スーチーさんがみた日本 2012年に書いたものです


日本から少し離れた国、ミヤンマーについて書いてみます。ビルマという名前の方が、日本人にはなじみがあるでしょう。水島上等兵が主人公となった「ビルマの竪琴」という映画をご覧になった方もいるでしょう。

ミャンマーの軍事政権は約20年前、英語の国名を「ビルマ」から「ミャンマー」に変更しました。「ビルマ」は英国の植民地時代の負の遺産であり、国民の多数を占めるビルマ民族が全土を支配している印象を与える、というのが変更の理由でした。もともとミャンマーは、地元の人の、祖国の呼び名でした。

米国は軍事政権の、この一方的な決定を受け入れていません。ですから昔通り、ビルマと呼んでいるのですが、最近急速に改革と開放政策を取り入れ、全く別の国になりつつあります。日本企業も相次いでミャンマー進出を決めています。

ミャンマー経済に関する記事はたくさん新聞にも掲載されていますので、そちらに譲るとして、変化の象徴となっている民主化運動のリーダー、アウン・サン・スー・チーさんについて触れてみます。

スー・チーさんは1945年、ビルマ独立の指導者アウン・サン将軍の長女として、首都ラングーン(現ヤンゴン)に生まれました。凜々しい若者だった将軍は、彼女が2歳の時に暗殺されてしまいます。
 
当時、祖国は日本の後押しを得て、英国からの完全独立を目前にしていました。将軍は、富を平等に分け与え、貧困層への配慮や支援を中核に据えた理想的な国家を目指していたそうです。

父の記憶はあまりないスー・チーさんは、その後英国で学び、英国人と結婚します。そこから日本との関わりが生まれてきます。
 
父親に関する文献が日本にたくさん残っていることを知った彼女は、いつか日本に行って父親の事を調べたいと考えるようになります。そのために英国で日本語を本格的に習い始め、ついに、三島由紀夫の本を完読できるまでになります。

三島由紀夫の小説は、きわめて古典的で高度な日本語が使われています。それを完全に理解できたのですから、日本語の能力は相当なものだったでしょう。

1985年10月、来日し、翌年6月まで京都大学東南アジア研究センター(現・同大東南アジア研究所)の客員研究員として滞在します。

本を読んだだけではなく、ミャンマーに行ったことのある旧日本軍関係者にも会い、父親のことを聞いたそうです。父の記憶のないスー・チーさんにとっては、楽しく、つらい経験だったのかもしれません。

一方で、スー・チーさんは日本に強い印象を持ちました。彼女が最近日本で出した「絆こそ、希望の道しるべ」(ケーズ・パブリッシング)という本によれば、「まず、日本の豊かさに驚いた」とあります。着るもの、生活用品が町にあふれ、食べ物を好きなように食べている姿でした。「日本の繁栄は日本人の勤勉さと精神的強さにほかならない」と高く評価しています。

その後、スー・チーさんの運命は何回も変転、曲折します。

母の看病で帰国し、民主化運動に参加。クーデターで全権を掌握した新軍部の国家秩序回復評議会(SLORC)によって、89年に自宅軟禁に置かれます。

98年7月に解かれますが、その後も、拘束・軟禁は計3回にわたって繰り返されます。世界が彼女の平和的抵抗運動に共感し、91年10月には、ノーベル平和賞を受賞しますが、出国できませんでした。

1回出国してしまうと帰国できなくなるため、ガンにかかった夫との対面も諦めました。夫の死去は、自宅で聞いたそうです。

そのスー・チーさんの心が痛めたのが東北大震災でした。彼女は被災者について、あちこちで文章を発表しています。自らも軟禁生活で、苦しい思いをしてきただけに、いたたまれない気持ちになったのでしょう。

しかし、ミャンマーの人たちには救援物資を送る余裕がありませんでした。そのため、詩を寄せ合うことにしました。

その中の1つが「新ビルマからの手紙1997~1998/2011」(毎日新聞社)という本の中に紹介されています。

それは漆黒よりも暗い闇
真実は闇の中から現れる
ああ世界よ・・・
勇気を出して手を伸ばし
闇のそこからはい上がろう
 
作者のウー・アウンシン氏は、日本の再興を祈ってこの詩を書いたそうです。

もう1つ、この本には、素敵な詩が紹介されています。私も時々読み返しています。

昨日はただの夢であり
明日は幻にすぎない
今日をしっかりと生きたならば
昨日という日を幸せの理想にし
明日という日に希望を開く
だから、今日と精いっぱい向き合おう
 
インドの詩人カーリダーサ「暁への讃歌」の一節です。

スー・チーさんの人生を通して、ミャンマーという国に関心を持っていただければうれしいです。
 
スー・チーさんは、自由の身となり、今年6月にノルウェーを訪れて、ノーベル平和賞の受賞演説をしています。下のアドレスをクリックすると、映像が見られます。演説の全文は、ネットを探すと見ることができます。

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