「ネガティヴィテート」第1話

人間はかつて、みずから作り出した力によって文明を滅ぼした。
荒廃した世界には新しい神が現れて、残された人間たちを理想社会へと導いた。
世界は小さくなったが、そこには争いも貧しさもなくなった。
神に従順であること。
生きるために必要なのは、ただそれだけだ。

「あなたはこれから、凄惨な試練を乗り越えなければいけません。あなたは、これまで知らなかった怒りを知ることになるでしょう。怒りに身を任せてはいけません。許すことを知りなさい。他人はもちろん、自分自身を許す術を見つけるのです」

「……どういうこと?」
15歳になった夜、神さまから伝えられた言葉を、ハルは理解できなかった。15歳になると、誰もが自身の宿命についての神託を与えられ、それに従って生きることになる。それは普通、職業に関するものであるはずだった。
つい先日も、誕生日を迎えたユウマが、「ぼくは学校の先生になる」と教室に来るなり宣言し、皆から祝福されていたばかりだ。「試練を乗り越えろ」だなんて曖昧な神託など、聞いたことがない。

「おはよう。ねぇ、神託、きたの?」
居間に降りると、朝食をとっていたユナが目をらんらんと輝かせて聞いてくる。
周りのヤツらも、ニヤニヤしながら「どうせ女湯の清掃員とかだろ~」なんて茶化してくる。孤児院でも学校でも、15の誕生日は誰でもちょっとした主役になれる……はずなのに。
「いや、ちょっとよくわかんねぇんだよ」
一様にポカンとした顔。
「なんだぁ? ごまかすようなことでもないだろう。天職に恥ずかしいものなんかないんだからよ」
院長が朝食をハルの前に置く。たしかに、神託で聞いた天職を皆に告げて、祝福されていない人など見たことがなかった。
「いや、それはそうなんだけどさ」
言いよどむハルの様子を察して、ユナが助け船を出す。
「まぁまぁ、いいじゃない。ハルのタイミングを待とうよ」
みな、「まぁいいけどさぁ」などと言いながら、それぞれの朝食に向きなおった。

ハルにとって、ユナは孤児院で唯一の同級生だった。
入所したのも1年違いで、付き合いはもう10年になる。当時ふさぎ込んでいたハルを、「大丈夫だよ、今はそう思えないかもしれないけど、私たちはもう家族だから」と最初に励ましてくれたのもユナだった。それからもフォローしてもらってばかりだが、今まで一度も感謝の言葉を伝えられていない。
(また、ありがとうって言いそびれたな……)

学校に向かう最中も、ユナはあえてハルの神託について聞こうとしなかった。
その心遣いが嬉しく、ハルは神託についての不安を、ユナに打ち明けようと思った。
「なぁ、神託ってさ」
「うん?」
「普通、職業を伝えられるもんだよな」
「そうだね。でも、はっきりとした仕事じゃないこともあるみたい」
「そうなのか?」
「なんか、『西に向かいなさい』みたいなざっくりした指示のこともあるって聞いたことあるよ」
「それで、その人はどうなったんだ?」
「西に向かったんじゃない?」
「だからぁ」
「大丈夫だよ。知ってる? 一度世界が終わってから、神さまが人間を裏切ったことなんてないんだよ。ハルが受け取ったのがどんな言葉でも、神さまはハルにとって一番いいように導いてくれるはずだよ」
「ほんとかなぁ」
疑いの言葉を口にしつつ、ハルの不安はすっかり解消されていた。自分にとっては、神さまなんかよりもユナの方が……思うだけで恥ずかしくなり、すぐに別のことを考える。
「そういや、今日の晩メシなんだろな」
「ふふ、きっとハルの好きなものじゃない?」
「あ、なんか知ってるだろ」
「教えなーい」
そう言って、ユナは隣の教室に入っていった。

