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【chatGPTには人間くささは作れない⁉︎】

#ブリコラージュ #ChatGPT#センスメイキング#人新生#野中郁次郎#ナラティブ#ハラリ#カンヌ映画祭#マーケティング

(はじめに)
 【結婚式で、心をうたないchat GPTによる挨拶文】




 生成AI(人工知能)の話しは、毎日のように聞かない日はありませんね。

先日、私の人生の師であるご子息の結婚式に参列しました。
 主賓のご挨拶で、とある有名知的タレントのアメリカ人が興味深い祝辞をされましたので、その話しから始めます。

最初、おもむろに礼服の胸元からスマホを取り出して、chatGPTで、即興劇のように、
「新郎、新婦と、披露宴の挨拶、さらに分かりやすく5分以内」
と、その場で入力して、
瞬時のうちに作成したその挨拶文を読み上げました。


それを読み上げてすぐに、これ(chat GPT作成の挨拶文)を次のように評価します。
「面白くないなぁ、無難だし、心をうたない」
と途中で読み上るのをやめます。

今度は、原稿なしの即興で、彼と、新郎、新婦との関係性やら、その日の想いを、物語り化(ストーリーメイキング)をして、やり直しました。
その独特の話しかたとジェスチャー(ナラティブ)内容の面白さに、同席された方々が感動し、拍手大喝采となりました。

1、chat GPTには、【人間くささ】はない。・・・大切なのは、empathy

使い方にもよりますが、【chat GPT対人間臭さのナラティブ】を比較させながら、人間に感動を引き起こす、伝えることは、どちらであるかを、冒頭の主賓は、見事にプレゼンテーションしてくれました。

身体から感じて、empathy相手の立場を理解することができて、参列者は、共感できたのだと思います。

 ここで、empathyと似た言葉にsymphathyという言葉がありますので、簡単に比較しておきましょう。
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◻️参考)empathy (エンパシー)VS  symphathy(シンパシー)
empathyは、相手の立場に立って相手の考えや感情を想像すること。
symphathyは、共感・同情であり、味方になる、共感すると訳されます。
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 話しを少しだけ飛躍させますが、このempathyを生かしたビジネス上の話に触れてみます。

 ビジネス上、新しい知を生み出す、
イノベーションを生み出す作業の出発点は、企業組織の構成員が、【empathy】をベースにして【徹底的な対話】をすることだと思います。

 この【徹底的な対話】が、意外にもさまざまな企業のプロジェクトに参加すると、今まで足りなかったのではないかと感じる事が多くあります。

様々な理由があると思います。(この理由だけを上げても、個人的、組織的、家族関係、さらには社会の構造、精神的理由、宗教的な考え方など様々出てくるでしょう)
しかし結果として、
表層だけ、表面だけ、ガワだけの対話で済ませたり、上司を勝手に忖度する議論で、深く相互の共感領域に入っていかなかったことはないでしょうか!

 私どもでは、それは、【他人ゴト】で考えることばかりしていて、【自分ゴト】で考えるが少ないことに起因しているのではないかと考えています。

そんな自分の現状を、先ず捉え直して、自己を超えて、自分の殻を打ち破って、無心になって新しい意味を作ることが大切だと思います。

この【徹底的な対話】することを【知的コンバット】と野中郁次郎名誉教授はおっしゃっています。

 この【知的コンバット】を、私の会社では様々な会社・部署の方々と繰り返し行うことを、この10年間やり続けて参りました。
 その結果、同じ部署だけでなく、他の部署間や、上下関係でも、【徹底的な対話】を実施することによって、今まで気がつかなかったアイデアやコンセプトを、生み出すこともあります。

 この【対話】【知的コンバット】は、なかなか日本企業では十分にされていなかったと思います。

実際に、プロジェクトを運営して、最初はなかなか馴染めていないなくても、四回目以降くらいから、皆様徐々に相互に、【対話】がされてくる感じです。

 整理すると【対話】や【知的コンバット】が出来やすい状態とは、以下のような状況です。

a )お互いに,自然に自分の素が出せる(カッコつけない)
・裃を着ない状況

b)予定調和的発想をやめる
c)そしてお互いに、empathyの共感を感じる
d)【場】では、心身がリラックス出来ること(会議室だとかなり時間かかることが多いです)
e)左脳よりも右脳つまり感性(言語脳だけでなく)で、違和感を感じる
身体知ですね。

