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リングラン叙事詩 外伝 焦愛の人

 アルフレッド おーちゃん
 ラトリア(アルフレッドの恋人) りさ
 ニィール(ラトリアの弟) しいのみ

0)モーリスタティア戦士団詰め所

アルフレッド 私がですか・・・

アルフレッド(N) 突然の戦士団長からの呼び出しに驚きながらも参上し、スレイアール帝国の要塞都市バアルの偵察隊の指揮を任されることとなった。その数日前。

0)ラトリアの家

ニィール 兄さん、今日も剣の訓練付き合ってよ

アルフレッド ああ、随分張り切っているな。

ニィール だって、僕も戦士団に入りたいから、もっと訓練したい。

アルフレッド 俺だってまだ、戦士団じゃ新米だぞ。

ニィール そんなことないよ。昔から兄さんは強かったじゃないか

アルフレッド それは近所での話だよ。戦士団にはすごい方達がたくさんいる。

ニィール そうなの?じゃあ負けないようにもっと訓練して。

ラトリア ニィール。アルフレッドをそんなに困らせないの。ねえ。

ニィール えー兄さん、困ってるの。

アルフレッド いいや。困ってはいないから食事を済ませてからにしよう。

ニィール はーい。

ラトリア アルフレッド。いつも弟がごめんね。

アルフレッド 全然。むしろ頼ってくれるのは嬉しいよ。俺は一人っ子だから本当に弟がいるようで嬉しいし。それに二人で住んでいるこの家にいるのは、もう当たり前だしね。

アルフレッド(N) ここは幼馴染のラトリアの家。俺は普段自宅にいるよりも、ラトリアの家にいることが多かった。ラトリアの両親は既に他界しており、弟のニィールとの二人暮らした。そして俺にはもう母親はいない。そして父親は騎士団に在籍し、普段はモーリスタティアの王室警護の任についており、家へはあまり帰ってこなかった。もちろん俺も普段はモーリスティアの戦士団の一人として城内守備として勤務していた。しかし、スレイアール帝国がザスアル王国を滅亡させたことにより、対スレイアール帝国の侵攻を迎撃する部隊に入ることとなった。

0)食後

ラトリア アルフレッド。リングラン島はどうなるの。

アルフレッド ああ、スレイアール帝国がこのモーリスタティアへ攻め入ることは十分考えられる。だからこそ、俺たちが頑張らないといけないんだ。

ラトリア アルフレッドも戦地へ向かうの。

アルフレッド ああ、早晩モーリスタティア北の砦の守備に配属されると思う。

ラトリア ・・・そう。

ニィール え、兄さん。しばらくここを離れるの。

アルフレッド ああ。でも心配はしないでいいよ。モーリスタティアは絶対にスレイアール帝国に負けることはないよ。

ニィール そうじゃない。僕が心配しているのは兄さんのことだよ。だって戦争に向かうんでしょ。ダメだよ。もしかし(たら

ラトリア (被せるように)ニィール。やめなさい。アルフレッドが困るでしょ。

アルフレッド いいんだ、ラトリア。ニィール、俺は必ず無事戻ってくるよ。

アルフレッド(N) そうは言ったものの、ザスアル王国のことを考えると無傷でいられるとは考えられない。相手は多分妖魔たちになる。決して楽な戦いじゃない。ただ、二人を安心させるためにはこういうしかなかった。

アルフレッド ニィール、じゃあ訓練しようか。

ニィール うん。

0)戦士団詰め所

アルフレッド 偵察隊であれば、私よりも力量がある方が多いのではないでしょうか。いえ、不満ではありません。驚いたというところが正直なところです。お任せいただき光栄です。命に代えても無事任務を全ういたします。

アルフレッド(N) 私がバアル偵察隊の隊長・・・。こんな大役、私で良いのだろうか。戦士団長が言うには、若手の中でも優れた能力を持つ者として軍事会議で選抜されたと言われたものの自分でもその事実を理解するまでに時間がかかった。

0)深夜のラトリアの家

「ラトリアが持った皿を落とす音」

ラトリア ・・・バアルへ・・・?

