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大陸の興亡を見届けよ『歴史隆々(シェアウェア版)』

ゲームの概要

 『歴史隆々』(以下、本ゲーム)は本丸浩紀氏製作のフリーウェア及びシェアウェア。

 ジャンルは歴史観戦ソフトという変わったものとなっている。後述するが、これはゲームというよりもシミュレーターに近いだろう。

 ゲーム内容は、1から4万までの数字を打ち込んで大陸を生成し、そこで繰り広げられる戦乱と平定の歴史を観察するというものだ。ストーリーはプロローグ以外は事実上存在しておらず、大小様々な国が勢力争いをしていくことで歴史が作り出されていく。

 本ゲームは旧バージョンであるVer.2.20と現行バージョンであるVer.3.10の二種類が配布されていた。

 前者はフリーウェアとして作者のHPからDLできたが、現在はリンク先が消滅しており入手不可能。後者も作者HPではダウンロード不可能となっているためVectorで購入するか、後述する購入手続きをする必要がある


 注意事項として、前述の理由から本記事は主にシェアウェア版であるVer.3.10以降に関するレビューである点をあらかじめご了承いただきたい。


歴史の観察者

 最大の特徴として、本ゲームに最終目的はない。前述した通り、本ゲームは歴史観戦ソフトであり、プレイヤーが出来るのは箱庭のような大陸で領土争いを繰り広げる様子を眺める事だけだ。

 基本的な歴史の流れは、群雄割拠状態の大陸を一つの勢力が平定→反乱が起きる→王朝崩壊→群雄割拠→別の勢力が平定という一種のサイクルとなっている。歴史が誕生した直後はこのサイクルの最初の部分、つまり群雄割拠の状態だ。

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プロローグ全文。シナリオの初期状態によって下線部の名称が変化する。また、帝国が開始時点で存在していた場合は内容が一部異なる

 しかしそれがこのゲームの魅力である。プレイヤーは箱庭の外から、数千から数十万の兵士たちによる会戦や将たちの謀略の様子などを歴史として観察する事ができる。

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人物のステータス画面。ステータスの色が赤い程強力な武将である

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各勢力の戦力画面。司令官が指揮できる兵は最大32000

 それによって君主が野心あふれる腹心に暗殺されたり、日本の真田家のように親族同士で分裂し戦いが行われたりといったドラマ性が生じる。

 本ゲームには文字通りキャラの顔と呼べる立ち絵がどの人物にも存在していない。しかし本ゲームの場合は、人物の経歴そのものが一種のキャラクター性の象徴として強く位置付けられている。歴史が更新されるたびにその人物それぞれのドラマや人格が現れていくのだ。

 寿命や成長のピークも設定されており、若いほどステータスが上がりやすく、老いると武力の数値が下がる代わりに智力が上がり続けるようになる。こうした要素もそれぞれのキャラクターの個性を強めていく。

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ある程度活躍した人物の経歴。武勇・知略共に優れた名将のようだ

 一つのシナリオに登場する人物は百人以上に上り、ソート機能を活用しても、特定の人物を探すのは非常に困難だ。もしも気になるキャラクターがいるのならば、その人物の経歴を開いて「登録武将」に登録するとよいだろう。

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経歴画面。右上の「登録」を押す事で「登録武将」に記録される

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「登録武将」画面。右上のボタンを押す事で所在地が点滅するようになる


世界に投じられた一石、天命

 シナリオ番号や開始年を変える事でも歴史が変化するが、それ以外の方法でも歴史に影響を与える事が可能だ。それは天命と呼ばれる存在にある。

 天命とは、プレイヤーが自由にステータスや登場年を設定して歴史に登場させる事ができるキャラクターの事だ。

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レビュー執筆にあたって生み出された天命、ヨウカン・トラヤ。初めて歴史に現れた時、彼は無能すぎる君主にキレて敵国に寝返った

 天命は一つの歴史に一人までと決められており、同時にプレイヤーがどの国に所属させるかを選ぶ事はできない。天命が歴史上に現れるとき、最低階級の地方司令から一般的な指揮官または大国の元帥、あるいは一国の君主となっていることだろう。

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トラヤ2度目の誕生。ステータスが高い程初期の階級が高くなる傾向にある

 しかし、どれだけ強かろうと人望があろうと結局一人だけではどうにもならないという現実が待ち受けている。

 仮に全てのステータスを最大にした天命を歴史に登場させたとしよう。その場合は戦場に出れば連戦連勝の名将として活躍がのぞめる。だが階級の低さや思想によって君主に冷遇される事もあれば、高すぎる知力から後方で政務に励む羽目に陥る可能性もある。

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大軍から城を守りぬいた事を評価されたトラヤ。以後5年間この城を守り続ける事となる

