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春夏秋冬〜事象の地平面

春夏秋冬、もはやいつの記憶か、誰のどこの記憶かも定かでない。集合的無意識の奥底もしくは、空間軸と時間軸が錯綜した事象の地平面の向こう、特異点の中にある誰かの散らばった記憶の断片を紡ぎ繋げたもの。それゆえ時間は前後し離れた空間が繋がることもありうる。

この物語は”断固として”フィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。



ある1年生は極めて簡単なモチーフと簡単な仕組みを使って、協和的な音響で複雑な音楽を作れないかと自動作曲を試みていた。

ドの音が4つ並ぶ16分音符のモチーフ(階名で言うとドドドド)と長さの異なる休符を使い確率をコントロールして、時間が進むにつれて音域が広まったり音が増えて切迫して、また無音に向かっていくものだった。編成はヴァイオリンとピアノ。音は「ド」しかない。


学生「これを1年の提出作品に出そうと思うんです」(音は「ド」しかない)

先生「うん、、これ出すの〜?・・・・・・・」(音は「ド」しかない)

譜面を閉じて

先生「・・・ぜんぜん、ムリー」


学生「マジっすかっ」

先生「ぜんぜん、マジー」

提出作品には仕事量が多く、黒い譜面(音符の数が多い作品)が求められていた。

その曲を改作して木管四重奏にしてみた。音はソシレファ(G7)しかない。第2講座試演会で演奏された。

先生「これはおもしろそうだ、是非聴かせてよー」

学生(どういう基準なんだろ?)

先生「聴いたよ〜、面白かったよ〜」

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学生「三枝成彰さんが先生のこと、俺よりも天才だと言ってましたよ」
先生「俺"よりも"とは?」
学生「さあ?」

学生「三枝成彰さんに『いいか、社会性は重要だぞ。』と捨て台詞を吐かれたんです」
先生「ぼくもこう見えて社会性がない笑」
学生(笑)



ある1年生は第2講座試演会のためセル・オートマトンルール90に基づいた3人6手連弾のピアノ曲を書いていた。最初に与えられた音列で音が自動的に決まって自己生成するシステムだった。音はドミソしかない。

先生「これはおもしろそうだ、純正調で聴きたいね〜」

学生(どういう基準なんだろ??)

セル・オートマトン(英: cellular automaton、略称:CA)とは、格子状のセルと単純な規則による、離散的計算モデルである。計算可能性理論、数学、物理学、複雑適応系、数理生物学、微小構造モデリングなどの研究で利用される。非常に単純化されたモデルであるが、生命現象、結晶の成長、乱流といった複雑な自然現象を模した、驚くほどに豊かな結果を与えてくれる。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
セル・オートマトン


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先生「この大学の学生は言われたことしかやらない、勝手に何かやって持ってくるようじゃないと、現場では通用しない」
学生「・・・・」


学生「現代音楽のオーケストラは漠然と聴くと全部同じに聴こえるので、もう聴きに行きません」
先生「いい傾向だ〜、あんなものは聴かなくてもいい」
「・・・何も聴かないで書くと新しいものができる」
学生「・・・・」

I先生「みんなそうだよ、みんな自分の曲にしか興味がない」
学生「・・・・」



ある1年生は1年次の2重奏提出作品を先生に見てもらっていた。2年次の初夏に演奏審査が行われる。

学生「15位狙いです。」(当時定員は15人)


先生「僕もそうだった〜、成績優秀者なんてろくなもんじゃねえ、、と負け惜しみを言ってた」

先生は学生時代、先端の芸術音楽を書いていたため、全ての提出作品で不可になり再提出だった。だが、そのさなか武満徹に引っ張り上げられたそうだ。

学生「無調とかキモチワルイんで書きたくないです」

先生「なんで好きな曲が書けないんだ〜」


学生「ドイツでいうセオリーはやりたくないです」

先生「書いてじゃん」

過去にある曲に似たものを作るのはドイツでは芸術音楽の「作曲」とは言わないそうだ。「セオリー(理論)」と言う。

先生「ここ繰り返してコーダだね」


学生「もう、ラクしたいんで〜」

先生「みんな、今の聞いた〜?」

二重奏の演奏審査の前学年の平均点は「可」だった。
ところがその年、背の高い厳しい教授は風邪をひき審査に加わらなかった。皆の成績の平均点は一段階上がり「良」になった。

