ウーレイはトーマスを酷使する

息子のウーレイは電車が好きである。毎日「カッカー(カンカン、踏切のこと)」と叫んではリモコンをこちらに差し出し、電車のYouTubeを見せるようにせがんでくる。

数ヶ月前、私の母、すなわちウーレイの祖母からプラレール一式とトーマスをプレゼントされ、それなりにお気に入りである。ただし、線路の方は組み立てるそばから破壊されてしまうので、トーマスはもっぱら道なき道を走っている。たまにソファーの下まで潜り込み、手の届かないところで虚しくカタカタ音を立てていたりする。クイックルワイパーで救出しようとするが、棒好きのウーレイはそれまでトーマスの行方を案じていたにもかかわらず、すぐさまクイックルワイパーの奪取を試みてくる。トーマスは人知れずカタカタいっている。

たまにウーレイはスイッチの入っていない状態のトーマスを、テーブルの上で走らせている。そのうち飽きてスイッチを入れるようトーマスを差し出してくる。

希望通りにしてやると、ウーレイは前進しようとするトーマスをしきりに後退させようとし、ギギギギギ、といかにも機関にダメージが蓄積していそうな音をたてる。次にウーレイはトーマスをウィリー状態にして後輪のみをテーブルに接地させる。駆動輪を押さえられたトーマスは笑顔のままブブブブブ、と不気味に振動する。機関車というより魚類を思わせるムーブである。

手に伝わる振動ゆえか、このときのウーレイはゴルゴよろしく眉間に皺を寄せている。不気味な感触だが、確かめずにはいられない、そういう表情のようにも見える。振動するトーマスと、しかめっ面のウーレイ。焦点が一つでは足りない。

ウーレイが生まれてこなければ、トーマスが笑顔のまま振動する画を目にすることもなかっただろう。当然のことだが、乳幼児にとって多くの事物はその用途において未だ発見されていないのであって、逆に言えば成長というのはものごとを連関において捉えられるようになることを言うのだろうけれども、連関からの逸脱、それはひとつのポエジィであって、振動するトーマスも一箇のポエジィなのである。

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