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証言:第9交響曲について:アルバン・ベルクが1912年に妻ヘレーネに宛てた手紙より

第9交響曲について:アルバン・ベルクが1912年に妻ヘレーネに宛てた手紙より(Kühn & Quander (hrsg.), Gustav Mahler : ein Lesebuch mit Bildern, 1982, p.145, 邦訳p.322)

Ich habe wieder einmal die 9. Symphonie Mahlers durchgespielt. Der erste Satz ist das allerherrlichste, was Mahler geschrieben hat. Es ist der Ausdruck einer unerhörten Liebe zu dieser Erde, die Sehnsucht, im Frieden auf ihr zu leben, sie, die Natur, noch auszugenißen bis in ihre tiefsten Tiefen -- bevor der Tod kommt.

ぼくはまたしてもマーラーの第九交響曲を全曲弾き通してしまいました。第一楽章は、マーラーが書いたもっとも壮麗なものです。それは、この大地への未聞の愛の表現であり、その大地の上で平和に生き、大地、つまり自然をその深みの底の底まで享受しつくしたい――死がやってくるまえに――という切なる願いです。

最初にこの文章を読んだのは、マイケル・ケネディの著作―この著作は私が読んだはじめてのマーラーに関する文献だが、実に 素晴らしい本で、この本を最初に読んだのは幸運なことだったと思う―の中でだったが、実はこれには恐らく間違いがあることを後で知った。 そこでは、上記の書簡が1910年の夏に書かれたことになっていて、マーラー自身がベルクにスコアを貸したことになっている。(もっとも、 書簡の日付の問題とは別に、1910年にベルクが第9交響曲のスコアを見たという事実はあるのかも知れないが。)更に、書簡引用部分の英訳は "The first movement is the most heavenly thing Mahler ever wrote"となっていて、中河原理さんの訳では 「第一楽章はマーラーがこれまでに書いたなかで最も天国的だ」となっている。日本語で天国的となってしまうと、allerherrlichste の 語感とのずれを感じてしまうが、いずれにせよ、上記のベルクの言葉は、それ自体とても感動的なもので、多くの人が引いているのは 当然のことだと思う。

(2007.5.12, 2024.8.11 邦訳を追加。2024.8.15 noteにて公開)

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