「ハルくん、神託の内容はどのようなものでしたか?」
教室に入るなり、委員長がにこやかに話しかけてくる。
クラスの全員が、同じ笑顔でこちらを見つめてくる。
(さすがに不気味だわ)
孤児院の内と外では、まるっきり人の性格が違っている。外の人たちは、感情の起伏が少なく、人をイジったり、突っ込んだりすることがほとんどない。
「それがさ、よく聞き取れなかったんだよ。笑っちゃうだろ?」
今度は全員、真顔でこちらを見つめている。異物を観察する顔。特段興味があるわけではないが、念のため見張っておこうという顔だ。
「いやほんと、まいっちゃうよな」
おどけつつ席に着くハルを、無表情のまま皆が観察している。

教室に掲げられる「友愛の輪を広げよう」の言葉。町の至るところに、「人類みな平等」とか、「神の愛を分かち合いましょう」とかいう標語が並んでいる。
半世紀前に世界が滅んだのは、人々の間で差別や憎悪が蔓延していたからだと教えられた。でも今は、神さまのお陰で物資は平等に分け与えられ、人は怒りや憎しみから解放されたのだという。
ハル自身、食うに困ることはないし、誰かに怒られたり、いじめられたりしたことはない。
けれど、何かが「違う」のだった。周りの人たちの目には、自分とは違う世界が映っていて、湧き上がる感情もまったく別種のものであるように感じた。そしてその違いは、周りにもはっきりと認識されているのだった。

小さい頃、先生はみんなの前で「孤児院のお友だちは、みんなと違うところがあります。でも、違うことは悪いことじゃありません。違いを大切にしてあげましょう」と言っていた。
そう言いながら、ハルは毎日のように放課後呼び出され、言葉遣いを「です・ます」にしましょうとか、いつも笑顔でいましょうとか、そういう指導が絶えなかった。
自分ははじめから「周りと違う子」として扱われ、「違う」というレッテルはそれだけで周りを遠ざけるように思えた。
わざわざ声に出して、「違う」なんて言ってほしくなかった。

「それはね、別にハルのことを見ているわけじゃないから。気にしなくていいんだよ」
かつてのユナの言葉を思い出す。あれは学校に通いはじめたころ、クラスメイトの視線が嫌でたまらず、登校を拒否したときのことだ。
「なんで俺たちだけ差別される?」
「差別じゃないんだよ。ただ、違うことが心配なだけ。私たちのことが嫌いなんじゃない」
「なんで俺たちだけ違うんだよ。こんな世界、なくなっちまえばいい」
ユナは困った表情をしながら、ハルの頭に手を伸ばした。
「わからないけど……それでも、世界を否定したらダメ。大事なものまで全部、失うことになる」
「わかんねぇよ……」
院長が二人のもとに歩み寄ってきて、しゃがみ込んで言った。
「なぁ、ハル。目を閉じて、辛いことを思い浮かべてみ?」
物言わぬ大量の視線。ただただ無責任に、こっちが自然に消え去ることを待望するかのような目。「お前がいなくなれば、ぜんぶまるくおさまるのに」声なき声が聞こえる。腹のあたりに熱く、ドロドロとしたものを感じ、思わず体に力が入る。
「辛いよな。じゃあ、今度は嬉しいことを思い浮かべて」
最初に話しかけてくれたユナの顔。手のぬくもり。孤児院でみんなと共にするメシの時間。自然と力が抜けて、胸にあたたかいものが差し込んでくる。
「まだ、世界がなくなってほしいと思えるかい?」
首を横に振る。それでも、なんだか丸め込まれたような気がしないでもない。釈然としない様子を察してか、院長は続けた。
「ほんとはもっと後に伝えるつもりだったんだけどな。親がいる子と、そうでない子は、洗礼の効果が違うんだ」
ユナが目を丸くする。
「洗礼って、生まれるときにする儀式だよね? 効果って何のこと?」
「洗礼を受けると、親の祈りが子に刻み込まれる。親がいなかったり、それから親を亡くしたりすると、子のなかに刻まれた祈りの形が変化する」
「どういうこと? 祈りの形が変わると、何が違うの?」
「私も詳しいことは知らない。ただ言えるのは、お前らが人と比べて感情が豊かだってことだ。ここにいるヤツらはみんなそうだろ? まぁ、普通とは違っても、それは決して悪いことなんかじゃないんだ」
(悪いことではないって、大人はみんなそう言うんだ)
院長に向かって、ハルは心のなかで毒づいた。