アルフレッド ああ、陽が上った頃、ここを出発する。もちろん一人ではなく、魔術協会と正教会から一名ずつ、手練れの傭兵を一名での隊になる。

ラトリア ・・・そう、なの・・・。

アルフレッド そんなに心配しないでくれ。あくまで偵察だ。もちろん途中で妖魔と相対する時もあると思うが、仲間がいれば大丈夫だよ。

ラトリア ・・・でも、いつまでかかるのかはわからないのでしょう?

アルフレッド そうだね。でもこれだけの大役を任されたのは戦士として光栄なことだよ。絶対に任務を全うして、必ず帰ってくるから。

ラトリア ・・・当たり前・・・。

アルフレッド えっ

ラトリア 当たり前って言ったの。だって貴方ほどまっすぐな人はいないわ。きっと、与えられたことを全うするはずだもの。だから必ずここへ帰ってくるって信じてる。

アルフレッド ありがとう。ニィールにはこのことは黙っていてくれないか。

ラトリア そうね、あの子のことだからきっと貴方を離さないと思うから。安心して出発して。

アルフレッド ああ。出発は明日の早朝。ラトリア、これを。

ラトリア これは。

アルフレッド 幼い頃、父からいただいた短剣。必ずこれを受け取りに帰ってくる。だからそれまで預かっていてくれ。

ラトリア うん、わかった。くれぐれも気をつけて。貴方は真っ直ぐ過ぎて、時々周りが見えなくなるから。

アルフレッド え、そうか?

ラトリア どれだけ貴方と一緒にいると思っているのよ。お見通し。

アルフレッド まいったな。ラトリアには敵わないよ。それではこれで。短剣、頼むよ。

ラトリア はい。いってらっしゃい。

アルフレッド いってきます。

0)アルフレッドOUT

ラトリア いってらっしゃい・・・待ってるから、ずっと待ってるからね・・・。

ラトリア(N) アルフレッドに余計な心配をして欲しくなかったから気丈に振る舞っていたけれど・・・この短剣をみているだけで涙が溢れてくる。

ラトリア (息を殺しての嗚咽)うっ・・・うっ・・・お願い・・・無事に・・・帰ってきて・・・お願い・・・ 

0)翌朝、ラトリアの家

ニィール 姉さん、おはよう。あれ、兄さんは?

ラトリア もうお城へ戻ったわ。しばらくは帰ってこれないって言っていたわ。

ニィール えー。僕見送ってないのに。あれ、姉さん、あれ・・・。

ラトリア 何?

ニィール なんで兄さんの短剣がここにあるの。あの剣は兄さんが肌身離さず持っている大切な剣だよ。僕にだって貸してくれなかったのに。

ラトリア あ、あれはね・・・。

ニィール ・・・もしかして、兄さん・・・ねぇ!姉さん、兄さん戦争に行ったの?いつ行ったの?

ラトリア ・・・ニィール・・・。

ニィール 姉さん!教えてよ!

ラトリア ・・・そう、アルフレッドはこの国を守るために出かけたわ。必ず帰ってくるって約束してくれたわ。

ニィール そんなこと言ったって、戦争だよ!・・・もう会えないの?・・・

ラトリア ニィール!そんなこと絶対に言っちゃダメ!アルフレッドは必ず帰ってくる。それまで一緒に待ってましょう、大丈夫だから。

ニィール ・・・全然大丈夫じゃないよ。だったらなんでさっきから泣いているのさ。

ラトリア これは・・・

ラトリア(N) 何も言えなかった。抑えようとしても流れる涙はとどめなく流れていった。でも私たちにできることは、ここで待っていることだけ。

ニィール (泣きながら)兄さん・・・なんで僕に何も言わないでいっちゃうんだよぉ!!・・・

0)モーリスタティアの王城への途中

アルフレッド ニィール、ごめんな。何も言わずに。ラトリア、必ず無事で帰ってくるから、必ず。

0)ラトリアの家

ラトリア ニィール、ほら食事しなさい。

ニィール いらない。

ラトリア ニィール・・・

ニィール 兄さんも姉さんも嫌いだ。僕だけ除け者にして。二人とも嫌いだ。

ラトリア ・・・。

0)スローデン

アルフレッド(N) 仲間と一緒にスローデンまでやってきて、ギリアムという力強い味方を得た。これでさらに安心だよ、二人とも。

アルフレッド(N) そうして、俺たちは途中のクルードで妖魔と交戦。フシラズの森を北上し、ミノタウロスの洞窟での激しい戦いの後要塞都市バアルまでやってきた。バアルの近辺に辿り着いた時・・・