これらは、リモートワークよりも、リアルな対面での対話が有効です。

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例えば、上記のような【対話】【知的コンバット】の代表的企業例では、ホンダのワイガヤ、アイリスオオヤマの会議は、まさにストーリーメイキングとナラティブによって、戦略的共感から
新しいイノベーションが生み出されています。
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【参考】
ナラティブ(物語り)とは、どのようにストーリーを伝えるか」というプロセス、つまりhowを提示し、コト的性質(動詞)であり、語る人によって全く面白さが違うということになります。
予測不可能な事態が連続する状況の中で、必要になるのが物語り(ナラティブ)能力です。

「直観の経営」野中郁次郎、山口一郎著 カドカワ p284

◽️話を集約いたします。
 冒頭の結婚式の祝辞の事例で、感動を与えたのは
chat GPTよりも、共感を生じさせる人間のナラティブ力です。
それは、我々のビジネスの上で,新しい知を生み出す時にもいえる視点ではないでしょうか。

2、【I Tがスキルの価値を高め、AIは、スキルの価値を低下させる】



5月19日日経の朝刊に
「生成AIが「底上げ」する生産性」というテーマで、渡辺安虎東大教授が、
スタンフォード大学エリック・ブリニョルフソン教授らの論文と、MITの大学院生ノシャクト・ノイ氏らの論文を紹介していました。



・前者は、ソフトウェア企業のカスタマーサポート部にchat GPTを導入し、因果推論の手法を用いて効果を検証。結果は、生産性が平均14%上昇。
その効果の大半は低スキルの人の生産性上昇によるもので、高スキルの人には、効果はなかったそうです。

・後者の研究は、専門的な記事を書くライターにchat GPTを提供し、影響を推定するフィールド実験です。
結果はやはり生産性の低い人ほど改善効果が大きいといいます。
・渡辺安虎教授も、需要予測AIがタクシードライバーの生産性に与える影響を乗務データから測定した論文を発表。
→それによると、AIの生産性上昇効果は低スキルの人に集中していたそうです。

→結論として、過去数10年のI Tは、高スキルの人の生産性をより高め、結果として多くの国で拡散拡大の一因と考えられてきた。
しかし最新の研究結果からは、AIはスキルの価値を低下させるという、過去のI Tとは正反対の技術かもしれないといいます。
→レイ・カーツワイクが提唱したポスト・ヒューマン
シンギュラリティ is really near.
は、すぐそこに来ているはずであり、まだまだchatGPTなどの生成AIの進化は次のステップかもしれませんね。

3、【与件のある工学設計のエンジニアより、ブリコラージュ的仕事が主流になる】


・・・エンジニアリングvsブリコラージュ

 2の生成AIの研究から大胆な仮説として挙げられます。
要件を設計してからする作業の【エンジニア】(工学設計)のプロフェッショナルな仕事は、極めて20世紀的な仕事で、低スキルになっていくということです。

 逆に、ブリコラージュ的仕事(ありあわせの道具と、材料を用いて自分の手でものをつくることを意味し、器用仕事と日曜大工と訳されます。)が、AIや人間を呼び覚まして、手持ちの素材や技法を組み合わせる極めてアート的な仕事が、重用されるということも考えられています。
 このブリコラージュ(bricolage)というのは、あの20世紀巨人 文化人類学の、レビィ ストロースが1962年に「野生の思考」(みすず書房)で発表されました。

 ここのポイントは、ブリコラージュが、偶然性や偶発性との親和性が高いことであり、
仮説的に組み合わせたものが、創造的で新しい知を生み出すのに適しているのではないかということです。イノベーションを生み出す方向ですね。


このブリコラージュの考え方は、今までnoteにて論じてきたようにロジカル思考だけではなく、ビジョン思考のアプローチ センスメイキングアプローチ
(過去のnoteにて、センスメイキング理論説明させていただきましたので,ご参照していただきましたらありがたいです。)に、似ていると考えます。


