見出し画像

ごぜ滝の由来(その2 全2回)

ぽっつらぽっつら歩きながらあのことそのこと、わいわいと話をしながら歩いていたんだよ。
「かりさかの坂はよいじゃねえからな、そのでっけえ風呂敷持ってやるべ」
男の人は親切だったんだ。でも、男の人はふっと思ったんだ。
『まてよ、このごぜたちゃ、眼がめえねんだ。なにしたって追いかけもできねえし逃げもできねえ。ゆんべ金をもらっていたで。ちょうどそこにでっかいさわがある。でっかい滝だでな』
「ごぜさんや、ちょっくらやすんべえや」
ごぜさんたちはやれやれと道の脇に座って風呂敷を下ろして休んだんだ。男の人の顔が変わった。けれど眼の見えないごぜさんたちにはそれがわかんなかった。竹筒からゆっくり水なんか飲んでいたよ。
「いいもん見せてやるべ」
男の人は一人のごぜさんの手を取るとさわのある方へとつれていって、ほいっとかかえたかと思うと滝つぼの中へと放り投げたんだ。悲鳴を聞いたほかのごぜさんたちは逃げようと思ったけれど、なにせ眼が見えないから動くに動けなかったんだ。じっとしているしかなかったんだ。次々とかかえあげられては、ほい、ほいっと深い深い滝つぼの中へと放り込まれていったんだ。滝の水の落ちる音が大きくて落ちていった音さえも聞こえてはこなかったよ。道にはお金の入った風呂敷と琵琶が男の人を待っていたよ。このことがあってからさ。この滝野そばを通ると、滝つぼの中からべんべんと琵琶の音が聞こえてくるというのさ。ひえーっという女の人の叫ぶ声が聞こえてくるというのさ。ようようと語るごぜさんの低い声が聞こえてくるというのさ。
いつしか、みなこの滝を『ごぜ滝』と呼ぶようになっていったんだって。
 
最後まで読んでくれてありがとう、ポン!
 
#視覚障碍者 #盲人 #弾き語り #琵琶

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?