————————本編から
カーン ガルハースが先陣を切っているだと・・・

ギリアム どうやら自らリーデランドへ先鋒をつとめるようじゃな。もう進軍がはじまるとはな。

アルフレッド 騎士団の多くが東征(とうせい)を始めるとは・・・では、なんてことだ。モーリスタティア側には妖魔軍が進軍することになる。このことを早くモーリスタティアに伝えなければ・・・。

ギリアム そうは言ってもここから、モーリスタティアの北の砦に伝えるのは最早(もはや)間に合わん。
—————————

アルフレッド(N) 妖魔の軍勢がモーリスタティアへと攻め込むことが確実になったが、そのことを同行するルークスの使い魔のおかげでモーリスタティアへ伝えることができた。バアルの状況は伝えられたがこれだけでは伝える情報が少なすぎる。

—————————本編から
ルークス 私たちがこのままバアルへ向かっても軍勢を抑えることは到底できません。であれば、私が使い魔を通じて情報を伝えることができる間に、スレイアール帝国の王都デムニアに向かうのはいかがでしょうか。
—————————

アルフレッド(N) こうして、スレイアール帝国帝都デムニアへ向かうこととした。

0)ウルの市場

ラトリア(N)あれから、ニィールはすっかり塞ぎ込んでしまった・・・。せめて何か栄養になるものだけでも食べさせないと・・・。そうして市場を見て回っていた時に、噂話が耳に入ってきた。

ラトリア ・・・え・・・妖魔がこの国に攻めてくる?・・・それじゃアルフレッドはどうなるの?

ラトリア(N) バアルから妖魔が攻めてくる。それでは偵察に行ったアルフレッドはどうしているのだろう。いやな予感だけが頭をよぎる。

ラトリア だめ・・・アルフレッドはきっと元気でいる。絶対に元気でいる。でも・・・

0)ラトリアの家

ラトリア ニィール、帰ったわよ。どこにいるの?

ニィール ・・・。

0)部屋の隅で座っているニィール

ラトリア そんなところに座ってないで、食事にしましょう。

ニィール ・・・。

ラトリア ニィール・・・。

ニィール 姉さん。

ラトリア 何?

ニィール 姉さんは、好きな人が帰ってこなくても平気なの?

ラトリア え?ニィール、何言ってるの。

ニィール 僕にだってそれくらいはわかるよ・・・。

ラトリア ・・・そうね、アルフレッドのことが好きよ。でもアルフレッドは今、頑張ってる。きっと精一杯頑張っている。それなのに私たちが落ち込んでいていいと思う?ニィール、いい加減にしっかりしなさい。貴方はアルフレッドがしてくれた訓練を忘れたの?強くなりたいって言っていたことを忘れたの?そうしていつまでもいじけていてアルフレッドが喜ぶと思うの?

ニィール ・・・姉さん・・・。わかった、僕もっと強くなる。兄さんが帰ってきた時に、強くなったって言ってもらえるように頑張る。

ラトリア うん、そうね。小さい戦士さん。

ニィール 小さくないよ!

ラトリア そうね、ごめん、ふふふ。

ラトリア(N)アルフレッドが出発して、初めてこの家に笑顔が戻った。あの人が戻ってきた時には、必ず笑顔で迎えよう。泣いている暇なんてない。そうして、さらに時間は過ぎていった。

0)ウル

ラトリア え・・・スレイアールにこの国の軍が勝ったって本当ですか!

ラトリア(N) モーリスタティアが勝ったということは、アルフレッドが帰ってくるのも早くなるかもしれない。早く・・・早く・・・無事で帰ってきて。お願い。そう、気丈に振る舞い続けるのも限界を感じていた。でも私がここで折れてしまったらニィールを守れる人がいなくなってしまう。お願い、アルフレッド・・・。どうか早く無事で帰ってきて。

0)デムニア

アルフレッド(N) モーリスタティアの連合軍の様子がわからなくなってどれくらいの時間が経っただろう。モーリスタティア・・・ラトリアとニィールは無事でいるだろうか。心配の気持ちで胸が締め付けられる。ただ、俺がその心配に潰されるわけにはいかない。必ず、生きてラトリアの元へ帰る。だから、もう少しだけ待っていてくれ。

0)ラトリアの家

ラトリア ニィール、どこにいるの?

