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Hijazの話

概要

以前別のブログに書いたのですが、去年の頭にhijaz というスケールのハンドパンを入手しました。

叩いていてもどうもコードが良く分からないのと、どうもハンドパン界隈はアラブ音楽に着想した音階が多いようなので、それを調べる話です。

そもそもhijaz とは何か?

Wikipedia によると元はアラブの一都市とのこと。なんか世界史の教科書によく出てくる地名のあたりですね。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒジャーズ

またアラビア語で、ヒジャーズとは「障壁」を意味していたそうです。ほえー。

先行研究

ハンドパンブログといえばへいしょさんの解説です。

以下のシリーズの記事ではRomanian Hijazを対象にharmonic minor が元になっている事を解説されています。

メーカー毎のデータ

各メーカーで公開されているスケールでレギュラーモデルっぽいのを調べます。本当はもっと色々あるのですが、入力している内に心が折れてきたのはここだけの秘密です。
得られた結果を音階の度数ごとにざっくり並べると以下のシートのようになりました。(スプレッドシートを埋め込めなかったのでめちゃ文字が読みにくい。。)
尚色をつけているセルは後述の規則で説明できない箇所になります。

scale data

まず見ていて気になったのは、Yishama ではC harmonic minor / G hijaz という風にharmonic minor とhijaz でkeyを分けている点です。西洋音楽的にはCから見ていくと普通の和声的短音階なのでYishamaのC hijazはむしろC harmonic minor といった方がいいのでは、、という気もしますがおそらくもう名前がかぶっちゃってたからでしょう。

表をもとにざっくり比較した感じでは各スケールは以下で名前が分かれているように見えます。

Romanian Hijaz 
root 音のding のharmonic minor。tone filed は配列は4度から。
Key = DingはF#が使われる事が多め。

root ) 4/5/6/7#/root/2/3/4

Hijaz
5th ding のharmonic monitor 4音階。低音(A2とか)の場合は同じく5thからまたは2ndから。DingはDまたはAが多い? 

5th / 5 6 7# 1. 2 3 5 or 5th/ 2 4 5 6 7# root 

harmonic minor 
root start の和声的短音階。key=C が多めっぽい。

5th / 1/2/3/4/5/6/7#
一方で、Hijaz Tarznauynでは短三度が追加、hijazkarでは2度がdingのようなバリエーションがあるようです。

panart におけるスケールの変遷

始祖の巨人panart のhangblog を調べるとFirst Generation Sound Models 2002

ではharmonic minorが登場します。

当時の配列は以下。つまり普通のd harmonic minor , dingが5度です。

A3/ D4 E4 F4 G4 A4 Bb4 C#5 D5

次にFirst Generation Sound Models 2004でhijaz という名称が登場します。このときの配列は以下。

A3/ D4 Eb4 F#4 G4 A4 Bb4 C5 D5

これはG minor harmonic minor だけどdingがminor 2nd(major 7th)....?

おそらく低い音のdingを作る技術がまだ確立してなかったのかなと想像します。

一方興味深い事にこのtone field の最初の4音はマカームのWikipedia 記載のものと一致します。(本来は1/4音フラットですが)

なので5th がrootと同様の根音として、5th - 半音 - 6th -全音- 7th# - 半音 - root という4音階とその5thの5th をdingにするというのが最初のコンセプトだったのかなと思われます。

アラブ音楽におけるhijaz

wikipediaでまずはマカームのページを見ていたのですが、この説明が全く頭に入ってきません。

たぶん西洋音楽の感覚と違うコンセプトがありそうなので、アラブ音楽の入門的な文献をさがすと飯野りさ著「アラブ音楽入門 アザーンから即興演奏まで」が見つかりました。

https://www.amazon.co.jp/アラブ音楽入門-〜アザーンから即興演奏まで-飯野-りさ/dp/4799801708

まず衝撃だったのが、そもそもアラブの音楽理論と思っていたマカームがあんま使うべき概念ではないという説。

尚ここで紹介されているアザーン、軽率につかうと痛い目を見るそうです。ちょっと前にラジオで聞いたのですが、今UAEなどのアラブ諸国では日本のアニメが流行っていて、その中でアザーンがリミックス的に使われていたのが炎上したそうです。

(関係ないけど、僕もアラブの王族とスレイヤーズでどの話が面白いかで殴り合いしてyo my men みたいなのしたいですね。。。)

飯野(2018)によるとそもそもアラブ音楽系はモノフォニーで旋律をどう作るかが大事、かつ旋法ごとに音階が異なるため楽典的な理解の仕方だとそもそも違うようです。

上記のwikipediaにのっていた音階はHijazの小音階というそうです。アラブ音楽では3-5音階の小音階(ジンス)が10数種類あるとの事。Hijazの場合はEb-F#の増二度音程が特にアラブ風になります。

一方hijazな響きはこの小音階に出ているのですが、実際のアラブ音楽ではこの4音以外も使われるそうです。そこで紹介されているのが、以下の音階。

hijaz + nahawand

前半の4音階がhijaz,後半の4音階がnahawandというらしいです。この一連の中でも前半のhijazの音には旋律は集まりやすく旋法はDの音で終始するとの事。
これが一応トニックに相当して、基音(qarar)というようです。また旋律の始め
で中核として使われ、旋律の進行を支配する意味あいになる音を支配音(ghammaz, dominant相当)というようです。これがhijazの場合はGになるとの事。このように西洋音楽でいうdominantがアラブ音楽では響きの重心になるそうです。Hijazのハンドパンでdingが5度になるのもこの辺の感覚がいつの間にか使われていたのかもしれません。

もっともこの旋法を理解するためには、旋律工程(低音域タイプ、中音域タイプ、高音域タイプごとに旋法が異なるらしい。。)という概念の理解が必要なようです。

結果としてちゃんと勉強しようとするとムズカシイという事だけわかりました。しかし、この本の中で繰り返し記されていたのが「響きのイメージ」、旋法に固有の特徴を感じる感性、心理的・情緒的に心打たれるという意味の「tarab」の感覚が大事との事です。
つまり

個人的には街の名前がついている響きを重視するのは、昔街ごとに楽器のチューニングが違ったり、ある音程の鐘の聞こえる範囲がその街の勢力範囲だったりという話に似てるかなーと思いました。そう考えると旋律というのも旅行気分だったのかなという印象をもちました。

Hijazスケールの拡張

ちなみに僕のhijaz (E2子= えつこと名付けました)はボトムにEb3/Eb4が入っており、とても変なスケールになっています。

音の並びはE2/ (Eb3 C3 ) E3 F3 G#3 A3 B3 C4 (Eb4) E4 G#4 A4 C5 なので上のルールでも説明できない並びです。Prototypeだったからですかね。

調べるとこれはHungarian minor というようです。

恋のダンスサイトってハンガリアンマイナーだったのか….。

まとめ

このブログではHijazとは何なのか、語源、各メーカーからのルールの推定、アラブ音楽での定義を調べました。

結論

Hijaz はいいぞ。

参考文献

https://ja.wikipedia.org/wiki/マカーム
“アラブ音楽入門”, 飯野りさ, スタイルノート, 2018
https://ameblo.jp/momon2004/entry-12720530750.html



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