「ハルさん、昼休みに職員室まで来てください」
担任のナカノ先生からホームルームの終わりにそう言われ、またかと気分が重くなる。
特段目立つことなどしていないのに、週に何度も呼び出されるのはいつまでも変わらない。でも、ユナはそんなことないと言っていた。

「神託があったでしょう。精霊から聞きましたが、はっきりした進路が伝えられなかったとか?」
精霊は動物や虫、木の葉など生物のかたちで世界に遍在し、あらゆる人間の行動を監視し、必要に応じてメッセージを送ってくる。それは神からの言葉と同じ重さをもつとされているが、ハルはその精霊の声を聞いたことがなかった。
(俺に曖昧なメッセージを寄こして、それを先生にも報告するのかよ。神さまの考えってのはわからんわ)
「……なんか、困難に負けるな、みたいなことを言われました」
「……そうですか。まぁ、それが神の思し召しなら間違いないのでしょう」

案外サクッと解放された。
いつもはもっと、「みんな怖がっているから態度を改めろ」といった内容を、やたらと遠回しに伝えられるのだが、さすがに神の言葉とあればそのまま受け入れるほかないらしい。
中庭では高等部の生徒が祈りを捧げたり、賛美歌を歌ったり、なにやら集団で座り込んで議論していたりする。
「神を理解しようとする行為自体が、神への冒涜ではありませんか」
「しかし、信仰心を強く抱くほど、神へと接近しようとする欲求は避けられません」
高等部に入ると、生徒は放課後、それぞれの神託にあわせた課外活動をはじめる。校庭では筋肉質な生徒たちが走ったり、鉄塊を持ち上げたりしている。
「進級しても、俺はやることないなぁ」
気持ちがフワフワしていた。ただ、馴染めない集団のなかに身を置くよりは、どこにも所属していない方が気は楽だろう。

通学路沿いの公園にはカップルがたくさんいる。皆堂々としたもので、パートナーは神託を通じて知らされるから、誰も反対する余地はない。最善の相手が選ばれるものと人々は信じているし、実際に、夫婦やカップルの喧嘩というものは見たことがなかった。
と、カップルのなかに見知った顔があった。コタニとシマダだ。クラスメイトで結ばれていたのか。コタニがこちらに気づいて話しかけてきた。
「こんばんは。ぼくたち、1週間前に精霊によって結ばれたんです。今度中等部を出たら結婚して、子どもをつくるよう神託を受けました」
「へぇ、それはおめでとう」
彼らに似た笑いをつくってみる。興味のない話だと、案外うまく表情がつくれる気がする。
在学中に結婚と出産を済ませるカップルはさほど珍しくない。自分が子どもをもつことなんて想像もできないし、神託があったからといって「はいそうですか」と子どもをつくれるとも思わないけれど、皆そういう不安とは無縁らしい。
「シマダは怖くないの?」
「怖い? なぜですか?」
目をぱちくりさせて聞き返す。やっぱり微塵も恐れていないのだ。
「いや、ごめんなんでもないんだ。じゃ、お幸せにな」
背後から二人が自分にどんな目を向けているのか、なんとなく想像できた。例の無の表情をしているにちがいなかった。

「ユナも誰かと結婚して子どもを産むのかなぁ」
胸がズキズキうずいた。知らない誰かとユナが神託で結ばれることを、自分がすんなり受け入れられるとは思わなかった。こういう感情も、普通とは違うのだろうか?
いっそ神託で自分とユナが結ばれてしまえば――なんだかそれも、釈然としないのだった。