ニィール あ、姉さん、モーリスタティアは勝ったんだよね。友達のお母さんが言ってた。

ラトリア うん、そうね。

ニィール じゃあ、兄さんももうすぐ帰ってくるよね!

ラトリア そうね。きっともうすぐ帰ってくるわ。

ラトリア(N) 言葉ではそう言ったけれど、偵察に行った部隊の話は噂程度しか耳にできなかった。スレイアールの国内に入っていったという話が断片的に聞こえてきるけれど、はっきりはわからない。何もわからないことで、心が締め付けられるように痛い。ねぇ、アルフレッド。貴方は今どこにいるの。今どうしているの。

0)デムニア

アルフレッド(N) 熾烈を極めたサルーデンとの戦いも終わり、スレイアールの騎士団長であるガルハースがスレイアール国王となった。これで安心してモーリスタティアへ帰れる。やっと・・・やっと終わったよ、ラトリア。

0)ラトリアの家

ニィール 兄さん、まだ帰ってこないね・・・。

ラトリア 大丈夫、きっともうすぐ帰ってくるわよ。だってあの人が大切な短剣を受け取りに帰ってこないわけないもの。

ニィール そうだよね、きっとそうだよね。兄さんもうすぐ帰ってくるよね。

ラトリア ええ。

ラトリア(N) そうしてまた数日の時が経った。相変わらずアルフレッドの消息は聞こえてこない。ふと、アルフレッドから預かった短剣を手に取った。私にはズシリと重い。この短剣を預かった時のことを思い出すと、自然と涙が溢れてくる。だめ、ここで泣いてしまってはだめ。ニィールに、あの子を不安にさせるわけにはいかない。大丈夫、私は大丈夫。アルフレッドも絶対に大丈夫。・・・でもね・・・

ニィール そうだ、僕、庭で訓練してくる。もっと頑張って強くならなきゃ。

ラトリア そうね。頑張って、戦士様。

ニィール うん!

ラトリア(N) そうして部屋に一人で短剣を持ちながら目を瞑っていた時に、外からニィールの大きな声が聞こえた。

ラトリア ニィール、どうしたの?・・・えっ・・・

ニィール 姉さん!やったーやったよー!兄さんが、兄さんが帰ってきた!

アルフレッド ラトリア・・・ごめん、長いこと待たせたね。

ラトリア アルフレッド・・・本当に貴方なのね。

アルフレッド ああ、無事に任務を終えて、預け物を受け取りに来たよ。

ラトリア これでしょ。大切に持っていたわ。

アルフレッド ありがとう。無事に帰ってきたらどうしても伝えたいことがあったんだ。

ラトリア 伝えたいこと・・・?

アルフレッド そう、この旅で何度も何度も君の顔を思い浮かべて、その度に勇気をもらった。頑張ってこれた。

ラトリア ・・・。

アルフレッド これからも俺に勇気を与えてほしい。

ラトリア うん、もちろんよ・・・。

アルフレッド だから、生涯君のそばにいさせてほしい。

ラトリア え・・・。

アルフレッド 結婚してほしい。君を生涯守ることを約束する。

ラトリア アルフレッド・・・もちろん、私を守ってくれるのは、貴方だけなんだから。愛してるわ。

アルフレッド 俺も、君を愛してる。

ラトリア(N) 涙腺はとうに決壊していた。我慢していた涙が止まらなかった。

ニィール ねぇ、二人だけで話してないで、僕にも兄さんの話を聞かせてよ。

アルフレッド そうだな、何から話そうか。

ニィール えーとね・・・二人はいつ結婚するの?

ラトリア ちょっと、ニィール!

ニィール あー姉さん、顔真っ赤!(笑)

ラトリア もう!

アルフレッド まぁ、家に入ってゆっくり話そう。


ラトリア あ、そうだ、まだ言っていないことがあったわ。

アルフレッド なんだい?

ラトリア おかえりなさい!私の愛する戦士様!


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