「若者の車離れ」などどこ吹く風!新型シビックが提示する運転の楽しさとは

ホンダ・シビックの売れ行きが好調らしい。しかも、購入層は20代の割合がトップであり、MTの比率も35%だというから驚きである。

SUV全盛のなか、背の低いセダン(正確にはハッチバックだが)タイプのMTを若者が選択しているというのは、業界にとって明るいニュースのように思われる。「走り」をウリにし、利便性の高くない350万円~400万円の車を、20代が積極的に選んでいる。「若者の車離れ」もどこ吹く風である。

しかし実際のところ、上のような傾向は、先代シビックにおいても見られたものである。先代シビックのトップ購入層が20代であったこと、MT比率が3割ほどであったことは、以下の記事に記載がある。

シビックはその歴史において、つねに若者向けの車であり続けてきた。とりわけ3代目の「ワンダー」、4代目の「グランド」は、環状族と呼ばれた暴走族たちに絶大な人気を誇り、その後のEG型・EK型も、いまだに走り屋たちに愛される名車であり、中古車価格は高騰しっぱなしだ。80年代から00年代にかけて、シビックは車好きの若者が最初に手に入れるチキチキマシンだった。

現在、シビックというと、やはり真っ先にイメージされるのは「タイプR」の存在である。エンジンから足回りから、至る箇所に専用設計が施され、そのままサーキットに持ち込めるようなスパルタンな仕様になっている。タイプRが設定されたのはEK型からであるけれども、その速さはライバル車種のなかで群を抜いており、「安く手軽にタイム出すならこれ一択」という状況だった。ちなみにぼくはそのライバル車種にあたるAE111型レビンに乗っていたが、タイプRはちょっともう次元が違っていた。ネジが外れているのだ。はじめから、サーキットしか想定していないような車だった。

EKの印象、さらに「FF車ニュル最速」を誇った先代の印象から、タイプRは「別格」として扱われるわけだけれども、ぼくが思うに、シビックの本質はつねに「非タイプR」の方にあり続けてきたのではないかと思う。

軽量ボディに、運転初心者でも扱い切れるパワー。クイックなハンドリングに、取り回しのいい車体。普通に運転していて、「あ、運転してるわ」というシンプルな喜びが感じられる。免許をとって、これまででは考えられなかった大きさのものを操る。ミニバンやSUVじゃ、鋭敏な身体感覚にはダルに感じられる。高級車じゃ気後れするし、ガチのスポーツカーじゃ操りきれない。新しく手に入れるオモチャとして、一番飽きが来ないのがシビックという車だ。

シビックが優れているのは、時代の変化にともない、若者の趣向をしっかりフォローしている点である。86なんかは「若者向け」を謳ってはいるものの、実際にメインの購入層となっているのは「あの頃をもう一度」というオッサン達であり、価値観を再生産しているに過ぎない(もちろん、私のようなオッサンにはそれが嬉しいわけだけれども)。

80年代から90年代にかけては、吹けば飛ぶようなペラペラボディに、刺激的な高回転型エンジンの組み合わせがシビックの特徴だった。荒ぶりたいニーズにバッチリ応えていたわけである。今のシビックは、高剛性ボディに最新の安全装置、パワーバンドの広いエンジンと、方向性としては真逆のものになっている。車でヤンチャしたい若者などほとんどいないのだ。普通に走るだけでも、楽しい車は楽しいのであり、ちゃんとそれを理解できる若者は一定数存在する。先代に続き、新型シビックもその需要をしっかり受け止めたわけである。

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