源頼政(みなもとのよりまさ)と鵺(ぬえ)退治 その2(全2回)


聞いていた話どおり真っ黒な雲がこちらの御所(ごしょ)の方へと夜空を這って(はって)来るのが見えた。黒雲はむくりむくりと大きく広がると御所をすっぽりと隠してしまったんだ。御所のなかでは、また天皇はお苦しみになっていたんだよ。頼政(よりまさ)はね{怪物ござんなれ}と静かに目を閉じて神にお祈りしたよ。そうしてから、空を見上げると、なんと雲の中に怪しい(あやしい)影が動くのを見つけた。頼政は間髪(かんはつ)を入れずに渾身(こんしん)の力を込めて、はっし、と鏑矢(かぶらや)を射た。手ごたえあり。一瞬の静けさの後、その怪しげな影は、どどっと大きな音を立ててお庭へと落ちてきたんだ。家来の猪早太(いのはやた)は、走り寄って素早く太刀を抜いて9回もとどめを刺したんだ。火を灯してよくよく見れば、それは、頭は猿、胴は狸、手足は虎、尾っぽは蛇という、大層恐ろしい見たこともない獣(けもの)だった。これが鵺(ぬえ)さ。

この後、近衛天皇はすっかりお元気なられた。天皇はね、大層お喜びになって、頼政にご褒美として、宝剣師子王丸(ほうけんししおうまる)という刀を与えたんだ。そして、退治された鵺(ぬえ)は、空船(うつぼぶね)という木をくりぬいた船に乗せられると加茂川に流してしまったんだよ。その空船は淀川から大阪湾へと流れ流れて芦屋の浦に着いたんだ。芦屋の里人たちはそれを見つけてびっくりしたよ。見たこともない恐ろしい獣だったからね。たたりがあったら怖いと言ってね、その鵺を丁寧に弔って(とむらって)お祀りしたんだ。これが世に名高い鵺塚(ぬえづか)さ。塚というのはお墓のことだよ。頼政はね、このことがあってから次の第77代、後白河(ごしらかわ)天皇からも頼りにされたということだよ。

今日も最後まで読んでくれて、ありがとう。

お休み、ポン!

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