熊谷直実(くまがいなおざね)と玉都留姫(たまつるひめ) その3(全4回)


やっと二人は尼僧(にそう)になれて信濃へと旅立つ日がきたよ。
「気を付けて行きなされ。熊谷(くまがい)公は、こう面長で額(ひたい)の真ん中に仏様のようなほくろがあってな。肩幅が広く穏やかな方じゃ。娘たちだと分かっても名乗らぬかもしれぬ。」
こう言って送り出してくれたんだ。二人の旅は長く苦しかったよ。夜は農家の家に泊めてもらいながらの旅だよ。食べ物も恵んでもらわなければならなかったのさ。それでも二人だから励ましあいながら信濃の国へと向かっていったんだ。そうして、やっと船で犀川(さいがわ)を渡ると、善光寺平へ辿り着く(たどりつく)ことが出来たんだよ。

ところがね、少し前から玉都留姫(たまつるひめ)は高い熱が出ていたんだよ。船から下りると、もう歩けなくなってしまった。道端の草の上に倒れ込んでしまったんだ。玉都留姫の体は火のように熱かった。玉都留姫は、はぁはぁと息をしながら言ったよ。
「お姉さま、私はここにおりますので、どうぞお先へお行きくだされ」
そう言うんだよ。千代鶴姫(ちよつるひめ)は困ってしまったよ。誰か親切な人は通ってはくれまいかと祈ったよ。するとね、願いが叶ったんだね。向こうからお坊さんが2,3人こちらに来るのが見えたんだ。千代鶴姫は急いでお坊さんたちの傍(そば)に行ってね。病気の妹を助けてくださいとお願いしたんだよ。お坊さんたちは、すぐに駆け寄ってきてくれたよ。そしてね、近くにあったお堂に玉都留姫を運んでくれて、看病してくれたんだ。蓮生坊(れんしょうぼう)というお坊さんは、自分の衣を脱ぐと玉都留姫にかけてくれたんだ。そして、頭陀袋(ずだぶくろ)から布を取り出すと若いお坊さんに水で濡らしてくるようにと言ったんだよ。
「私は、ここで病人を看ておりますから、すぐに善光寺に行って医者を連れて来てください。」
蓮生坊は、若いお坊さんにそう言ってね、水で濡らされた冷たい布を玉都留姫の額(ひたい)に乗せたのさ。
「お坊さま、先ほど善光寺とおっしゃいましたが?」
千代鶴姫は親切なお坊さんをじっと見て言ったよ。

今日はここまで。読んでくれて、ありがとう。
親切なお坊さんって 誰なんだろう?その正体は?
続きはまた明日。お休み、ポン!

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