平戸(ひらど)の猿と山犬と狼(おおかみ)その2 (全2回)
村人はね、山犬に嚙まれないように木の枝を口に挟んでから、手を口の中をつっこんで骨を取ってあげたんだって。野生の山犬とは怖いもので、人間だって噛み殺されてしまうほどなんじゃよ。喉に刺さった骨を取ってもらった山犬は、尻尾を振ると山の方へと走って行ったんだって。
その次の日の事さ。その村人が朝、外へ出てみると、家の前に一頭の牛がのっそりと立っているじゃないか。見れば、牛の首に括り(くくり)つけられた縄が断ち切れている。その切り口は歯で食いちぎったようにボロボロになっていたんだ。はて?誰がこの牛を?と思った村人は、はたと気が付いたんだ。そうだ、昨日の山犬だ。あの鋭い歯でこの太い縄を噛み切ってお礼にこの牛をここまで連れて来たんだ。村人も村の人たちも、そりゃあ感心したのさ。
次は、ある旗本の領地でのことだよ。一匹のオオカミが森から出てきて、お屋敷の門の前にじっと立ったんだって。旗本はね、何か訳があるのかとおそるおそる近寄っていったんだ。するとオオカミは口を開けて喉の奥を見せたんだって。覗いてみれば、何やら骨のようなものが刺さっている。こりゃあ苦しかろう、とその骨を抜いてあげたんだって。オオカミは骨を抜いてもらうと、ほっとしたように静かにどこかへ行ってしまったんだって。そしてその次の日さ。お屋敷の門の前に誰の子供か知らないけれど、生まれたばかりの人間の赤ちゃんが置かれていたんだって。よく太って元気な赤ちゃんだったんだ。よくよく見れば、赤ちゃんの首の後ろには、甘噛み(あまがみ)の後が残っている。そうさ、昨日のオオカミがお礼にどこからか連れて来たのに違いないんだ。不思議なことはね、どうしてあのオオカミが、この旗本に子供がいないってことを知っていたかってことなんだ。この赤ちゃんは大事に育てられたよ。やがて大人になって、この旗本家を継いだんだ。あの時からね、この旗本家の当主は代々後ろ首に獣(けもの)の歯型のような、くぼみがあるんだというんだよ。
最後まで読んでくれてありがとう。
不思議な動物たちのお話しだったね。
お休み、ポン!
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