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拉致被害者2人の生存情報 日本政府は「見捨てた」【五味洋治の朝鮮半島はいま】 田中実さんの情報突き返す 外務省元幹部、初めて認める

以前ネットメディアに書いたものです。水面下の日朝交渉が進んでいるようなので再掲します。

公開日: 2022/10/17 (政治, ワールド)

 北朝鮮による拉致被害者5人が帰国して、今月
で20年になり、あらためてこの問題に焦点が当
たっている。そんな中、北朝鮮との交渉に関わっ
た外務省の元幹部が、北朝鮮側から拉致被害者の
生存を記した報告書を見せられたが受け取らなかったと明らかにし、波紋を広げている。

 この発言をしたのは外務省の事務次官だった斎木昭隆氏だ。斎木氏は、9月17日、朝日新聞デジタル版とのインタビューの中で、拉致をめぐる長い交渉の経緯を振り返った。

 記者から「北朝鮮からは、拉致被害者の田中実(たなか・みのる)さんや、知人の金田龍光(かねだ・たつみつ)さんの生存情報が提供されたと報じられています」と質問された。

 このことは、これまで共同通信などが報じてきたが、日本政府は「交渉に支障が出る」などとして、否定も肯定もしていなかった。

▼受け取らなかったのは新しい内容がなかったから

 普通なら、ぼかした答えをするところだが、斎木氏は「北朝鮮からの調査報告の中に、そうした情報が入っていたというのは、その通りです。ただ、それ以外に新しい内容がなかったので報告書は受け取りませんでした」とあっさりと認めたの
だ。

 記者もそれ以上深く聞かなかったが、拉致問題の関係者の間では、「現職ではないにせよ、政府関係者が報告書の存在を初めて認めた」と、大きな関心を集めている。

 斎木氏は、北朝鮮との交渉をめぐり安倍首相と対立する場面もあったと伝えられており、安倍氏が亡くなったタイミングで、意識的に情報を公開した可能性もある。

▼近親者が名乗らず、注目されなかった田中実さん

 拉致被害者では横田めぐみさんが代表的だ。彼女に関するストーリーは映画にもなり、広く知られている。 一方、田中さんについては、少し解説が必要だろう。

 田中さんは神戸市内の中華料理店務めていたが、騙されてウィーンに行き、そこから北朝鮮に拉致されたとされている。日本政府は2005年4月、田中さんを拉致被害者として認定している。昭和24年生まれなので、すでに70歳を越えている。

 ただ田中さんは、近親者が名乗り出ておらず、世間的な注目を浴びることはないままだった。

 日朝両政府は2014年、北朝鮮が拉致被害者を含む北朝鮮に残る日本人を再調査する「ストックホルム合意」を結んだ。

▼安倍首相は「突き返せ」?

 斎木氏はこの当時外務次官のポストにあった。これまでの報道によれば、この報告書は当時の安倍晋三首相にも報告された。田中さん、金田さんの生存を確認していたが、横田めぐみさんを含む政府認定拉致被害者12人のうち8人を「死亡」としていた。

 安倍氏は、調査結果を信用せず「突き返せと指示した」(共同通信)とも伝えられる。田中さんらはすでに北朝鮮で結婚し子どももおり、日本への帰国の意思はないとも噂されていた。

 ただ、筆者が入手した公安当局の資料によれば、田中さんには日本国内に実母がおり、関東方面に生存しているという。学校時代の友人もおり、身元確認は可能なはずだ。


▼報告書受け入れを

 長年拉致問題の取材に携わったジャーナリストの佐村多賀雄さんは、「拉致問題の象徴である横田めぐみさんの生存情報以外は受け入れない、という政府の方針が影響したのだろう」と推測する。

 ただ「日本政府は、あらゆる方法で拉致問題の解決に取り組むと言っているのだから、報告書を受け入れ、現地調査をすべきだろう。そうしなければ拉致被害者が帰国するチャンスは永遠に失われる」と話した。

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