ってしまったということを後で知ったんです。」
というじゃないか。何がなんだか分からなくなってしまってな、今度は飯島家のお墓のある新幡随院(しんばんずいいん)というお寺へ行って、和尚さん(おしょうさん)にこれまでのことを話してみたんじゃよ。
「ふーむ。お露どのとお米どのの魂(たましい)が迷っているからだろう。そういえば、墓に備えてある牡丹灯籠(ぼたんどうろう)がお弔い(おとむらい)から8年もの間、少しも破れずに新しいままでいるのを不思議だと思っていたところでしたよ。うーむ。お露どのの魂が新三郎さんの命を欲しがっているんでしょうな。私が書いた魔除け(まよけ)の札を戸口に張って、21日の間、念仏を唱えさせるのです。きっと、お露どのの魂を成仏(じょうぶつ)させられるでしょう。」

なんだか、少し怖いね。
続きは、また明日。
今日も読んでくれて、ありがとう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?