 筆者は天命を湖に投げ込まれた石だと思っている。投げ込み方と石の大きさによって様々な波紋を残すが、場合によってはただ沈むだけで何も残さない事も起こりうる。

 例え皇帝として平定に成功したとしても、子孫が同様に優秀とは限らない。実際に筆者がレビュー投稿直前に見届けた歴史では、天命が皇帝となり大陸の平定に成功したものの、孫にあたる3代目皇帝が諸侯から支持を受けられず次々と各地で反乱が発生し帝国が崩壊してしまった。

 天命の一族は歴史を変えるファクターにはなり得ても、歴史の中心であり続けることは出来ないのだろう。

シェアウェア版とフリー版の違い


 ここからはシェアウェア版とフリー版の違いについて触れていく。フリー版は記事冒頭で述べたように現在入手不可能だが、筆者はどちらもプレイ済みであるため比較として取り上げる。

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フリー版の画面。全体的にシェアウェア版より簡素だが、地図に近い色合いでこちらも味がある

 シェアウェア版がフリー版と違う点の具体的な例を挙げると一部イベントや戦術の有無、簡易戦闘や戦闘速度の調整といったものだ。

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シェアウェア版限定の簡易戦闘。スムーズに戦闘が終わるため、展開が早くなる

 特に戦闘速度の改善が大きな改善点であり、フリー版でのテンポの悪さが大幅に改善されている。シェアウェア版で実装された簡易戦闘は、特定勢力や人物が参加しない時などのプレイヤーにとってあまり興味がないシチュエーションでの戦闘を高速で終了させてくれる。

 フリー版は筆者が高校生の頃にプレイしていたのだが、当時もコンセプトの良さは確かに感じられるものであった。しかし会戦のテンポが非常に悪く、状況によっては現実の一時間程度の時間をかけても決着が着かないといった事態も起きた。

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簡易戦闘では数十万の兵士がぶつかり合う大規模な戦いでもスムーズに進行する。

 一方、シェアウェア版にも難点がある。それは追加されたイベントの一つである異民族襲来だ。

 異民族は大陸を平定した後に辺境から襲来する敵対勢力だ。兵力も多く非常に強力であり、王朝の平和を脅かす存在として用意されている。 

 基本的に王朝は異民族を積極的に排除しようとするが、頻繁に襲来するため疲弊し、いつの間にか異民族に辺境の数か所を制圧されてしまったというパターンが多い。

 停戦協定が、結ばれたその月の間に破られるような事も起こる本ゲームの世界だからこそ、平和な時を少しでも長く楽しみたかったという気持ちはある。

シェアウェア版購入に関する注意事項

 2020年2月現在、本ゲームの開発は無期限停止状態となっている。それに伴って購入方法が大きく変更されている事に注意してほしい。

 Vector版はシェアレジの利用、もしくは下に添付した製作者のツイートを参考にコンタクトを取る事で正式版を購入可能だ。

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Vectorで直接購入する場合はこの「カートに入れる」をクリックして購入フォームに飛ぶこと

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 このボタンをクリックしてダウンロードした場合、無料で本体のみをダウンロード可能。この場合は銀行振込などで解除キーを購入する

 直接購入時の代金は税込1000円。Vector版は手数料がかかるため、税込1308円と直接購入よりも300円ほど高くなる。ただしソフト本体のダウンロードは無料。

 解除キーを入力していない場合は、ゲーム内時間で12か月分の試用期間でプレイして購入を検討可能だ。試用自体は何度でも可能となっている。


総評

 プレイヤーが介入する要素がほぼ無いというゲームとしてはかなり特殊な作品。しかし架空の世界の歴史を観戦するというコンセプトは非常に珍しく、代替となるゲームもほとんど存在しないのも事実だ。そのため入手が困難な現状は残念だと感じる。

 もしも入手する事が出来るのならば、自分の頭の中で物語を組み立てて登場人物たちのドラマに思いをはせることが出来る人は十分に楽しむことが出来るだろう。

 自分の好きなキャラクターを天命にして送り出すと、稀に1年目での敗戦からの処刑などで悲しみを背負うのであまりお勧めしない

 どのような雰囲気なのかを知っておきたい方は、Vectorでダウンロードして試用期間で遊んでみるとよいだろう。

 余談だが、本ゲームはかの有名な大作スペースオペラである『銀河英雄伝説』に強く影響を受けている節がある。デフォルトのBGMがクラシックである事、天命がいくら強かろうと栄華が続かない事、シナリオ番号1が必ず帝国の衰退から始まっている事などだ。

 これらは同作による、ある種のオマージュなのかもしれない。


       (2020年2月11日 購入方法・一部表現について追記修正)





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