先生「良だよ、うちの生徒ではいい方だ」

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Mixtura(ラテン語)、英語で言うとMixture(混合物)、受験用ソナタとメシアンベルクシェーンベルクを混ぜたやつ。



先生「・・・さんも似たようなもんだよ」
学生「まだ、マシですよ」
先生「そうか、まだマシか」



学生 (譜面が黒くて音符の多い作品が良いのか?ならば、音の多い音響モチーフのコピペで、どこまでいけるかをやればオッケーだ。仕事量が多いものは機械に任せよう)

ある3年生はカントール集合をヒントに、広がっていく完全五度累積しかない音響モチーフを作り、楽譜製作ソフトのプラグインの機能(移調、拡大、縮小や逆行など)を駆使しコピペだけで、どこまでいけるか一生懸命頑張って作曲し、オーケストレーションに工夫を凝らし「Infinite Fifth」 on Sound  Counterpoint with subject based on Cantor set(「無限なる5度」カントール集合に基づいた主題による音響対位法)と名付けたオーケストラ曲を書き上げた。

学生「という、楽譜制作ソフトに適した様式です」

先生「マルクスみたいだな?」
学生「?」
先生「全ては物質が支配する」

カントール集合は、幾何学的には、線分を3等分し、得られた3つの線分の真ん中のものを取り除くという操作を、再帰的に繰り返すことで作られる集合である。ここで、取り除く線分は開区間である。すなわち、単位区間I = [0, 1] から、1回目の操作では (1/3, 2/3) を取り除き、2回目の操作では (1/9, 2/9) と (7/9, 8/9) を取り除き……といった具合に操作を無限に繰り返し、残った部分集合がカントール集合である。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カントール集合


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カントール集合図 (これを横向きにして使用)


そしてかなりテキトーな楽器配置図と、極めてテキトーな解説をつけて提出した。

Scannable の文書 (2020-10-22 20_32_26) (2)

提出後、第2講座ガイダンスにて


准教授「好き勝手書かれちゃ困るんだよ、様式がああああああああぁあああぁあ、

!!!あるっ!!!」(斜め横向きっ)


学生  (( 笑 ))  ((様式って何?))  (( お、やる気か? ))



先生 「そんなことばっか やってないで」



先生「おんかん〜?  (*1)

取手〜?? ぼく知らないんだけど〜?」(とぼけて)  (*2)

学生 「遠すぎます笑」

*1 東京芸術大学千住キャンパス 音楽環境創造科
*2 東京芸術大学取手キャンパスのこと

スクリーンショット 2021-06-17 2.47.24

とお〜いw



先生「はい、これね」(連絡先が載った、教員総覧)



春夏秋冬、いつも一般社会から2、3周ほど遅れて、楽壇と東京藝術大学作曲科の「はちゃめちゃな」事象はこれからも続いていくのだろう。


多分の波乱を含みつつ


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ブラックホール


学生「先生、エルトン・ジョンが好きなんですか?」
先生「どっから聞いた〜?好きだったんだ」
学生「僕の友達の久石譲さんのアシスタントです」
先生「誰〜?」
学生「久石さんが言っていたんだと思いますよ。事務所に『線の音楽』のレコードがあったって言ってましたから」
先生「(昔)面識があったんだ、*藤澤っていってね .... 」

*久石譲氏の本名は藤澤守



当時4年次に行われる学内演奏会や、卒業作品は慣習的に
ほとんどの学生は「難しい調性音楽」や「無調」で曲を書いていた。

学内演奏会はメロディアスなバラード、卒業作品は大河ドラマのテーマ曲や映画音楽のような調性音楽を書き。不可になるのではないかと周りの学生に軽く引かれた彼の音楽はアレンジされ、そのアルバムに収録されている。

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e-onkyo music

Universe for Surround Yohichi Tsuchiya 
Amazon Music 

Universe for Surround
Armeria Strings Quartet et al
 
highresaudio.com

环绕宇宙 (Universe for Surround) (11.2MHz DSD)  
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東京芸術大学作曲科受験4次試験の面接にて

*K教授「センター試験はできましたか?ピアノはどうでしたか?」
背の高い厳しい教授「大丈夫だろ!(ハハハ、)」(上機嫌)

*武満徹、三善晃の元アシスタントで理論の大家

そういえば、彼は全く作曲の専攻科目に対して突っ込まれることがなかった。入試の成績は案外良かったかもしれない。
入学後、学習フーガを省略型でしか書いたことの無い学生を見たりした。


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