見出し画像

1999年のパディ・マクアルーン​

※この文章は1999年の12月、自身のホームページ(ウェブサイト)に「なんとプリファブが渋谷に!」と題してアップしたもの。当時はブログ(Weblog)なんて言葉も一般的ではなく、簡単なHTMLフォーマットで作成したテキストを、Fetchというアプリケーションでネットに送っていました。当然、商業文ではなく、たんに個人の衝動でものしただけなのですが、まあ、私の「noteの原点」みたいなもんかもしれないので、当時の時制のまま最小限の修正をして掲載します(これはオカネもらえません...)。



なんと! プリファブ・スプラウトが日本にくる!

今月の18日(土曜日)に国内盤のベストアルバム(輸入盤はもう出まわっています)が発売されるのに合わせ、渋谷HMVにやってくるとのこと!! なにやらサイン会もあるらしく、私、明日は渋谷に用事があるので、HMVに寄ってCDの予約をしてこようと思っています。

プリファブ・スプラウトというのは1980年代にイギリスから現れたメロディアスなロックバンド。当時日本では、スミスやスタイル・カウンシル、アズテック・カメラと比較されていたような記憶があります。「スティーリー・ダンのようなひねくれた曲を書く新人」といった言われかたも、されていたような気がする……。

1985年の夏だと思うけれど、私はセカンドアルバムの「STEVE McQUEEN」ってやつを、新宿アルタのCISCOでジャケット買いしたのです。寒空の下、なんだか悶々とした若者4人が壁に飾られ、私を睨んでいました。当時はスティングとブライアン・フェリーの初めてのソロアルバム、12インチで話題が沸騰していたスクリッテイ・ポリッテイのフルアルバムなどが続々と発売され、嬉しいやらカネがないやらの時期でしたが、でも、なにか惹かれるものがあり、買ってしまったのでした。

その翌年に来日してコンサートがあったのだけれど、私はいけなくて(留学中で日本にいなかった)、その後長く「いやほんとによかった」という話をY君から聞かされ続けました。

サードアルバムの「FROM LANGLEY PARK TO MEMPHIS」は、いまはなき骨董通りの「パイドパイパー・ハウス」で買いました。当時この店にはプリファブ・スプラウトの所属するキッチンウェア・レコードのタイトルが充実していて、私はプリファブ各種(12インチ/シングル)の他、マーティン・ステファンソンやフラー! やケーン・ギャングなんていう人たちのレコードも買いました(買った話ばかり……、オレは中村うさぎか?)。

プリファブ・スプラウトは、一般的な知名度はそれほどでもありませんが、でもミュージシャン関係にファンが多いようです。一昔前のロックの世界だと、ライ・クーダーやトッド・ラングレンみたいなポジションを得ているような感じで、ちょっと前の、いわゆる渋谷系のミュージシャンが、インタビュー等でよく名前を挙げているのを読みました。リーダーのパディ・マクアルーンは、最近ではブライアン・ウイルソン等と比較され、「稀代のメロディメーカー」といった評価を受けているようです(でも私はいまだ「恋人をバイクの後部座席に乗せて悶々としている若者」のイメージが消えない)。

とにかく、渋谷にくる。ということで、さっきHMVのWEBをチェックしたけれど、詳しいことはまだよくわかりません。

(19991208)

↑で「まだよくわからない」と書きましたが、SMEのサイトに情報がUPされていました。いや〜、こんなにときめくのはマイ・ブラディ・バレンタイン&ハウス・オブ・ラブのジョイント来日未遂(直前に中止)、ブルー・ナイルの単独来日未遂(直前に中止)以来だ。……、なんか不吉、でも3度目の正直。

(19991209)

ということで先ほど仕事のついでにHMV渋谷にいき予約をしてきました。いや〜、夕方のセンター街は、最近異常繁殖している竹馬ヤマンバ、目立ちます。オレを見下ろすな、っつうの。踵、蹴ったろか!

