一文銭の穴を狙う その3(全3回)


槍衾(やりぶすま)とは、まず横三列に並ぶ。
一列目の者たちは、膝の高さで槍を構える、二列目の者たちは、腰の高さで槍を構える。そして三列目の者たちは、肩の高さで槍を構えるのさ。これを相手が見たら、槍の穂先が並んだ衾(ふすま)のように見えるんで、槍衾(やりぶすま)というんだって。衾とはね、ほら和室畳のお部屋に入る時に使われている扉のことさ。敵も味方も槍衾を作って、「かかれっ!」の号令でそのまま走って敵軍へと突き進んで行くんだよ。皆どんなにか怖かったことだろうね。

ところがね、戦いをしていない時には、この長い槍がいろいろと重宝(ちょうほう)していたのさ。長い棒だから、川底に突き立てれば、川の深さを測ることができたよ。でね、何とこの棒を使って高跳びのようにして、川の向こう岸へと渡って行ったんだって。腕の力も必要だけれど、ジャンプ力も大切だったんだね。それから、この棒に荷物をかけて仲間同士かついで行くこともあったんだって。二本の槍を使って簡単な担架(たんか)を作ってみたり、梯子(はしご)にしてみたり、旗を付けてみたり、またある時は木の枝に渡して洗濯物を干したりもしていたんだって。そうだよね。体を洗ったり、洗濯をしたりもしたはずだもんね。戦いの合間に洗濯物を槍にかけて干していただなんて、そんなシーンは物語には出てこないけど、洗濯をしたと聞いたら何だか足軽たちの汗の匂いがしてきたよ。

槍の話は、これでおしまい。
最後まで読んでくれてありがとう。
ポン!

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