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西大門刑務所歴史館

韓国の首都ソウルには、日本人が建築した建物が今も多く残っています。銀行、デパートなど比較的大規模で、戦後も利用価値の高かった建物です。

その中に刑務所も含まれています。西大門刑務所と呼ばれ、ソウルの中心街に近い場所に建てられたレンガつくりの刑務所です。刑務所自体は別の場所に移転し、歴史館となって、施設が一般公開されています。昨年ここを訪れたので、少し書いてみます。

明治時代、日本の各地に建設された刑務所は、レンガづくりが一般的でした。一部はまだ日本にも現存しています。

暗いイメージを少しでも変えようというのでしょうか、クラシックなデザインで、まるで大学の門のような立派な造りになっていしまた。西大門刑務所もその流れをくんでいます。日本は韓国に近代化をもたらせたという論議があります。

日本の統治時代に、朝鮮半島の人口が倍増している。識字率も一桁しかなかったのが、統治時代にほぼ国民皆教育となった。小学校、中学校、高校、そして旧帝国大学まで開校している。衛生状態もよくなり、鉄道等のネットワークも整備された。

ただし、その前提は、「完全なる植民地支配」を目指すものだったことは忘れるべきではないでしょう。

さらに、日本の敗戦、韓国でいう「光復」後も、韓国は日本支配時代の影響を色濃く受け継ぎながら、開発独裁から高度成長、さらに民主化につながっていきます。そういった日本がもたらせた光と影を、最も象徴的に伝える建物が、西大門刑務所だと思います。

年間六十万人が訪問するそうです。外国人訪問者は六万人、そのうち日本人が四万人を占めています。日本の若者も多いそうです。歴史館では日本語のパンフレットも売られていますが、日本では詳しいガイドブックがありません。機会があれば、詳しく調べたいと、個人的に資料を集めています

歴史館の展示は三十五年間の植民地支配時代の反日闘争が中心になっています。日本の官憲によって厳しい拷問を受け、亡くなった人たちの写真や記録が復元され、収録されています。かなり刺激的な内容です。

しかし実は、この刑務所は戦後の歴史の方が長いのです。現在社会の中核をになう人たちの中にも、民主化運動に参加して、ここに拘置された記憶を持つ人たちも多いのです。

そもそも韓国では刑務所と政治運動は切っても切れない関係でした。歴代の大統領経験者の中にも、獄中で長期間暮らした経験を持つ人が少なくありません。

たとえば「死刑囚から大統領に」と言われ、後にノーベル平和賞を受けた故金大中・元大統領は、人生で五回死線を越え、六年間の監獄生活を送りました。さらに数十年にわたる亡命と軟禁生活を味わっています。そういう受難の時代にたくさんの本を読み、指導者としての力を付けたのです。雑草は、コンクリートで覆われても少しの隙間を見つけて伸びてきます。むしろたくましさを増し、コンクリートを押しのけます。

展示で、日本による戦前の弾圧を強調するのは仕方ないにしても、民主化運動を弾圧し、活動家を刑務所に入れた軍事独裁時代についても積極的に公開して欲しいと思うのは私だけではないでしょう。

軍事独裁時代は、大統領に当選した朴槿恵さんの父、朴正煕大統領の時代でした。この時代に民主化運動に参加して有罪判決を受けた人たちの再審裁判が最近あいついでいます。

その結果、無罪判決が続々と出ています。当時の捜査や判決に違法性があったと認定されているのです。それだけではありません。

実は、戦前、この刑務所に投獄された人の中には、地元の人たちとともに抵抗運動を行った日本人もいました。三宅鹿之助という京城大学の先生でした。この本に詳しい紹介があります。只、意志あらば(外部リンク)

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戦後、民主化闘争のため、ここに投獄された人たちを、日本の人権団体が本や衣服の差し入れをして、支援しています。一般の人が参観できる刑務所は台湾にもありますが、離島に建っており、行くのは簡単ではありません。西大門刑務所歴史記念館は、都心にあり、アクセスも良好です。

もしソウルに行くチャンスがあったら、日本と韓国の歴史を考えるうえでも、訪れてみてください。ちなみに日本でも大ヒットした砂時計という連続テレビドラマは、この刑務所で収録されたそうです。まずドラマを見てから訪問するのも手かもしれませんね。

地下鉄の独立門駅から徒歩3分ほど。入場料は1500ウオンで、月曜日が休館です。詳しい展示内容はこちら。西大門刑務所歴史館

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http://www.sscmc.or.kr/foreign/jp/exhibition.html

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