多田洋一
VOL.12寄稿者&作品紹介37 久保憲司さん
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VOL.12寄稿者&作品紹介37 久保憲司さん

多田洋一

この小説の主人公・クボケンって何者? なんでアンディ・ウォーホルやデヴィッド・ボウイとタメ口で話してるの!? なんでニューヨークの伝説のディスコ「スタジオ54」にいるの!?!? 読んだかたは誰でもそう思うでしょうね、久保憲司さんの今号への寄稿作「マスク」。つい先日、アンディ・ウォーホルのマリリン・モンロー肖像画『ショト・セージ・ブルー・マリリン(Shot Sage Blue Marilyn)』が約250億円で落札されてニュースになりましたが、このクボケンなる人物、作中ではウォーホルさんのことを“アホちゃうと思っていた”、デヴィッドさんに対しては“俺はファンと思われたくなかったから、ゆっくりと近づいていって、「あんたボウイか」と訊いたら、ボウイは「はい」と言った。俺はボウイと一緒にノーコメンツを観た”ですと。こんな話し方...先日FMを聞いていたら藤原ヒロシが「それでエリックが〜」みたいなこと語っていたのでどこのエリックやねんと思いながら続けて聞いてたらどうやらクラプトンのエリックのことでびっくりしましたが、まあ、それに近い感覚。こんな話をさらっと書ける人は、めったにいるものではありません!

作中のクボケンさんの現在の悩みは、YouTuberになったものの登録者/再生回数が思うように伸びないこと。自らディラン・トマスの好きな詩を和訳して朗読しても、100回前後しか聞いてもらえない、と。それでクボケンさんは“俺の小説に何回も登場する川崎さん”に電話をして相談するんですが、川崎さんはつれなく“「誰がおまえの詩の朗読なんか、聴くかよ」”と。これで火が点いちゃったクボケンさん、以後は日ごろの鬱憤を爆発させて喋り倒します。特別定額給付金のこと、日銀の金融政策について、さらに“アベノミクスは失敗ちゃうわ、足らんかっただけじゃ、もっともっとみんなの給料が増えるまで、お金を刷り続けるべきと言うべきやったんや”等々、etc.、等々。

“アンディ・ウォーホルは「人は誰でもその生涯で15分だけは有名になれる」と言ってたんや”...感情の乱高下を経てある啓示を受け、クボケンさんは決心します。どんな決心かはぜひ小誌を手に取ってお確かめください。しかし、ホントに人間は気の持ちようかもしれませんね。あと、本作には飯島愛も登場するんですが、ここで開陳されているエピソードの真偽のほどは...今度筆者にお目にかかったら、聞いてみようと思います〜。

 誰とも喋ってないから、ちょっと喋るとすごい喋りたくなるのだなと思った。レストランに行ってもこんな話を喋ってたら、気が狂ったおっさんと思われる。昔は俺の気の狂った話もみんな聴いてくれていた。でも今は「黙食でお願いします」と言われる。ワクチンを二回も打ったのに、静かに食事をしないといけない。こんな世の中だから、俺は動画を始めたのに、誰も俺の話を聴いてくれない、見てくれない、アンディ・ウォーホルは誰もが15分で有名になれると言ったけど、俺は有名になれない、いやいやさっき書いたやん、アンディ・ウォーホルは「人は誰でもその生涯で15分だけは有名になれる」と言ってたんや、あかん、あかん、あかん、あかん、だからあの電車で突然火をつけたりするような奴が生まれたりするんや。あかんぞ、あかんぞ、俺は有名になりたいからとそんな悪いことはしないぞ、いいことだけするぞ、重そうに荷物を運んでいるおばあちゃんの荷物を持ってあげたり。

〜ウィッチンケア第12号〈マスク〉(P208〜P214)より引用〜

久保憲司さん小誌バックナンバー掲載作品:〈僕と川崎さん〉(第3号)/〈川崎さんとカムジャタン〉(第4号)/〈デモごっこ〉(第5号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈スキゾマニア〉(第6号)/〈80 Eighties〉(第7号)/〈いいね。〉(第8号)/〈耳鳴り〉(第9号)/〈平成は戦争がなかった〉(第10号)/〈電報〉(第11号)

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多田洋一
文芸創作誌「Witchenkare」(ウィッチンケア)発行人。東京都町田市在住。 フリーランスのライター/エディター。