帰ると玄関の明かりが消えている。
「あれ、誰もいないのか?」
屋内も静まりかえっている。と、今日は誕生日だったことを思い出す。「教えなーい」とはしゃぐユナの顔がよぎった。
少し心の準備をしてから大広間のドアを開ける。「15歳、おめでとう!」想定していた歓声はなく、かわりにただただ暗い部屋。
「なんだよ、みんなどこ行っちゃったんだ」
明かりをつけた瞬間、目に飛び込んできたのは巨大なサンゴ状の化け物――触手のようなものを伸ばし、ユナに巻き付け持ち上げている。
「ハル、逃げて……」
もうろうとした様子でユナが呟く。
「ユナ⁉ 何なんだよこれは!」
駆け寄ろうとした瞬間、死角から腹に衝撃が走り、反対側に吹っ飛ばされる。
「なんだ、もう一匹いましたか」
体にぎゅるんと触手が巻き付く。体がしびれ、思うように抵抗できない。
目の前に男の足。見上げようとするが顔が見えない。
「ふざけんな、なんだこれ」
「そう声を荒げないでください。あなたも同じところに連れていってあげますよ。まぁ、五体満足での再会とはいかないかもしれませんが」
一体、何なんだこれは。自分たちが何をしたっていうんだ。腹に溜まる熱は、これっぽっちも力になってくれない。
「ごめんね、誕生日なのに……」
申し訳なさそうな表情のまま、ユナはサンゴのなかに取り込まれてしまった。
「は? どこにやったんだよ! ユナを返せ!」
「ずいぶん傲慢な人ですね。彼女はあなたの所有物ですか? まぁ、なんにせよ安心してください。あなたにも彼女にも、革命の歯車としての役割が与えられるのですから」
「意味分かんねぇよ。そんなこと、誰も望んじゃいない……」
意識がもうろうとしてきて、声がうまく出せなくなっている。
「本当に? あなたからは、ヘドロみてぇな臭気が立ちこめていますよ? 怒りと不満がドロドロになった、極上のニオイだ。きっと、世間でも鼻つまみ者でしょう。自覚していないようですが、本当のところ、こんな世界は滅びればいいと思っているのでは?」
クラスメイトの、あの目。得体の知れない神さまへの信仰。たしかに世の中には気に入らないことだらけで、腹の底にはドス黒い感情が吹きだまっている。
体が熱く、意識が飛んでしまいそうだ。鼓動が早い。喉が渇く。自分が、自分ではなくなっていく――。
「それでも、世界を否定したらダメ」
……ごめん、やっぱり、本心からはそう思えない。
世界がどうなろうと、知ったことじゃないんだ。
ただ、ユナに、感謝の気持ちを伝えなきゃ。
意識が飛ぶ瞬間、頭のなかに光が満ちた。

ハルを縛っていた触手がちぎれる。
立ち上がったハルの全身を、黒と橙の光が、禍々しい甲冑となって包んでいる。
「……ふぅん。まさか自分で目覚めるとは。これは是が非でも連れ帰らねばいけませんね」
サンゴが繰り出す無数の触手を、橙の光が正確に撃ち落としていく。
「覚醒したばかりでこの適応度……早めにカタをつける必要がありそうだ」
突然、サンゴが溶け出したように空間に伸び広がり、ハルを覆った。同時に、内側から無数の砲台が生え、ハルの体に向けられる。
「死ぬことはないでしょう」
一斉射撃がモロにハルを捉える。衝撃のあと、サンゴは元の形状に戻り、煙が一気に立ちこめた。
「なんだその形は……⁉ エネルギーを吸収しているのか?」
煙から現れたのは、巨大な黒い風船のようになったハルだった。ボコボコと何かが煮えたぎるような音とともに、風船は脈打ちながら再度ハルの形態に戻っていき、同時に巨大な砲身を形成した。瞬間、放出されるエネルギーの束。サンゴは跡形もなく消失した。
「……これは、少し手に余りそうですね」
ハルがそちらに向き直った瞬間、男はふっと姿を消した。
ハルを覆っていた光が消えて、バタンとその場に倒れ込む。

