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真心の生きざま 『コスメの王様』

花隈の駅には降りたことがない。阪急三宮から降りれば元町商店街にも行けるし「神戸」を感じるところはたくさんある。
だからこの本を読むまでは花隈を知ろうともしなかったりする。

世の中には自分ではどうにもできないことがある。ハナは牛以下の値段で花街に売られること、利一は家庭の事情で進学をあきらめないといけなかったこと。どちらも自分の力ではどうにもならない現実があった。
ただ二人は置かれた場所で真心をもって生きていた。おごらず、人を憎みすぎず、自分を責めすぎず。
そうやって生きている二人が手を取り合おうとしたタイミングでまたどうにもならないことが起こってしまう。
そんな中でも二人はお互いの真心を通して生きていく。

真心をもって生きることが自分の行動理念になることもあればそうあり続けねばならないといけない呪いにもなる。自分の本当の願いも気持ちも箱に詰めて。顔もそれ用に作り続ける。人間は化け狸とそうそう変わらない。
化け狸が狸になれるタイミングは人にどれくらいあるんだろう?利一はすべてを失った後に狸に戻ったハナに出会うことで狸に戻れた。合わせ鏡のような二人に戻れた。奇跡に近いそれを読者だって望んでいたと思う。

毎日が吉日。
出会いのきっかけを作った花隈の街で二人は残り少ないかもしれない日々を生きていたのだろうか。彼らが生きている痕跡は今の花隈にもあるのだろうか。
今度行ってみようかと思う。激動の時代を生き抜き今も花やく神戸の街を、花隈の街を。

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