HMV店内は「祝・プリファブ来店」の横断幕/花輪などで歓迎ムード一色、ではなかった。でもサイン会告知のディスプレイはありました。コーギス(元スタックリッジ)のCDリイシュー盤が2枚、けっこう目立つところに並んでいたりもしました。

(19991209)

そして、よく考えたらサインしてもらったCDは、きっと永久保存盤として眺めるだけのものになるだろうと思い、先ほど「ふだん使い」用の輸入盤を買ってきました。いやー、ほんとにベストらしいベストなんだけれど、でも私、基本的にベスト盤は好きじゃないんだけどな。むかし入門編に買ったベスト盤って、けっこう人にあげたり売ったりしてます。なんてこと言いつつ、新録音の「カーペット・クロール」1曲のためにジェネシスのベスト盤も買ったりして……。しかし、なぜにサイン会。新作のツアーじゃないのが、なんとも、なんとも。ストーンズだって、まだやってるんだぜ(最後の「ぜ」は鳥井賀句風)。

(19991216)

いよいよ今日だ。

16:30過ぎ、HMV渋谷に到着。センター街沿いの入口から店内へ。イベントの告知ボードに「急遽中止」なんて文字がないことを確認し、エスカレータで3階の「ロック/ブルース」コーナーをめざす。現在のHMV渋谷は、1階が国内音楽&売れ筋(新着)洋楽。2階がダンス・ミュージック系。ロックは3階。ロックよりダンス・ミュージックのほうが偉くなって、幾歳月。

予約しておいた「38カラット・コレクション」(国内盤/本日発売)をいきなり買うのもためらわれ、フロア内をしばらくうろうろする。輸入盤はそこそこ見かけるが、国内盤はレジ横の試聴コーナー以外には、あまりディスプレイされていない様子。CDシングル「P」のコーナーにプリファブ関連在庫なし。アナログ盤「P」のコーナーにも在庫なし(あたりまえか)。フロアのBGMで唐突にプリファブの「The Sound Of Crying」が流れ出し、気持ちがぐぐっとに高まる。在庫僅かになったコーギスの「The Korgis」「Sticky George」「Dumb Waiters」をひっつかみ、バッグから財布を出し、財布から予約引換券を出し、レジに並ぶ。

短髪&ちょび髭の兄ちゃんが引換券を輪ゴムで留めた「オレの『38カラット・コレクション』」を持ってきて袋に入れるのを目で追う。クレジットカードよりやや大きめの紙きれが見える。どうやらこれがトークショー&サイン会の入場券らしい。クレジットカードで支払いをすませ、CD4枚の入ったビニールバッグを受けとりレジから離れ、さっそく中身をチェック。

あれ? あれ!? 入場券が入ってないんだけれど、ちょっと、大丈夫なのか! もう一度レジで確認しようと思ったが、短髪&ちょび髭は次の客の対応中。レジのそばにいた他の店員に事情を話すとすぐに調べてくれて、なんと、短髪&ちょび髭、キャッシャーのそばにオレの入場券を置きっぱなし!! ワレ、いい根性しとるやんけ、まあ許したるわい。

入場券を財布に入れ、財布をバッグに入れ、会場のある2階フロアの一角をロケハン。会場の手前には入場券が封入された国内盤が何枚かディスプレイされている。「もう1枚買おうか」と迷い、やめる。バッグから財布を出し、財布からオレの入場券を出し、18:00スタートだが17:30集合であることを確認する。腕時計を見ると17:00を過ぎたばかりで、まだ人が並んではいない。入場券を財布に入れ、財布をバッグに入れ、エスカレータで店外に出て煙草を1本。

ふたたび店内へ。1階をうろうろしてみるがここで「オレの居場所」は見つからない。しっかし「おさるさんみたいな顔したレインボーカラーの女」の新譜がやけに目立つんだけれど、なんでこんなのが売れてるのかな〜(詠嘆)、などと感じつつ、けっきょくふたたびエスカレータで3階へ(この行動はちょっと失敗)。あいかわらず短髪&ちょび髭が忙しそうに働いている。意味もなく「2枚買うと1枚あたりの値段1490円コーナー」を眺めていると、フロアのBGMがふたたびプリファブ、「The King Of Rock 'n' Roll」。腕時計を見ると17:20近くで、もうこんなことしていられない、と決意しエスカレータを早足で降り2階へ。

げげっ、どこから沸いてきたのか、会場のまえにはすでに約50人の群衆が! 列の最後尾に並んだが、さらにぞくぞくと人が集まってくる。

17:30、入場整理係のナビゲートで会場(スタンディング)へ入る。お客さんはみんな行儀よし。ステージ中央(6列目)の場所を確保するが、なんだよ、もっと早く並んでいればよかったと後悔。ステージでは古いプロモーションビデオが流れている。中央のテーブルにはマイクとボルヴィックが1本。客層をチェックしてみると、

●男が多い(7:3くらいか?)
●1人できている、って感じが多い(オレも)
●フード付きの上着が多い(オレも、もう少し寒ければダッフルコートだった)
●リュック or ショルダー系バッグが多い(オレはリュック)
●帽子系、髪の毛が生まれたままの色系、が多い(オレも)
●すでに買ったCDのビニールを破いていたりする手際のいいやつが多い(オレも)

なんというか、渋谷というより代々木。予備校「私大文系」コースの授業開始直前、って雰囲気がむんむん。17:50に「トークショー&サイン会の入場は締め切りになりました」のアナウンスが流れる。国内盤、無事完売!?

