幽霊の恋 その5(全5回)


新三郎はな、和尚さんに言われたとおり、魔除けの札を張って、お経を一心にあげておったんじゃよ。「からんころん、からんころん」
その夜もいつものように、下駄の音が近づいてきたんじゃよ。
「新三郎さま、新三郎さま。お露にございます。お会いしとうございます。お傍(おそば)に行きとうございます。新三郎さま」
とお露さんの、か細い声が聞こえてきたんじゃよ。新三郎はな、お露さんに会いたくてたまらなかったんだけどな、安らかに成仏させてやるのは自分だけと思ってな。泣きながらお経を読んでいたんじゃよ。ずっと我慢しておったんじゃな。そして21日目の夜のことじゃよ。
「からんころん、からんころん」
いつものように下駄の音がしてな、
「新三郎さま。ひと目だけでもと申し上げておりますのに、うらめしゅうございます。もう今日限りでございます」
お露さんはな、泣いておったんじゃ。お経を読んでいる間は会えなかったからな。新三郎はな、それを聞くともう、たまらなくなってしまってな。お露さんが幽霊だって、何だっていいと思ったんじゃな。戸口へ行って戸を開けると、お札を引き剝がしたんじゃよ。お露さんの幽霊はな、新三郎に抱きしめてもらえたんじゃよ。新三郎は、、、、、どうしたかって?

そうさ、あの香炉を持って死んでいたんじゃ。お露さんと一緒に成仏していったんじゃろうよ。

新幡随院(しんばんずいいん)の8年もの間、新しいままであった牡丹灯籠は、わずか一晩のうちに、ボロボロになり、倒れていたんじゃそうな。

石の灯篭とは、昔は街灯がなかったので、石で囲われた中に蝋燭(ろうそく)を灯して街灯の代わりにしたんだよ。蝋燭の火が風に消されないように、その周りを紙で覆ったり(おおったり)していただね。その紙に牡丹の花の絵が描かれていたのかなぁ。

これでおしまい。
最後まで読んでくれて、ありがとう。
それじゃ、お休み。ポン!

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