せいやんの不格好な包丁 その2(全3回)


そんなある日のことだよ。いつものように、せいやんがお店で包丁を研いでいるとね、このお店で働いている女中の、お梅さんに頼まれたんだ。
「せいやんさん、お魚下ろすの、手伝うて」
お梅さんは色の白い姿の綺麗なひとだったんだ。せいやんは、顔を赤くしてね、ドギマギしながらも喜んで一生懸命に手伝ったんだって。せいやんはお梅さんが好きだったんだね。

せいいやんがお魚を捌(さば)こうと、お梅さんの使っている包丁を見ると、どれもこれも包丁の歯の手前が刃こぼれしているんだ。刃こぼれってね、包丁の刃に瑕(きず)がついて欠けていることをいうんだよ。
「こらぁ、切りにくいは。わいが研いでやる。」
よくよく見てみると、おうめさんの包丁は、どれもこれも手元の方の刃だけが、ちびたり欠けたりしている。歯の先は刃こぼれもしないで光っているのに。せいやんはね、お梅さんの包丁を研ぎながら、ふと手を止めると、思い出したように修理に出されてきている包丁の刃を見に行ったんだ。そうさ、どれもこれも皆、歯の手前がちびたり欠けたりしているんだ。お梅さんの包丁と同じだったんだ。
その頃の包丁は歯の厚さが、手元から刃先まで同じ厚さだったから、力を入れる手元の刃が最初にこぼれるんだときがついたんだね。
「どないすれば、ええんやろう? どないな包丁やったら使いやすいやろ」
せいやんは、それからというもの、朝早くから夜遅くまで仕事場に閉じこもって刃を打ち続けていたんだって。お梅さんが鍛冶屋(かじや)を辞めて実家に帰ったのも気が付かなかったんだからね。

ある日のこと。せいいやんは鍛冶屋の主人にやっと出来上がって一本の包丁を見せたんだ。それは今まで見たこともないような不格好(ぶかっこう)な包丁だったんだ。

今日はここまで。読んでくれて、ありがとう。
せいやんは、どんな包丁を作ったんだろうね。明日分かるよ。お休み、ポン!

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