4、【社会システムの変革の必要性を捉えた「人新生」(Anthropocene)を考える】



▪️生成AIと同じように、この頃、様々なところで、
【人新生】というタイトルを見ます。

この人類が地球を破壊しつくす時代に入ったという概念は、私達が、再度世界観を捉えなおしたり、
目的、特に大目的 未來の社会がどうなってほしいかを再検討しなければならないという思いを強く感じます。

①一つ目の人新生は、ユヴァル・ノア・ハラリさんが、2018年に出版した【ホモ・デウス】上巻(河出書房)第1部第2章の中で、
【人新生】という概念です。



【人類は、アップグレードし、ホモサピエンスをデウス 神に変える。
生物工学や情報工学などのテクノロジーを用いて、世界を思い通りに作りかえ、創造することを目指す行く末はいかがなものになるか】
この書物の興味深い箇所をタイトルで以下に示します。

第1部 ホモ・サピエンスが世界を征服する
 第2章 人新生
第2部 ホモ・サピエンスが世界に意味を与える
 第4章 物語の語り手

第3部 ホモ・サピエンスによる制御が不能になる

いずれの箇所も、AIと人間との関係性の変化は激しく、今回の1と2を経て、さらに将来AIが、人間を凌駕する時、新しい運命を創造する時期を考えなければならないのでしょう。


②もう一つ 【人新生】を提唱した斉藤公平さんによる「人新生の資本論」(2020年 現在50万部発行)人類が地球を破壊し尽くす時代において、地球と人類との関係性、社会の在り方を問いながら豊かな未来社会のプロセスを考えなければならないという話です。

 特に成長戦略の為に、SDGsやESGという概念を単なるアリバイ作りにして、目下の危機から眼を背けさせているだけで、現代版「大衆のアヘン」とまで斉藤公平さんはいっています。
 SDGsやESG対策は、国も各企業は明言しながら、実際には、世界の二酸化炭素排出量は毎年増え続けているわけです。
 ウクライナ侵攻の件があったにしても、
従来まで成長戦略では、貧富の二極化は収まらない。
気候など自然環境を犠牲にする成長戦略には,限界がきている。
再度、地球環境を考え、人間の幸せと社会システムを再検討する視点には、深く考えさせられます。


経済成長と地球環境のデカップリングは成立できないのではないかという指摘。
我々の各企業クライアント様と考えているマーケティング戦略、ブランド戦略,商品開発戦略などを
単なる成長戦略だけの視点ではなく、根本から見直すタイミングに来ているようです。


終わりに)


 先日、役所広司さんが、第76回カンヌ映画祭で、ヴィム・ヴェンダース監督の「パーフェクト・デイズ」男優賞をとった直後の言葉、
「光の当たらない人を考えながら演じたのか?」
と聞かれて、
「そういう人のことを考えて演じてはいない。
そういう人が、よく見える人間だと思って演じている。普段見えなかったり見ようとしない人を、見たり見ようとする人間。そのくらい心に余裕のある人間だと思った。」
この言葉に,AI時の人間の在り方を考えらせられました。



そしてもう1人、AIよりも早く発見した最善手で勝ち抜く藤井聡太新名人にも、人間のアナログとAIの関係の在り方を考えさせてくれました。

 朝日新聞6月2日朝刊では、藤井聡太さんをAI時代の新名人と称しました。

その藤井聡太さんの次の言葉に
「今の時代においても将棋界の盤上の【物語】は不変のもの。その価値を自分自身も伝えられたらと思う」
「条件を整理し,条件に沿った手を考えていく人間の方が深く読める局面があると個人的には考えているので、・・・」AIの時代に、人間の本来の在り方を考え、何が幸せになるのか!
じっくりとかつすばやく考え抜きたいですね。
今まさにセンスメイキングアプローチのように
人間の本質を考える時代ではないでしょうか。

最後までおつき合いいただき,ありがとうございました。

今回も,前回のnote特別対談でお世話になりました池谷さんとの内容に繋がるものになり、ご協力・アドバイスをいただきました。