18:00少しまえに進行役の渡辺亨氏が登場。今回の来日が実現したいきさつを簡単に語る。国内盤発売にあたって「なにかやらなければ」という話をレコード会社の担当としていて、それで11月末に7年ぶりにパディと連絡をとって、「日本こない?」と言ってみたら、快諾したので急遽決まったとか。なんだ、けっこう気さく。続いて「えーと、パディは髭を伸ばし、だいぶルックスが変わっております」と渡辺氏。そして……。

パディ・マクアルーン、ついに登場。

髭、すごかったです。黒(またはダークグレー)のジャケットに青いシャツで登場したパディの顔は、まるで「愛と平和」のベッドインをした頃のジョン・レノンのよう。ちょっとショックを受けましたが、私は彼のルックスが好きなのではない。

通訳の女性(とても感じがよい)をまじえ、渡辺氏とパディの会話が約15分。ここでのやりとりは、まあ、あたりさわりのないもの。というか、パディは今回の来日で5、6本のインタビューを受けているらしく、おそらく渡辺氏のインタビューもその中に含まれているはずで、より濃い内容のものは来月以降の音楽誌が楽しみ(吉本ばななとも対談したとか)。まあ、結婚してこどもがふたりいるらしいとかの話は、ゴシップ的にはおもしろかったけれど、とにかく「生パディ」を見ているのが、なんとも不思議な気分で楽しい。けっこうおしゃべりでフレンドリーな男なんだな、これが。そして、トークショーは、お行儀のよいお客さんとの質疑応答へ。

最初の人の質問は、

「たしか10年ほどまえに、日本独自企画で、プリファブ・スプラウトのアルバム未収録曲(シングルや12インチのみ収録)のコンピレーションが発売されかけたはずですが、あれはどうなっているのでしょうか?」

といったもの。いきなり、濃いなあ。でも、オレもそういうことが知りたいのです。パディの答えは「僕はそんな話、知らなかった」。質問した人が「出してくださいよ、リマスターして」と続けて言い、通訳がたぶん正確に訳したらしく、パディは質問の「リマスター」という言葉に反応して、「リマスターをすれば曲がよくなるってわけではないと思う」とかなんとか(表情は笑顔)……。

そうじゃねえんだよ。オレたち(少なくともオレ)は、今回の「38カラット・コレクション」に入っている曲は、もう、すごい回数オリジナル盤で聞いてるの。もちろんCDシングル、12インチアナログ盤、ブートのライブテープなんかも買いまくって、未収録曲(これが、スバラシイのが多いのだ!)は、一生懸命ベストテープとかをつくって聞いてるんだってば。そういうのをまとめて聞けるようなのを、出してくれよ。……、出してくれませんか? お願いだから。

トークショーが終わり、いよいよサイン会。しかし、いい年した男(オレ)がいい年した男(パディ)にサインしてもらうのにこんなにドキドキして、どうする?

行儀よく待つこと20分。あと4、5人でオレの番。BGMはオレの大好きな「恋人をバイクの後部座席に乗せて悶々としている若者」ジャケットのアルバムのA面2曲目「Bonny」。この曲、むかし海にいった帰りのクルマでよく聞いた。火照った身体にエアコンから冷たい風、助手席に座っていたのは○○。この曲のイントロはサウンドファイルにして、いまのパソコンの時報の音にしている。「Bonny」が終わって、目の前に生パディ。BGMは「Moving The River」……。

「こんちは」(オレ)
「こんちは」(パディ)

CDのジャケットを差し出すと、さらさらと、Paddy MAC

「またきてね、音楽を演奏しに」(オレ)
「OK、次にくるときは(以後英語が聞きとれず)」(パディ)

「さよなら」(オレ)
「さよなら」(パディ)

ジャケットを受けとり、一歩足を踏み出すオレ。思い直し、振り返って、

「また会おう!」(オレ)

あっ、パディ、もう次の人のサインに夢中……。

(19991218)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?