マガジンのカバー画像

あがおりSSまとめ

4
一次創作小説『贖いのオリキュレール』の番外編SSまとめです。 本編(カクヨム版) https://kakuyomu.jp/works/1177354054890566470
運営しているクリエイター

記事一覧

過去から続く道(贖いのオリキュレール番外編SS)

「ロシールの家の姉妹が、まだ帰って来てないらしい……見かけたか?」 「朝から森にキノコを採りに行ったんだっけ?」  旅に入用な物を、いくらか買うしか用のない村で、そんな声が聞こえた。パウは思わず足を止めて、耳を傾ける。 「ま、問題ないでしょう。そのうち、帰ってきますよ」  世間話をしていた村人達は、もとの作業へ戻っていく。よくあることのような口振りだった。  ただ少し、パウは気になった。それでも、わざわざ追って話を聞く必要はないし、自分にはやることがある。そう考え、先を

ストレイ・ゴートの館にて(贖いのオリキュレールSS)

「すまない、パウ」  普段のベラーを知っている人間ならば、少し驚いたかもしれない。  ベラーは珍しく、苦笑いを浮かべていた。それも目を伏せて。 「私はいままで……弟子入りしたことも、弟子をとったことがなくてね。だから……弟子をとったのなら基本的に工房に住まわせることや、生活を共にすることを……忘れていた、というよりも……知らなかったんだ」  ベラーの隣に並ぶパウは、かすかに口を開けて、部屋の中を見つめていた。  ――念願のかの魔術師に、晴れて弟子入りした記念すべき今日

驟雨に濡れて(贖いのオリキュレールSS)

 先程までよく晴れていたのだ。それが突然曇り始めた。曇り始めたなと思ったとたんに、滝のような雨が降り始めた。  冷たい雨は、服の全てを濡らし、身体を冷やしていく。パウはぬかるんだ地面を急いで進み、やっと雨がしのげる場所として、小さな洞窟を見つけた。飛び込めば一息ついて、しかしあまりもの冷えにぶるりと身体を震わせる。このままでは風邪をひいてしまう。まずは雨に濡れて重くなった紫のマントを脱ぎ捨てた。それから肌に張り付く服を脱ぎ始める……魔法で全てを乾かそうと考えたのだ。けれども

蝶の青(贖いのオリキュレール番外編SS)

 イムルスの街の青い魔法石は『青光華石』と呼ばれ、魔法を使う際の補助や、魔法道具の材料として使われ。また『泉の青雫』という名もあり、装飾品に使われることも多かった。美しさだけでなく、魔法石でもあるのだから、お守りとしての力も期待されて人気の宝石だった。  人混みを避けて裏路地に入ったところでも、イムルスでは青い石を取り扱う屋台が目立つ。積まれた原石。綺麗に並べられたアクセサリー。ランプの光に輝く魔法薬や魔法道具……。  こうした巷に並んでいるものは、魔法石としても宝石とし