「おじゃましますよぉー」
ドアから入ってくる男と女。
リビングに倒れているハルを見て、女が気だるそうに「ネガ因子の反応、1つはコイツだな。もう1つはどこ行った?」と呟く。
「もしかすると、戦っていたのかもねぇ」
飄々と男が返す。
「いや、クソめんどくさそうな状況じゃん」
「ともかく、この子に話を聞くしかないね」
「まぁ、野放しにできねぇしな。しっかり縛り付けておかねぇと」

ハルが目覚めたのは、真っ白い部屋のベッドの上だった。
ちょうど体を起こしたテーブルの上に、〈起きたら↓のボタン押して♪〉という置き書きと、ブザーのような装置があった。
「何だコレ。いや、そうだ、ユナたちは……」
ベッドから飛び出し、窓を開ける。あたりは真っ暗で、林の影がうっすら見えるだけだった。
あの化け物に連れてこられてしまったのか?
だとしたら、他の皆は――部屋から出ようとした途端、黒い眼鏡をした白髪の男が入ってきた。
「お、お目覚めだね。ボタン押してくれればよかったのに」
「ユナはどこだ!」
「孤児院の子かい? 君に聞こうと思っていたんだけど……」
「一体どういう……」
「困ったな。ちょっと話を整理しよう。ぼくはオサダ・ハヤト。『ヴェヒター』という機関の人間だ。ここも、その機関の施設」
「ヴェヒター?」
「奇妙な力を使う人間を見なかったかい? そういう力を使う人間のことを、ここでは『ネガ』と呼んでいる。暴走するネガから、神の秩序を守ることがぼくらの使命だ」
「……サンゴみたいな化け物が、ユナを飲み込んだ。ほかのみんなも、多分」
「そうか。辛かったね」
「あれは、何なんだよ。みんなは……」
「おそらく、社会の転覆を目論むネガの集団だ。『リベラ』と名乗り、ここ最近、ネガ因子の強い子どもたちの誘拐を繰り返している」
「ネガ因子?」
「人間のなかにある、否定的な感情とでも言えばいいのかな。本来、誰でもその因子を持っているんだ。でも、洗礼を通じてそれを抑えることができる」
院長の話を思い出す。親がいないと、洗礼の効果が落ちる……。
「孤児院の人間は、ネガ因子をもちやすいってことか? ふざけてる」
「それは正確じゃないな。洗礼によって抑えたネガ因子は、一定以上の負荷によって爆発することがある。大事な人との死別や、仲間からの裏切り、大きな挫折……そういう契機があれば、誰でもネガの能力に目覚める可能性があるってこと」
「どっちにしろふざけてる。孤児院の人間は辛い目に遭っていることが多いから、手っ取り早く能力に目覚めさせようって話だろ? そんな話あるかよ、踏んだり蹴ったりじゃねぇか……」
一瞬、ユナが化け物のようになって人を傷つけるイメージが過る。信じたくないが、あの男の言葉からして、リベラという組織は孤児院のみんなをそういう風に利用するつもりなのだ。
「……そういう意味では、ぼくたちも同罪かもしれないな。ぼくたちも、ネガの力で彼らに対抗しようとしているわけだから」
「あんたもそうなのか?」
「そうだね。ヴェヒターの仲間はみんなネガだ。まとまりのない集団だけどね」
「ネガだからって、人を傷つけるわけじゃないんだな」
少し安心する。ユナならきっと大丈夫だ。
「うん、というか、君だってそうだろ?」
「は? 俺が?」
「記憶がないのか? 孤児院には、最初1つのネガ反応があった。急行している間に、反応が2つに増えたんだ。それが君だろ?」
「サンゴの触手に縛られて、そのうち意識を失って……気づいたらここにいた」

突然ドアが開いた。
「無自覚に覚醒したなんて、信じられねぇわ。やっぱそいつ、処分しちゃおう」
顔中ピアスだらけの……女? 中性的な顔立ちだが、座った目でこちらを睨んでいる。

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