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今の自民党を読み解くための3冊 自民党 価値とリスクのマトリクス(スタンド・ブックス) 自民党―「一強」の実像 (中公新書) 日本共産党 噂の真相(扶桑社 )

   

この原稿を書いている今、自民党の総裁選が行われている。どこのテレビでも4人の候補者を集めては、さまざまな質問を投げかけている。

突出した候補がいないことでかえって、選挙の行く末に関心が集まっているのだろう。

4人の候補は、今回新しいというか、コロナの時代を意識した経済政策を熱心にアピールしている。しかし、候補者として脚光を浴びるまでどんな主張をしていたのか。


彼らの原点もしっかり見なければなるまい。

その点で参考になるのがこの本だ。

過去に有力な政治家が、著書を通じて何を訴えていたかを総合的に分析している。著書は、中島岳志氏。リベラル系の論客だ。

河野太郎についての重要な指摘は、かなり徹底した新自由主義的主張(110p)をしているという部分だろう。

それは敗者と弱者を混同するなという独特の表現で現れている。

河野は「敗者」と「弱者」を混同してはならないという点を強調します。「敗者」は資本主義社会のなかで「勝負」に負けた人たちで、条件が整えば再び「勝負」に挑める。こういう人たちは自分で再チャレンジしてもらう。政府は助けなくていい。弱者には手を差し伸べる。(110p)

社会的な分配を重視するリベラルとはかなり距離があると認識すべきだろう。むしろ安倍、菅路線に近い。もし首相になれば相当な摩擦を起こすが、支持も集めるだろう。

岸田文雄について著者の中島は

岸田さんはその時どきの権力者に合わせ、巧みに衝突を避けてきた政治家です。はっきりりとしたヴイジョンを示さないことによつて敵をつくらず、有力な地位を獲得してきた。よく言えば堅実、冷静。しかし、自分の国をどのような方向に導きたいのかよくわからず、何をしたいのかが極めて不明瞭な政治家です。(123P)

例えば憲法についての以下のあいまいな発言が引用されている。

9条に何か付け加えることによつて、自衛隊が違憲だといぅ疑念を払拭したいという安倍首相の思いも理解する。実態面が変化しないなら、私の考えとまったく違いがない。(塩田潮『岸田文雄 踊り出た次の首相候補「リベラル」の旗印は本物か」『週刊東洋経済』二〇一八年二月三日号

可もなし、不可もなし、スタンスがはっきりしないという政治家が、今の日本に必要なのか。

自民党全体を見るには

この本が参考になった。この本では自民党は一強だが、3つの弱体化に晒されていると書いている。

派閥の統率力、資金収集力、党員数だ。具体的な数字は本書を読んでほしいが、農村や地方組織に頼れず、浮動票頼みになっているのが実状だ。だから、総裁選を派手にやって、世間の注目を集め「選挙の顔」を作らないと票が集まらない。

無党派層に向けた「選挙の顔」として党首の役割が高まり、広報改革が進められた。政治資金制度改革の結果、政党交付金の配分権を持つようになった党執行部の権力が強化された。政策決定過程についても、官邸主導が強まっていった。他方、長らく自民党の「党中党」であった派閥は、無派閥謎員の増加にみられるように弱体化した。(274p)

2017年に出版された本だが、自民党の現在の姿を見事に言い表している。

さて最後は、自民党に関する本ではない。日本共産党に関する本だ。まったく逆の視点から自民党や今の政権を見ると、見えてくるものがある。

日本共産党は、戦前から軍部の弾圧に屈せず、戦ってきた歴史がある。いま野党の中で、その組織力の強さで注目を浴びている。篠原氏は、元党員だけに、共産党が抱える矛盾についてよく掘り下げている。

篠原氏は、共産党が守っている「民主集中制」について疑問を投げかけている。これはいったん討議で決まったら全員が従うというシステムだ。

日本共産党は「民主集中制」という統治システムを理想としています。正式には「民主主義的中央集権制」といって、「ソ連の国父」レーニンが革命党の規律として導入したものです。

全体方針は党員が民主的に討議して決定し、多数決で決めたことには意見の違いを保留して全党員が従うこと、上級機関の指導に下級組織や党員は従うことなどが厳密に決められ、党員同士が横の連携をとってはならないことが「分派の禁止」として強調されています。

そのため派閥やグルーブが競い合う自民党総裁選のようなものは共産党にはあり得ません。(20P)

天皇制、自衛隊について共産党は徐々に方針を転換し、現実に党の路線をあわせて来た。しかし、直面している課題は自民党とも共通する。

党の運営を含め、今の時代に柔軟に対応できなければ、野党の中核になることや、政権の一端を担うことは、まだ遠い先のことだろう。

(この文は、専修大学での担当しているマスコミ論授業の一部を土台にしたものです)




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