吉吾(きちご)どんと鯖(さば)売り その1(全2回)


大分県の中津宇佐(なかつうさ)地方に伝わる面白い話だよ。
ポンと昔。
吉吾(きちご)どんという、とんちの上手な若者がいたって。とんちっていうのはね、どんな時にでも素晴らしいグッドアイデアが浮かぶことを言うんだよ。吉吾どんはしょっちゅう村人たちをからかったり騙し(だまし)たりしていたんだ。そうして面白がっていたんだよ。村人たちはいつも、やられっぱなしだったから、いつかは吉吾どんを懲らしめ(こらしめ)てやらなくっちゃって思っていたんだよ。
「よーし、今日こそ吉吾どんを炭俵の中に閉じ込めて海の中へ放り込んでやろうじゃないか。」
村の若者2、3人が集まって吉吾どんを捕まえると炭俵の中に閉じ込めて、蓋(ふた)が開かないようにグルグルと縄をかけてしまったんだ。炭俵っていうのはね、火を起こすための炭をたくさん入れておく丈夫な入れ物のことをいうんだよ。さぁ大変。炭俵の中からは、どうしたって外へは出られない。
「おいおい、わしをどうするつもりじゃよ。」
「いつも吉吾どんから騙されたり、からかわれたりするんでな。今日こそは吉吾どんを海ん中に放ってやるんさ。」
若者たちは吉吾どんの入った炭俵を棒で担いで歩いていったんだよ。吉吾どんは言ったんだよ。
「そうか、そりゃあ悪かったな。わしはな、ちょっとばっかり宝物を持っているんだ。もう海の中でお陀仏(おだぶつ)だからな。わしが死んだら村の者が取りにいくじゃろうからな。今、取に行ったらどうじゃ? お前たちに全部をやろうじゃないか。」
「おっ、そ、それをくれるっちゅうか?」
「うん、そりゃぁやるさ。」
「そりゃぁどこじゃ?」
「納戸(なんど)の箪笥(たんす)の中の一番下にある。」
「じゃぁ、吉吾どん。ちょっくら、ここんとこの道端で待っておれや。どうせこん中からは出られやしないんだからな。」
若者たちは大急ぎで走って行ってしまったんだよ。真っ暗な炭俵の中で吉吾どんはどうしたものか、考えていたんだよ。
「さば、さば、さばは要らんかな?」
ちょうどそこへ向こうの方から魚屋の鯖売りの声が近づいてきた。
「おーい、おい。何をしておるんじゃ」
「鯖を売っておるんじゃよ」
「うーむ。鯖売りよ。どうやらお前さん、目が悪いようじゃな」


今日はここまで。読んでくれてありがとう。
さぁ、吉吾どんと鯖売りの運命はどうなるのか?続きはまた明日、ポン!

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