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感情を評価しない

 オランダ全土の約15%の学校が導入するシチズンシップ教育「ピースフルスクール」。1990年代にいじめや子どもの問題行動が増加した際、国全体での解決に向けて、学校風土や教室の雰囲気を改善することを目標として開発されたそう。学校だけでなく地域社会にも広がり、子どもから大人まで様々な人が学ぶ「ピースフルコミュニティ」が生まれている。出てきた問題に対処療法的な手を打つのではなく、根源的なアプローチで「文化」とも呼べるものを時間をかけて培う、これこそ教育にできることだと希望を感じました。久しぶりに、自分のための覚書です。


ピースフルスクール3つの特徴

1.感情リテラシーを磨く
『他者の気持ちを理解するために先ず自分の気持ちを知る、言葉で伝えることができるようになる』

日本の学校では「他者への思いやり」の話ばかりで、自分自身を大事にすることを教わってこなかったような気がします。他者の意向を察して自分が口をつぐみがちな日本人には苦手な分野かも知れませんが、自分の気持ちを知り言語化して相手に伝える力は、きっと自分を自由にしてくれます。
言葉で感情を伝えられた相手は、「聞いて共感するが、その感情に入り込まない」ようにすることが必要、と。こういうことを意識できていたら、私は若いころもっと生きやすかっただろうな。

2.主体性を育む
『真の民主性はコンフリクト(対立)に基づく。他者の意見に反対の意見を持つことは悪いことではない。「意見」と「人」を分けて考えるようになる。「意見が違っても友達である」ことを学ぶ。』

「和を重んじる」の前提として必要なのが主体性。自分の考えを持ち、それを伝えることが民主的な社会の土台。対話の授業では、賛成・反対の意見を伝え、聴き合ってお互いの意見に学び、自分の考えが変わることも認められる。
「自分の考えが変わる」ことを体験し、それもありだということを他者と共有できるは大切な機会。前提を確認しあって、これからますます複雑なことを対話で解決していくための土台を作っている感じがする。

3.共感力を育む
『多様な人々が共生するからこそコンフリクトが起きるのは当然。民主的な社会を実現する人は、コンフリクトを話し合いで解決する。』

ウィンウィンでの解決を目指すけれど、どうしてもできないときには「妥協」も時に必要と学ぶ。
「できることを教える」ではなく「難しい理由を教える」。難しさを前提とした上で、それでもどのようにしたらよりよくしていけるのかを考えて実践する。なんて理想的。

シチズンシップの3類型

ピースフルスクールでは、シチズンシップを以下の3類型に分類するそうです。

1.個人的な責任を持つ市民
法を遵守し、共同体に対しての責任を持つ。緊急事態には進んで助け合う。※多くのシチズンシップ教育はここを目指しがちだけれど、「個人の責任」に帰着するのであれば社会がどんな体制でも(独裁体制であっても!)関係ない。

2.参加的市民
共同体の活動に積極的に参加、物事を変革、改良することができる。政府の制度がどのように機能するかを知っている。
※この段階では、システムそのものに対して批判的に考えたりアイディアを生む出すことはできない。

3.社会的正義を守る市民
社会的、政治的、経済的な構造に対して、クリティカルに判断し、よりよい社会にするために新たなアイディアを生み出す、それを実行に移す。
※ピースフルスクールプログラムは、この段階を目指しています。

民主的な社会とは、「多様な人々が安心して幸せに共生できる社会」であり、その実現のために市民に求められるのは自立と共生の2つの力。
民主的な意思決定/対立の解消/社会的責任/多様性の受容/民主制のリテラシーなど、基本となる社会的・情緒的能力を養うためにどんなレッスンがあるのかなども大変興味深かったです。

まとめと雑感

 講座の中では、「賛成」「反対」「わからない」というワークをやりました。一つのテーマについて、自分の考えを元にまず3箇所にわかれ、それぞれの意見を聞き合います。意見を聞くなかで自分の考えが変わったら自由に場所を移動してOK。意見を述べる際には「なぜそう思うのか(根拠や事例)」を添えて話をします。
 実際に体験してみると、結論を主張するだけではなく、その背景にある経験や感情まで聞くことで、その人の考えについての理解が深まっていくのがわかります。「意見は変わるものだ」という前提を共有できていることで、安心して違う意見を表明し、自分の中に生まれた変化を言葉にすることができます。変化を歓迎してもらって、「なんで?」と興味をもって聞いてもらえる・・・これはぜひ幼いうちから体験しておきたいことです。日々の中でこういう経験が積み重ねられたら、学校の文化はそのように作られていき、やがて社会に反映されていきますね。

その他、印象に残った言葉。
・会話と対話の違いは、そこにリフレクションがあるかどうか。リフレクションがあると意見は変化する。
・感情が表現できれば自分の意見が出てくる。感情と自分をつなげる。
・「けんかをしたら仲直りをして帰る」が原則
・自分を表現できないと、人の気持ちを「評価」してしまう。
・友達同士の声かけや親の声かけ、先生の声かけなど、日常に身を浸している「文化」の中で知らず知らずのうちに身につけているものがある。
・人は「評価」ではなく「リフレクション」を通して学ぶ。感情や気持ち、思考、行動をリフレクションしながら学ぶ。
・学校でみんなで学ぶことで「ちゃんと話し合いに参加するとはどういうことか」をベースとして共有できるようになる。できない子も、できてない自分を認識できる。
・社会に対する参加意欲は、子どもたちがどれだけ社会に歓迎された経験を持っているかによって決まる。「社会を教える」のではなく、社会の一員として歓迎することが大事。
・安心安全とは、周囲の人に対して、素の自分を見せることを自分自身が受け入れられる状態。素の自分を見せても、周囲の人に受け入れてもらえる安心感。相手の感情を「評価」しないこと。
・「私と違うあなたを尊重します」ではなく、「私も多様性の一部である」。多様性に優劣の概念を持ち込まない。多様性は相互に学び合うこと。
・感情リテラシーを育まないと、人間としての機能が情報処理に偏ってしまう。
・反省には学びが起きない。反省している間には心理的安全性がないから。安全性が担保されないと学びがない。
・子どもでもできる、問いかければいいだけ。
・「これしかない」と思い込んでしまうと、「説得する」理由はあっても「対話する」理由はなくなってしまう。自分の枠の外に出る。外のものを自分のうちに取り込んでいく。それが学び。評価判断を保留にすることが大切。
・同質性を生かす文化:多様性の中にある共通点に焦点を当てる。多様性が生かせない。
・多様性を包摂する文化:心理的安全があり、「意見の違いを称賛する文化」がカギ。多様性を生かす。「その発想は全くなかった!もっと教えてください」「私の考えは真逆です、その意見の背景を聞きたいです」
・経験を掘り下げて聞くことで感情が引き出される。意見の賛成反対以上に、その背景を聞くこと。背景にある「根拠」に知恵がある。自分の意見は変化してもよい。

学校の中で、みんなでやるからこそより意義がある、可能性がある、そんなプログラムだと思いました。
タイトルにした「感情を評価しない」は、最も印象的だった言葉の一つ。人の感情だけでなく、自分自身の感情も然り、ですね。

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